バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第16話:『閑話:パッチの村の買い食いと、ソロ枠の憂鬱』
――パッチの村、メインストリート。
ネイティブアメリカンの伝統的な意匠と、世界中から集まったシャーマンたちの文化が奇妙に融合したその通りは、本戦を目前に控えているとは思えないほど活気に溢れていた。
道ばたにはズラリとお土産屋や屋台が立ち並び、香ばしい肉の焼ける匂いが漂っている。
「はぁ……。なんで俺がソロで本戦に出なきゃいけないんだよ……」
俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、屋台の並ぶ路地裏のベンチに座り、パッチ族特製のフライドチキンを齧りながら盛大にため息をついていた。
生まれつきバグ仕様で魂の器がデカいせいで、試験官カリムに危険分子としてソロ枠へ隔離され、挙句の果てには最悪のラスボスであるハオに目を付けられる始末。一般モブとして裏でこっそり強くなる計画は、本戦開始前にして完全に粉砕されていた。
「あ、御門くんじゃん。何食べてるのー?」
のんきな声と共に、ひょっこりと現れたのは、首にオレンジ色のヘッドホンをかけた隣の席の主人公――麻倉葉だった。その手には、これまたパッチ族名物の大きなホットドッグが握られている。
「話しかけるな麻倉。俺は今、チキンを食べる背景の一部と化しているんだ。……お前こそ、アンナの地獄のしごきはいいのかよ」
「あはは、アンナなら今はシルバとお土産の品定めに行ってるよ。だから今のうちに買い食いしとかないと、後で怒られちゃうんだよね」
葉は俺の隣のベンチにどさりと腰掛け、ホットドッグを大きな口でガブリと満面の笑みで頬張った。
リゼルグの離脱という悲しい決別があったばかりだが、いつまでもジメジメしないのが葉の良いところだ。彼はもぐもぐと口を動かしながら、俺のオラクルベルをチラリと見てくる。
「それにしても、ソロで本戦進出なんて、やっぱり御門くんは凄いなぁ。パッチのルールを変えちゃうなんてさ。オイラ、本戦で御門くんの戦いを見るの、すっごく楽しみなんだ」
「お前なぁ……。ソロってことは、3人分の攻撃が全部俺一人に集中するんだぞ? どこが凄いんだよ、ただのイジメじゃねえか。カリムの野郎、次に会ったら光の矢でデコピンしてやる」
俺が本気で嫌そうな顔でフライドチキンを骨まで齧ると、葉は「あはは、冷たいねぇ」と楽しそうに笑った。
《くすくす……。蓮夜、あの麻倉の少年は本気で貴方の力を楽しみにしていますよ。同じシャーマンとして、貴方の底知れぬ巫力にワクワクしているのでしょう》
(サクヤ、お前まで葉の味方をするな。俺は平穏に、かつスマートにこの世界を生き抜きたいだけなんだよ……)
指輪の内側で笑う持霊に心の中でツッコミを入れつつ、コーラで喉を潤す。
「まぁ、チーム戦だろうがソロだろうが、俺はいつも通り、やるべきことをやるだけさ。お前ら『ふんばり温泉チーム』こそ、初戦で無様に負けるなよな」
「うん、オイラたちも負けないよ。世界の王(シャーマンキング)になって、のんびり好きな音楽を聴いて暮らすのがオイラの夢だからね」
葉は夕日に染まるパッチの村の空を見上げ、いつもと変わらない、どこまでも真っ直ぐで呑気な夢を口にした。
彼が背負う過酷な運命を思えば、その言葉の重さは計り知れないが、この緩い空気感こそが麻倉葉という男の最大の魅力なのだと、前世の知識を持つ俺は改めて実感していた。
「……ま、お前なら本当になれるかもな、シャーマンキングに」
「え? なんか言った、御門くん?」
「なんでもねえよ。ほら、早く食わねえとアンナが戻ってくるぞ」
「うわっ、大変だ! 急いで食べなきゃ!」
慌ててホットドッグを口に詰め込む葉の姿を眺めながら、俺の頬が自然と緩む。
これから始まるのは、世界中の化け物たちが潰し合う血生臭い本戦のリーグ戦だ。だが、この隣の席の呑気な男と過ごす他愛のない時間だけは、激動の物語の裏側で、俺にとっても意外と悪くない「1周目の日常」になりつつあった。