バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第21話:『王との密約、魂のバグと千年の秘術』

 

 アイアン・メイデン・ジャンヌによる残虐な『裁き』が幕を閉じた、その日の深夜。

 俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、パッチの村の裏手に広がる、静まり返った断崖絶壁に再び立っていた。

 昼間、あの絶望的な神クラスの巫力を目の当たりにしたことで固めた『決意』。誰も俺の頭上から理不尽を押し通せないほどの、圧倒的な力を手に入れるための第一歩。そのために、俺は自ら『この世界の最大最強の不条理』をこの場所に呼び出していた。

 

「――お前、珍しいね。君のほうから僕を呼び出すなんて」

 

 夜風を切り裂き、紅蓮の火の粉と共に現れたのは、いつも通りマントを翻して不敵に微笑む少年、ハオだった。

 昼間のジャンヌの戦いなど微塵も気にしていないような、圧倒的な王の余裕。

 

「僕の仲間になる返事を聞かせてくれるのかな? 御門蓮夜」

 

「いや、お前の仲間になる気は一ミリもねえよ、ハオ」

 

 俺は感情の波を完全にフラットに保ち、冷え切った瞳でハオを見つめ返した。その態度に、ハオは面白そうに切れ長の瞳を細める。

 

「クク、相変わらず僕の霊視でも、君の思考のコアだけはノイズで弾かれる。……で、仲間にならない君が、僕に何の用だい?」

 

「取引(交渉)をしにきたんだよ、未来の王様。……お前が知りたがっていた、俺の魂の『バグ』の秘密を教えてやる」

 

 その言葉に、ハオの纏う空気が一瞬で一変した。

 千年の歴史を生き、世界のすべてを見通してきた彼が、初めて本物の「知的好奇心」を瞳の奥にギラつかせる。

 

「へえ……。僕の霊視を狂わせる、その不確かな魂の秘密、か。それは確かに興味深いね。……で、その代償に君は僕に何を求める?」

 

「お前の持つ最強の陰陽術の知識。――そして、『泰山府君祭(たいざんふくんさい)』の教えを請いたい」

 

 ドォォォォン……ッ!!!

 

 俺がその『禁忌の秘術』の名を口にした瞬間、ハオの背後に潜むスピリット・オブ・ファイアが、主の激しい感情の昂りに呼応して凄まじい熱波を放った。ハオの笑みが消え、底の知れない千年の威圧感が俺の身体を押し潰さんばかりに膨れ上がる。

 

「……驚いたな。ただの学生を気取る君が、僕が千年前の麻倉葉王だった時代に開発した、魂を転生させる究極の秘術の名を知っているなんてね。……君、一体何者だい?」

 

「だから言ったろ。俺の魂は『バグ』ってるんだよ。――俺の魂には、死ぬたびに前世の記憶を保ち、培った知識や力を内包して『次の別の世界』へ強制転生するシステムが生まれつき刻まれている。前世の俺は、お前が『麻倉葉王』として漫画に描かれていた世界で生きていた。だからお前の因縁も、未来の結末も、その秘術の価値も……すべて知っている」

 

 前世の記憶、多世界周回のシステム、およびこの世界が『物語』であるという事実の暴露。

 ハオは俺の言葉を、文字通り一言も聞き漏らさぬようにじっと凝視していた。彼の霊視は、俺が口にした言葉の裏に「一切の嘘偽りがない(大マジである)」ということだけを正確に捉えていた。

 

 世界のバグ。多世界周回者。ハオの霊視が読み切れなかった『ノイズ』の正体。

 すべてを理解したハオは、数秒の沈黙の後、肩を震わせ――そして、ククク、と低く笑い始めた。

 

「アハハハハハハハハッッッ!!! 最高だ、最高だよ御門蓮夜!! まさか僕の知らない『外の世界』を周回する魂だなんて! 僕の霊視が通じないわけだ、君の魂は最初からこの世界の理(ことわり)の外にあるんだからね!」

 

 ハオは狂おしいほどの歓喜に顔を歪め、大笑いした。彼の知的好奇心と所有欲は、今や限界を突破して跳ね上がっていた。

 

「いいよ、その取引、喜んで乗らせてもらうさ。君の言う通り、僕がこの大会でどうなるかも含めてね。……ただし、泰山府君祭のシステムはあまりにも膨大だ。一朝一夕には身につかないよ?」

 

「分かってる。このシャーマンファイト本戦の間、お前の特等席の裏で、徹底的にその技術を叩き込んでもらうさ。……お前が言う『新しいシャーマンだけの世界』とやらには付き合えないが、俺は俺のやり方で、誰にも負けない最強の力を累積(スタック)させなきゃいけないんでね」

 

 俺が左手の指輪を静かに掲げると、ハオはフッと、今までにないほど親愛の情を込めた不敵な笑みを浮かぜ、自身の右手を差し出してきた。

 

「クク……。面白い。世界の王の座なんて安いものじゃない、君というバグを僕の陰陽術でどこまで極限へ導けるか、試してみたくなったよ。……いいだろう、僕の知識のすべてを君に授けよう。僕の、愛しい“世界の外の旅人”」

 

 パチ、と闇の中で二人のシャーマンの密約が交わされた。

《……蓮夜。とんでもない男と手を組んでしまいましたね。ですが……これで我らは、ハオの千年の英知(チート)をその身に宿す切符を手に入れました》

(ああ、サクヤ。一般モブとして傍観する時期は終わった。ここからは、ハオの陰陽術と泰山府君祭の技術をこの1周目でカンストさせて、次の世界への最大の血肉にしてやるさ)

 

 オラクルベルの画面を見つめれば、明日はいよいよ本戦第2試合の開幕だ。

 ハオの狂信的な執着の裏で、最強の禁忌の秘術を貪り尽くす密約を結んだ御門蓮夜。

 原作のパワーバランスを内側から完全に崩壊させる、バグ魂の真の『強くてニューゲーム』への仕込みが、パッチの村の暗夜で、静かに、しかし最悪の凶暴さで完成しつつあった。

 

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