バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第22話:『五行の反転と、陰陽神鳴の一矢』
シャーマンファイト本戦、第2試合。
ソロチーム『御門蓮夜』として指定された決戦場は、パッチの村のすり鉢状になった岩山闘技場だった。
観客席には、麻倉葉たちふんばり温泉チームや、エックス・ローズ、あるいは特等席からこちらの出方を愉しげに凝視する、未来の王――ハオの姿があった。
「クク……、ソロ枠のバグ野郎。ハオ様に気に入られているようだが、俺たちの完璧な『三属性連携』の前に、その傲慢な光弓ごと消し炭になりな!」
対戦相手は、海外の予選を過酷な属性バトルで勝ち抜いてきた、オリジナル強豪3人組『エレメンタルズ』。
彼らはオラクルベルの鳴動と共に、それぞれの媒介から凄まじい闇の巫力を爆発させた。
「火霊(サラマンダー)!」「水霊(ウンディーネ)!」「土霊(ノーム)! ――オーバーソウル!!」
激しい爆音と共に、決戦場に燃え盛る巨大な火炎の巨兵、激流を纏う大蛇、および地面を揺らす泥土のゴーレムが具現化する。
火が土を強め、土が水を堰き止め、水が火の勢いをコントロールする――彼らなりに完成された、完璧な三位一体の属性波状攻撃。
「喰らいな、複合極大魔術――『三元災厄(トライ・ディザスター)』!!」
激流と火炎、および岩石が螺旋状に混ざり合い、決戦場そのものを消し飛ばんばかりの超質量の熱線となって、ソロの俺へと一直線に迫る。
(……フン。昨日の俺なら、これを迎撃するために『神鳴の一矢』の最大出力を撃ち合って力ずくで相殺していただろうな)
俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、迫り来る破滅の光を前にしても、感情の波を完全にフラットに保ったまま、静かに左手の指輪を掲げた。
「だが、今の俺には――千年の知識がある」
俺は魂のバグ巫力を、昨日ハオから叩き込まれたばかりの『陰陽術』の術式へと流し込んだ。
木、火、土、金、水。万物を形成する五つの属性を、完全に支配し循環させる五行の理。
「五行反転――『水克火(すいこくか)』、そして『土克水(どこくすい)』」
俺の指輪から放たれたのは、攻撃のための光ではない。空間の属性の「相克(弱点関係)」を強制的に書き換える、冷徹な陰陽の五行陣。
次の瞬間、俺の目の前で、迫り来るエレメンタルズたちの複合熱線の内側がガタガタと矛盾を起こし始めた。
「な、何だこの化け物じみた巫力は……っ!? 嘘だろ、たった一人で、俺たちの極大魔術を相殺したというのか……っ!?」
彼らの放った火炎は俺の手前で突如具現化した目に見えない「水」の気配に相殺されて鎮火し、激流は「土」の呪術に堰き止められて霧散する。
ハオ直伝の陰陽術による、完全なる戦闘IQの暴力。敵の全力を、わずか数割の巫力で完全に無効化(中和)してみせたのだ。
「馬鹿な……! 術の無効化だと!? 一体何をした、御門蓮夜!!」
エレメンタルズの3人が驚愕に目を見開いて絶叫する。
「お前らの攻撃のターンは終わりだ。……次は、俺の番だな」
俺は右手を引き、手元に【純白に輝く巨大な光の弓】を具現化させた。
だが、今回はそれだけではない。サクヤが弓へと完全同調するその裏で、俺は先ほど敵から中和し、五行の理によって自分の魂へと強制吸入した『火の巫力』を、そのまま光の弦へと上乗せして循環させた。
――五行相生(ごぎょうそうしょう)。他者の力を喰らい、己の火力を限界突破させる禁忌の増幅術式。
キィィィィィン……ッッッ!!!
決戦場全体の空気が、昼間のジャンヌの『シャマシュ』をも彷彿とさせるほどの、圧倒的な質量重圧によって悲鳴を上げ始めた。
弦に番えられたのは、眩すぎる白銀の光の中に、不気味なほどに静かな紅蓮の炎の紋章が脈打つ、特大の呪矢。
「――『陰陽神鳴の一矢(おんみょうかむなりのひとや)』」
ドドォォォォォンッッッ!!!
落雷を遥かに超えた、まるで空間そのものが地鳴りを上げて爆発したかのような大轟音。
放たれた一撃は、もはや光の矢ではない。
極限まで圧縮された陰陽術の術式と、累積バグの超火力が一つになった、神の審判とも言うべき白銀と紅蓮の巨大な光の奔流。
「ぎゃあああああああああああっ!!!」
エレメンタルズの3人が必死に再展開した3体の属性霊のオーバーソウル、および彼らの全巫力の防壁を、まるで太陽の表面に放り込まれた氷細工のように、一瞬にして形すら残さず完全に消滅(バースト)させた。
光の奔流はそのまま闘技場の巨大な岩山を文字通り綺麗に半分に消し飛ばし、遥か彼方の空の雲を割ってようやく消失した。
「はぁ、はぁ……っ。……出力はコントロールしたはずだが、やっぱりハオの術を乗せるとヤバいな」
俺が指輪を下ろすと、光の弓は静かに霧散していった。
前方の戦場には、持霊を完全浄化され、巫力全損による極度のショックで白目を剥いてぶっ倒れた3人の姿。
ピピッ、とオラクルベルが鳴り、画面に『WIN(2勝目)』が刻まれる。
「……ハハハ、見事だ! 実に見事だよ、蓮夜!」
観客席の最上段、ハオが立ち上がり、狂おしいほどの歓喜と所有欲をその瞳にギラつかせて大笑いしていた。
彼が千年前から磨き上げてきた五行の理を、わずか数日で完全に実戦へと落とし込み、さらに自分だけの『光の弓』へと昇華させてみせたのだ。
「僕の授けた知識をこれほど美しく使いこなすなんてね。やっぱり君は、僕がこの手で手に入れなきゃいけない、最高の“世界の外の旅人”だ!」
ハオの狂喜に満ちた視線、および観客席の別の場所で「御門くん、今の術、ハオの……!?」とガタガタと震えながら驚愕する葉やアンナたちの視線を一身に浴びながら、俺は赤くなった顔を隠すようにマントを翻した。
(ハァ……、ハオから学んだ術をそのまま使ったせいで、完全にハオの同類(ガチ勢)だと思われちまったじゃねえか。まぁいい……)
俺はポケットにオラクルベルをしまい込み、静かに闘技場を後にした。
一般モブのカモフラージュを完全に脱ぎ捨て、ハオの千年の英知を喰らって異次元の最強へと進化していく。
不確かな多世界周回の1周目。御門蓮夜の暴走する超火力は、本戦のすべての勢力を恐怖させながら、世界のパワーバランスを完全に崩壊させようとしていた。