バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
――パッチの村、人通りの少ない裏路地。
麻倉葉との呑気な買い食いタイムを終えた俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、一人で静かに村の物資調達(主に一般モブとしてのスナック菓子や飲み物)に勤しんでいた。
ソロでの本戦参戦という特例バグ仕様に頭を抱えつつも、やるべきことは変わらない。ハオの心話に引っかからないよう、常に感情の波を一定に保つマインドコントロール。これこそが、生まれつきバグ仕様で魂の器がデカい俺が編み出した、最強の隠密(ステルス)術だ。
「――そこを動くな、少年」
不意に、背後からガラスをひっかいたような、ひどく冷徹で硬質な声が降ってきた。
振り返ると、そこにいたのは、お土産屋ののどかな風景には一ミリも馴染まない、純白の軍服に身を包んだ集団だった。
エックス・ローズ。
その中心に立つ、眼鏡をかけた生真面目そうな男――天使隊隊長のマルコが、俺を冷酷な瞳で睨みつけていた。
そして、そのマルコの背後には、まだエックス・ローズの白装束に着替える前、ロンドン出身である彼本来のイギリス風トラディショナル衣装を身に纏ったまま、どこか気まずそうに目を伏せる緑の髪の少年――リゼルグ・ダイゼルの姿があった。
「……君は、たしか葉くんと一緒にいた……御門君だね」
「よお、リゼルグ。随分と格好いいホワイトな職場に転職したみたいだな」
俺がいつも通り焼きそばパンの残りを齧りながら答えると、マルコが一歩前に踏み出し、その懐から恐ろしい霊等密度を持った機械的な拳銃(媒介)を取り出した。
「リゼルグ、この男と知り合いか。パッチの十祭司から聞いたぞ。3人チームの原則を破り、ソロ枠で本戦へ強引に潜り込んだ危険な野良シャーマンがいると……。ハオに連なる悪の芽でなくとも、大会の秩序を乱す不確かな魂は、我らの正義の元に排除すべきかもしれん」
ジリジリとした殺気が路地裏に満ちる。マルコの背後で、大天使ミカエルのオーバーソウルの残滓がピキピキと空間を震わせた。
俺のセンサーが、エックス・ローズ特有の「狂信的な正義」のプレッシャーを察知する。
(おいおい勘違いするな、俺はただの一般モブだっての……! カリムの野郎、どんだけ俺のソロ枠をパッチ内で危険視して触れ回ってんだよ!)
俺は心の中で激しく冷や汗を流しながらも、あわあわと両手を挙げて降参のポーズを取った。
「待ってください、マルコさん! 彼は悪い人じゃありません! 葉くんの友達で……ただの、本当にただの、ちょっと巫力が変わってるだけの一般人なんです!」
リゼルグが慌ててマルコの前に割って入り、必死に俺を庇い立てした。その必死な様子に、マルコは眼鏡の奥の目を細め、静かに銃を下ろした。
「……リゼルグがそこまで言うのなら、今は不問に処そう。だが御門蓮夜、我らはハオを滅ぼす唯一無二の正義。もし君がハオの手を借りるような真似をすれば、その時は我らの天使の法によって、魂ごと『裁き』を執行する」
「ああ、肝に銘じておくよ。俺は悪魔(ハオ)にも天使(お前ら)にも興味はないからさ」
俺がやれやれと首を振ると、マルコはマントを翻し、「行くぞ、リゼルグ。悪を滅ぼすための、我らの聖なる特訓の時間だ」と冷酷に歩き出した。
リゼルグは最後に俺を振り返り、「ごめんね、御門君。僕、どうしてもハオを倒さなきゃいけないんだ……」と、寂しげな、しかし引き返せない決意の瞳を残して、白装束の集団の後に続いて去っていった。
《哀れな少年ですね、蓮夜。あのエックス・ローズという組織、正義を謳いながらも、その実態は復讐に凝り固まった狂気の檻です。あの少年も、いずれその歪みに苦しむことになるでしょう》
(ああ、知ってるさ。リゼルグはこれからもっと解釈違いや正義の重圧に苦しむことになる。……だが、それもあいつが世界の王(シャーマンファイト)の裏側を知るための、必要な道のりなんだよな)
俺は指輪のチャームをそっとなぞり、彼らが去った路地裏の冷たい空気を感じていた。
葉たちのような呑気な日常の裏に潜む、エックス・ローズという絶対的な断絶。
ハオに目を付けられ、エックス・ローズに警戒され、それでも一人で戦うしかない特例ソロ枠の俺。
パッチの村のぬるい日常の中にじわじわと染み込んでくる「本戦の狂気」を肌で感じながら、俺は次の第1試合に向けて、自身のバグ巫力の出力を静かに研ぎ澄ますのだった。