バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
アメリカの大砂漠を渡り歩く旅の終盤、パッチの村の入り口を目前にした荒野の岩場で、俺たちは最悪の伏兵に遭遇した。
「ヒャーハハハ! 見つけたぜ、麻倉葉! それにハオ様が気に留めていた妙な野良(モブ)も一緒か!」
現れたのは、ハオの部下である『ハオ組』のシャーマン数名。
彼らは葉たちを、そして飛行機でハオに目を付けられた俺――御門 蓮夜(みかど れんや)をまとめて始末し、ハオへの忠誠を示そうと夜襲を仕掛けてきたのだ。
不気味な笑い声を上げて襲いかかる彼らに、リゼルグが激しい憎悪を瞳に宿して飛び出すが、多勢に無勢で窮地に追い詰められていく。
(クソ、サクヤ、物陰から『神鳴の一矢』で掠め撃つぞ)
《いつでもいけます、蓮夜》
俺が裏からハオ組を狙撃しようとした――その瞬間だった。
パァァァァァンッッッ!!!
夜の荒野を、冷徹で神聖な『純白の光』が切り裂いた。
現れたのは、白装束の軍服を身に纏い、機械的な天使を従えた一団。ハオを滅ぼすことのみを絶対の正義とする組織、『X-LAWS(エックス・ローズ)』。
「ハオに連なる悪の芽に、法と正義の『裁き』を。――殺れ、ミカエル」
リーダーであるマルコの冷酷な一言と共に、天使のオーバーソウルが容赦のない光の弾丸を放った。
葉たちが「待て! もう勝負はついたろ!」と止めるのも聞かず、エックス・ローズは圧倒的な武力によって、ハオ組のシャーマンたちの持霊ごと、その肉体を一瞬にして跡形もなく消し飛ばしたのだ。
死、という絶対的な拒絶。目の前で繰り広げられたあまりにも残虐な『正義の裁き』に、まん太は恐怖で震え、葉は怒りに拳を握りしめる。だが、ハオへの激しい憎悪に狂っていたリゼルグだけは、その圧倒的な力に強く魅了されていた。
◆
翌日。俺たちはついに目的地である『パッチの村』へと足を踏み入れていた。
世界中から集まったシャーマンたちで賑わう広場。だが、そこに響き渡った十祭司の声が無慈悲な本戦ルールを告げる。
『――これより、シャーマンファイト本戦のルールを発表する。本戦は、3人1組のチーム戦とする! チームを組めない者は、その時点で失格とする!』
「な、なんだってええええっ!?」
まん太が絶叫し、周囲がざわつき出す。葉、蓮、竜の3人が『ふんばり温泉チーム』を結成する、原作通りの流れだ。
「よし。俺は3人組の相手なんかいないから、ここでめでたく失格、リタイアだな。一般モブらしく日本に帰るさ」
「待って、葉くん、みんな」
俺が本気でホッとした瞬間、リゼルグが悲痛な、しかし引き返せない決意の瞳で声を上げた。
彼の視線の先には、昨夜の白装束の一団――エックス・ローズが冷酷に佇んでいる。
「僕は、ハオを倒すためなら悪魔にだって魂を売る。昨日の彼らの力が必要なんだ。……ごめん、僕は彼らと行くよ」
止める声を振り切り、リゼルグはエックス・ローズの元へと歩き去っていった。ハオへの復讐に狂った少年のパーティー離脱。パッチの村に到着した直後にもたらされた、冷たい決別だった。
「……行っちゃったね、リゼルグ」
葉が寂しげに夜空を見上げた、その時。
ピピッ、ピピッ、ピピッ。
今度は俺のポケットの中で、銀色のオラクルベルが異常な音量で鳴り響き、液晶画面に信じられない特例措置を表示した。
『特例措置:御門蓮夜(野良)は、魂の累積規模および十祭司カリムの推薦により、例外として【ソロ(単独チーム)】での本戦参加を認可する』
「……は?」
「えええええっ!? 御門くん、一人でチーム扱いになってるよ!?」
葉が素っ頓狂な声をあげ、道蓮が宝雷剣を握りしめて俺を凝視する。カリムの野郎、あの試験で『神鳴の一矢』を見せつけすぎたせいで、俺を危険分子として単独枠で本戦に隔離しやがったのだ。
「クク……。面白いね、やっぱり君は」
広場の奥、お土産屋の屋根の上から、ハオが全てを見透かすような瞳で俺を見下ろしていた。
「リゼルグは僕への憎しみで自ら檻に入り、君はパッチのルールすら書き換えさせた。本戦の舞台で、君が一人でどんな風に僕を楽しませてくれるか、本当に待ち遠しいよ」
(うわあああラスボスに完全にロックオンされた!! 俺の一般モブ偽装ライフ、1周目にして完全終了のお知らせじゃねえか!!)
《ふふ、蓮夜。覚悟を決めなさい。ソロ枠なら我らの超火力を存分に振るえます。本戦の舞台、派手に壊してやりましょう》
(サクヤ、お前までバトルジャンキーみたいなこと言うなよ……!)
ハオの不気味な期待と、葉たちの呆然とした視線を背中に浴びながら、俺は激しく脈打つオラクルベルを握りしめた。
一般モブとしての平穏な傍観者ルートは完全に消失した。
累積バグを持つ男・御門蓮夜の、前代未聞の【ソロ本戦参戦】という最悪で最高の原作破壊が、ここパッチの村でド派手に幕を開けるのだった。