バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
ハオの部下たちをワンパンで消し飛ばし、当のハオ本人から直々のスカウトを受けるという、心臓に悪すぎる本戦第1試合を終えた俺。
どっと押し寄せた精神的疲労に耐えかね、一刻も早く宿舎の自室へ戻って泥のように眠ろうと、俺――御門 蓮夜(みかど れんや)はトボトボと決戦場の裏通路を歩いていた。
だが、世の中そう甘くはない。
薄暗い通路の角を曲がった瞬間、そこにはまるで行く手を阻む壁のように、見慣れた顔ぶれがズラリと立ち塞がっていた。
「……遅かったじゃない、御門くん」
腕を組み、冷徹極まりないジト目を向けているのは恐山アンナ。
その両脇には、いつも通りヘッドホンを首にかけた麻倉葉、 影を潜める小山田まん太が控えている。
...そして、その中央で最も凄まじい殺気を放っていたのは、道蓮だった。
「おい野良。さっきの試合、見せてもらったぞ。ハオの部下を一人で一撃粉砕するあの不条理な超火力……」
ガキィィィンッ!!!
蓮は言い切るより早く、その手に握られた大真黒――『馬孫刀』の鞘を跳ね上げ、刃の切っ先を俺の喉元へ寸止めで突きつけてきた。
「お前、本当にただの一般モブを自称するつもりか!? この俺の前でこれ以上の舐めたカモフラージュは許さん。その首、今すぐここで叩き落とされてぇか!」
「い、いやいやいや! 本当に偶然っていうか、相手が一直線に並んでくれたからラッキーパンチみたいなもんでさ……!」
俺が喉元に冷たい刃を突きつけられてあわあわと手を振っていると、その蓮の横から、ワンピースの裾を揺らしたアンナが音もなく歩み寄ってきた。
「蓮、下がりなさい。その男に聞きたいのは実力のことじゃないわ」
「チッ……」
蓮が不機嫌そうに馬孫刀を引いた瞬間、アンナの切れ長の瞳が俺を捉えた。
「あんた、さっきの試合の後、ハオと何の話をしてたの?」
「いや、何って……ただの世間話だよ。『君の魂は面白いね』とか『僕の仲間になりなよ』とか、なんかそんな感じの怪しい宗教の勧誘みたいな――」
パァァァァァンッッッ!!!
――次の瞬間、俺の視界が激しく火花を散らした。
頬に走る烈火のような激痛。予備動作の一切ない、アンナの理不尽極まりない『幻の左』が、俺の顔面に完璧にクリーンヒットしていた。
「……ッてぇぇ!? な、何すんだいきなり!?」
「うるさい。ハオの勧誘を世間話だなんてヘラヘラ答えるその態度が気に入らないわ。あんた、あの化け物の恐ろしさが分かってないの?」
「分かって、大マジで分かってるから断って逃げてきたんだよ……!」
俺は赤く腫れた頬を押さえ、涙目で叫んだ。
「断るに決まってるだろ! 俺はただの一般モブだぞ!? あんな125万とかいうバグ設定の化け物の近くにいたら、いつ巻き添えで魂ごと消されるか分かったもんじゃない! 『派閥争いは勘弁してください』って全力で拒絶してきたわ!」
パァァァァァンッッッ!!!
「ギャァァァァァッッッ!!?? に、2回目!!?? なんで!!?? 断ったって言っただろ!!」
逆側の頬に、全く同じ速度、同じ軌道、同じ破壊力でアンナの『幻の左(追撃)』が狂いなく炸裂した。俺は両頬を同時に押さえながら、今度こそ完全に涙目で叫んだ。
「断ったからって、あのハオにそこまで気に入られるような目立つ真真似をしたことが罪よ。いい、次にあいつと接触したら、私の持霊で魂ごと消し飛ばすから」
アンナは冷淡な顔のまま、自分の左手をパッパと振った。生まれつきバグ仕様で魂の器がデカい俺のセンサーをもってしても、彼女の2連続ビンタだけは本当に避けられない。どこまでも理不尽すぎる。
アンナはフイッと顔を背けると、ようやく少しだけ警戒の度合いを下げた。
「……ふん。相変わらず肝の小さい男。でも、ハオを本気で嫌がってるのだけは本当みたいね」
「あはは! 良かったぁ。御門くんがハオの味方になったら、すっごく強い敵になっちゃうからさ。オイラ安心したよ」
葉がいつものへらへらとした笑顔に戻り、俺の肩をポンと叩いた。
《クスクス……。蓮夜、散々な目に遭いましたね。まさかの二連撃、私も反応できませんでした。ですが、これでひとまずは彼らの『敵』認定からは外れたようです。一般モブとしての(痛々しい)カモフラージュは守られたのではないでしょうか》
(サクヤ、お前は呑気でいいよな……。ハオからはストーカーばりに執着され、アンナからは2連理不尽ビンタ、蓮からは馬孫刀を向けられ、俺の寿命がストレスでマッハなんだが?)
俺は心の中で持霊に愚痴をこぼしつつ、やれやれと肩を落とした。
何はともあれ、これで本戦の第1勝。
全方位から目立ちまくる最悪の状況に陥りながらも、累積バグを持つ男・御門蓮夜の、波乱万丈すぎるソロ本戦リーグは、まだ始まったばかりだった。