バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第23話:『閑話:未来王の講義と、累積魂の結合術式』

 

 ――パッチの村、裏手の深い岩山。

 

 本戦リーグの最終戦を数日後に控え、世界中のシャーマンたちが最後の牙を研ぐ中、俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、月明かりだけが照らす静寂の岩場で、自身の左手をじっと見つめていた。

 指輪のチャームを媒介に、手元に具現化するのは純白の光の弓。

 だが、その光の弦の周囲には、前戦で実戦投入したばかりの『五行の理(陰陽術)』の術式が、複雑な幾何学模様となって幾重にも明滅していた。

 

「クク、素晴らしい。わずか数日で五行の循環をそこまで滑らかにしてみせるなんて。君の魂は、僕の期待をどこまで超えれば気が済むんだい?」

 

 夜風を切り裂き、紅蓮の火の粉と共に岩山の上に現れたのは、マントを揺らして不敵に微笑む少年、ハオだった。

 俺と秘密のカードを共有し、対等な密約を結んだ未来の王。彼は俺の正面まで歩み寄ると、その切れ長の瞳に強烈な知的好奇心を宿して俺の巫力を見つめた。

 

「前戦の試合、特等席から楽しませてもらったよ、蓮夜。まさか僕の術を自分の弓に上乗せして、あのエレメンタルズの複合術式を逆流させるなんてね。……で、今日は約束通り、さらに深い『魂の領域』の講義を始めようか」

 

 ハオはそう言って、自身の細い指先を俺の胸元――魂の器のコアがある場所へと向けた。

 その瞬間、彼の指先から放たれた、冷徹で底の知れない千年の知のプレッシャーが、俺の身体をビクリと硬直させる。

 

「君の魂に刻まれた【多世界周回システム(バグ)】。死ぬたびに強さを累積(スタック)させていくその器は、僕が千年前から磨き上げてきた『泰山府君祭(たいざんふくんさい)』の術式と、極めて親和性が高い。……泰山府君祭の本質とは、ただの転生術じゃない。魂の記憶と強度を、時空を超えて『固定化(ロック)』し、次の生へ完璧に引き継ぐための魂の結合術式なんだ」

 

 ハオの言葉が、脳内で濁流のような知識のイメージとなって流れ込んでくる。

 前世の知識として名前だけは知っていた泰山府君祭。だが、開発者であるハオ本人からその『システム(構造)』を直接叩き込まれたことで、俺の脳内の回路がパチパチと音を立てて繋がっていく。

 

「君の魂は、生まれつきその累積の土台ができている。ならば、僕の陰陽術を使って、その内に眠る『前世の潜在的な霊力』を今の巫力と完全に結合させ、一つの巨大な太極(コア)として練り上げる方法を教えてあげる。これさえ身につければ、君は次の世界へ行っても、この世界で得た巫力を一滴も溢れさせることなく、完璧に内包したまま強くてニューゲームを始められるさ」

 

 ハオはフッと不敵な笑みを深くし、俺の左手の指輪に自身の右手を重ねた。

 直後、スピリット・オブ・ファイアの莫大な熱量とは異なる、冷たく研ぎ澄まされた純粋な『術式』の波動が、俺の指輪へ、そして魂の奥底へと直接流れ込んでくる。

 

《……蓮夜! 凄い……凄まじい情報量です! この男の陰陽術の深さ、やはり人間の域を完全に超えています。ですが、主のバグの器なら……これを受け止め、完全に己の血肉にできます!》

 

 指輪の内側でサクヤの思念が歓喜に震える。

 俺は歯を食いしばり、ハオから注ぎ込まれる千年の英知を、魂の器の限界まで圧縮し、自分のバグ回路へと強引に叩き込んでいった。

 

ミシ、ミシシ……ッ!

 

 空間が歪み、俺の周囲の地面が青い巫力の幾何学陣によって激しく明滅する。

 ハオの術式を上乗せされたことで、俺の『光の弓』はさらに強固に、もはや物理的な白銀の剛弓と見紛うほどの圧倒的な神聖さを帯びて、手元で固定化されていった。

 

「――っ、はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 一歩下がり、激しく息を吐きながらハオの手を振り払う。全身から冷や汗が吹き出し、魂が熱く脈打っていた。だが、その瞳に宿る巫力の輝きは、数日前とは比較にならないほど、深く、鋭く研ぎ澄まされていた。

 

「クク……、見事だ。本当に恐ろしいね、君は。僕の千年の知識を、わずか数時間でここまで自分のシステムへ融合させてしまうなんて」

 

 ハオは差し伸べた手を引っ込め、満足そうにマントを翻した。

 

「これで君の魂の固定化(累積術式)は次の段階へ進んだ。本戦のリーグ戦、次が君の予選の最終戦(決勝トーナメント進出をかけた試合)だろ? ――楽しみにしてるよ、僕の愛しい“世界の外の旅人”。僕の陰陽術を喰らった君が、どこまであのくだらない人間たちを蹂躙してみせるのかをね」

 

 紅蓮の炎の残滓を残し、ハオは夜の闇へと掻き消えた。

 

「……はぁ、はぁ。……クソ、相変わらず心臓に悪い修行だ。だけど……」

 

 俺は赤くなった顔の汗を拭い、手元で静かに脈打つ白銀の指輪を見つめた。

 一般モブとしてただ傍観するだけの時期は完全に終わった。ハオから泰山府君祭の核心と陰陽術の深淵を学んだことで、俺の魂の器は、この世界のどんな理不尽なインフレだろうと正面からぶち破れるだけの『最強の刃』へと、裏で確実に進化していた。

 

《蓮夜、これで次の最終戦、どのような敵が来ようと一矢で事足りますね》

(ああ、サクヤ。ハオの知識はすべて喰らった。次の最終戦、誰が相手だろうと、俺たちの進化した真の超火力で、一瞬で終わらせてやるさ)

 

 オラクルベルの画面を見つめれば、表示されているトーナメントの次戦はいよいよ予選の最終戦。

 未来の王から禁忌の秘術を貪り尽くし、魂の累積を完全なものへと昇華させつつある御門蓮夜。

 パッチの村の静かな夜の裏で、世界のパワーバランスを完全に崩壊させるバグ魂の爪が、最悪の鋭さで研ぎ澄まされようとしていた。

 

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