バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
シャーマンファイト本戦、第1試合。
ソロチーム『御門蓮夜』として登録された俺の初戦の舞台は、パッチの村に特別に用意された広大な決戦場だった。
そして、その観客席の最上段、特等席には――あのマントを羽織った少年、ハオが退屈そうに頬杖をついて見下ろしていた。
「ククク、ハオ様がわざわざ見物に来るなんてな。どれほどの怪物かと思えば、ただの一般モブのガキじゃねえか!」
決戦場の中央、俺――御門 蓮夜(みかど れんや)の前に立ちはだかるのは、ハオの配下である3人組のシャーマンたちだった。ハオへの狂信的な忠誠を誓う彼らは、ハオが俺に興味を示しているのが気に入らないらしく、嫉妬と殺意に満ちた目で睨みつけてくる。
「ハオ様の御心を煩わせるクソガキめ、3人一組のチーム戦の恐ろしさ、その身に刻んで死に晒せ!」
3人が同時に叫び、それぞれの媒介から凄まじい闇の巫力を爆発させた。
具現化するのは、連携に特化した3体の巨大な悪魔霊のオーバーソウル。前衛が突進し、中衛が死角を塞ぎ、後衛が呪術で俺の動きを完全に縛る。ソロ枠の俺に対し、完璧な数の暴力による包囲網だ。
(ハァ……最悪だ。ハオの目の前で、ハオの部下をボコらなきゃいけないこの状況……)
俺は心の中で盛大にため息をつきつつ、左手中指の指輪を静かに掲げた。
生まれつきバグ仕様で魂の器がデカい俺の、本戦仕様の全力(バグ火力)を見せる時だ。
「――オーバーソウル」
ドォォォォォンッッッ!!!
決戦場全体の地面が、凄まじい重圧によってボコボコと地割れを起こし始めた。
俺のデカすぎる魂の器から溢れ出た青い巫力は、指輪のチャームに吸い込まれ、手元で【極限まで物質化し、神々しい神聖な光を放つ、巨大な白銀の剛弓】へと変貌していく。
サクヤの霊体が弓へと完全同調し、俺の累積バグ巫力を、限界を超えて『圧縮・精錬』し始める。
「な、何だこの巫力の絶対量は!? 3人合算した俺たちの巫力を、一人で遥かに凌駕しているだと……っ!?」
ハオの部下たちが、その圧倒的なプレッシャーに本能的な恐怖で顔を引きつらせた。
「ソロってことはさ……お前ら3人の的が、最初から一直線に並んでるってことだろ」
俺は冷たい目で彼らを見据え、光の弦を限界まで引き絞った。
狙うは3人のオーバーソウルが重なる中心点。手元に収束していくのは、あのカリムやオリジナル強豪を沈めてきた、俺たちの最大にして絶対の必殺技。
「――『神鳴の一矢(かむなりのひとや)』……ッ!」
キィィィィィン……と、空間の全ての空気が吸い込まれ、真空状態の爆音と共に、太い白銀の雷撃が放たれた。
ドドォォォォォンッッッ!!!
放たれた一撃は、3人が必死に展開した複合防御壁、そして3体の悪魔霊のオーバーソウルを、文字通り塵一つ残さず正面から木端微塵に消し飛ばした。
閃光はそのまま決戦場の分厚い外壁を豪快にブチ抜き、遥か彼方の荒野の山肌を吹き飛ばして、ようやく消失した。
「がはっ……ぁ……っ」
巫力を根こそぎ全損し、持霊を強制浄化された3人は、一歩も動けないまま白目を剥いて地面に崩れ落ちた。もちろん、出力はコントロールしてあるが、本戦第1試合としてはあまりにも圧倒的なワンパンでの幕引きだった。
ピピッ、とオラクルベルが鳴り、画面に『WIN』が刻まれる。
「……パチ、パチ、パチ」
静まり返った決戦場に、ゆっくりとした拍手の音が響き渡った。
見上げれば、特等席にいたハオが立ち上がり、その切れ長の瞳に、これまで誰も見たことがないほどの強烈な「歓喜」と「執着」を宿して、俺を見下ろしていた。
「素晴らしい……! 期待以上だよ、御門蓮夜」
ハオはマントを翻すると、次の瞬間には、空間を無視した超高速移動で俺のすぐ目の前へと降り立っていた。
隣に並び立つスピリット・オブ・ファイアの熱量が、勝利の余韻を吹き飛ばすほどの恐怖となって俺を襲う。
「3人の連携を力ずくで、それもこれほど美しい一射で消し飛ばすなんてね。君のその不確かな魂の底、ますます気に入ったよ。……ねえ、蓮夜」
ハオは顔を近づけ、その底の知れない瞳で俺を覗き込みながら、そっと手を差し伸べてきた。
「そんな烏合の衆の、くだらない人間たちのファイトなんて止めてさ。――僕の仲間になりなよ。君ほどの器があれば、僕の隣に立つ資格がある」
(うわあああああああ本格的に仲間に引き込もうとしてるじゃねえか!!)
最悪のラスボスからの、直々のスカウト。
俺はあわあわと冷や汗を滝のように流し、頭を抱えて全力で後ずさりした。
「い、いやいやいや! 滅相もないです未来の王様! 俺はただの一般モブのシャーマンですし、お前らの派閥争いに巻き込まれるのだけは本当に勘弁してください……っ!!」
全力で拒絶する俺のあわあわした醜態を、ハオはしばらく驚いたように見つめていたが、やがて「アハハハハ!」と、この1000年で一番楽しそうに大笑いした。
「クク……、本当に面白い男だね、君は。これほどの力を持ちながら、最後までモブでいようとするなんて。いいよ、今日のところは保留にしておいてあげる」
ハオは差し伸べた手を引っ込めると、不敵な笑みを深くした。
「でも、諦めないさ。本戦が進み、君が僕の圧倒的な力を知る頃には、きっと自ら僕の元へ来る。……楽しみにしているよ、僕の可愛い野良シャーマン」
紅蓮の炎の残滓を残し、ハオは満足げに夜の闇へと消え去っていった。
「……はぁぁぁぁぁぁっッッ!!! 今度こそマジで寿命が縮まった……!!」
俺は決戦場の床にへたり込み、激しくオラクルベルを握りしめた。
ハオの部下を瞬殺したことで、ハオの執着(仲間にしたいという欲求)は最悪のレベルまで跳ね上がってしまった。一般モブとして隠れて強くなるはずが、世界の運命のド真ん中で、ラスボスからの熱烈なアプローチに怯えるという、前代未聞の不条理な多世界周回が続いていくのだった。