バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第25話_閑話:理の外の覚醒、泰山府君祭の完成

 

 ――パッチの村、裏手の切り立った断崖。

 

 昼間の熱狂と、ハオ組のシャーマンたちの下品な大爆笑の余韻が未だに残る闘技場の喧騒を離れ、俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、深夜の月明かりの下で一人、自身の両手を見つめていた。

 指輪のチャームから溢れ出る巫力は、前戦の激闘を経て、明らかに『異質な変貌』を遂げていた。サクヤの霊体と、俺の累積バグ魂の深淵が、まるで一本の太い鋼の鎖で繋がれたかのように、強固に融和しつつある感覚。

 

「クク……、あはははは! 本当に君は、僕をどこまで楽しませてくれれば気が済むんだい、蓮夜」

 

 夜風を切り裂き、紅蓮の火の粉と共に現れたハオは、これまでで最も機嫌が良く、狂おしいほどの愛惜と歓喜の笑みをその端正な顔に浮かべていた。

 

「僕の思想を逆手に取って、あのエックス・ローズの独善的な正義と心を完璧にへし折るなんてね。僕の部下たちも大喜びだったよ。君を僕の隣に引き込みたいという欲求が、もう抑えきれそうにないな」

 

「何度も言わせるな。俺はお前の仲間にはならないし、お前の『蟻』の思想に共鳴したわけでもない。ただの、合理的な自己防衛さ」

 

 俺は感情の波をフラットに保ったまま、冷たい瞳でハオを見つめ返した。その毅然としたスタンスに、ハオはさらにフッと不敵な笑みを深くする。

 

「いいさ、その冷徹さも、理の外の旅人である君らしくて愛おしい。……さあ、約束の刻だ。君は昼間の戦いの中で、すでに僕の『泰山府君祭(たいざんふくんさい)』の核心に触れたはずだ。仕上げといこうか」

 

 ハオが一歩、前に踏み出す。

 彼の纏う125万の巫力が、空間そのものをドロリと歪ませ、千年の歴史を生き抜いた彼の持つ『転生と魂の支配』の全術式が、巨大な陰陽の五行陣となって俺たちの足元の地面へ展開された。

 

「泰山府君祭の完成。それは、魂の強度を時空を超えて完璧に固定化し、全エネルギーを次なる生へ内包させること。……蓮夜、君の累積バグの器へ、僕の千年の秘術の『最後の楔(くさび)』を打ち込む。魂をバラバラに引き裂かれるような不条理な痛みに、耐えてみせなよ」

 

 ハオが両手を広げた瞬間、五行陣から眩い純白と紅蓮の光の鎖が這い出て、俺の身体、いや、魂の器そのものをガチガチに縛り付けた。

 

「っぐ……ああああああああああっっ!!!」

 

 凄まじい衝撃。脳内が、魂の根元が、文字通り木端微塵に爆破されるような異次元の激痛が俺を襲う。

 生まれつきバグ仕様でデカすぎる俺の魂の器。そこに、ハオの泰山府君祭の「魂の完全固定化システム」が、無理やり、かつ完璧に融合させられていく。

 

《蓮夜! 蓮夜!! 耐えてください、この男、主の魂の構造を完全に書き換え、この世界の理から解き放とうとしています……! これを超えれば、我らは真の――!》

 

 指輪の内側でサクヤの悲鳴のような魂の咆哮が響く。

 前世の記憶、今世での巫力、サクヤとの絆。そのすべてが、ハオの術式によって、俺の魂の最深部へと、二度と剥がれないように強固に『融和・結合』されていくのが分かった。

 これまでは死ねば「どうなるか分からない不確かなバグ」だった。だが今、ハオの千年のチート英知を喰らったことで、それは明確な『意思を持った最強の累積術式』へと昇華されつつあった。

 

「――おおおおおおおおおっっっ!!!」

 

 俺の身体から、闘技場での一撃をも遥かに凌駕する、白銀と紅蓮の圧倒的な巫力の光柱が、夜空の雲を完全に消し飛ばしながら天へと突き抜けた。

 

パチィィィィィンッ!!!

 

 空間が割れるような乾いた音が響き、展開されていた五行陣が静かに霧散していく。

 俺は両膝を突き、激しく床に手を突いて肩で息をした。全身から滝のような冷や汗が流れ、制服のシャツは完全に濡れそぼっている。

 だが、自身の左手の指輪を見つめた瞬間、俺は確信した。

 

(完成、した……。これが、泰山府君祭の、真の魂の累積構造……!)

 

 手元に何気なく意識を向けるだけで、もはや光の弓ではない。実体としての完璧な金属の質感と、神々しい陰陽の術式が刻まれた【白銀の神弓】が、一切の巫力の浪費なしに、完全に現世へと固定化(具現化)されていた。

 この世界で培った巫力も、サクヤの霊格も、そしてハオの陰陽術も。俺がいつか死んで『次の別の世界』へ強制転生させられたとしても、何一つ失われることなく、100%完璧に内包したまま『強くてニューゲーム』を始められる究極のバグ魂が、ここに完成したのだ。

 

「フフ、アハハハ! 素晴らしいよ、蓮夜!」

 ハオは満足げに拍手をしながら、俺の目の前へと歩み寄ってきた。

 

「本当に僕の泰山府君祭を完成させてしまうなんてね。これで君は、名実ともにこの世界の神の理(システム)を超えた、唯一無二の存在だ。……さあ、明日からは決勝トーナメントだ」

 

 ハオはマントを翻し、夜の闇へと溶け込みながら、最後に極上の笑みを残した。

 

「君のその完成された不確かな魂が、本戦の極限の舞台で、どこまで僕を魅了してくれるのか……本当に楽しみにしてるよ、僕の愛しい“世界の外の旅人”」

 

 紅蓮の火の粉が消え、静寂が戻る。

 

「はぁ、はぁ……っ。クソ、本当に死ぬかと思った……。だけど、これで、仕込みは全て終わった」

 

 俺は立ち上がり、赤くなった顔を拭いながら、手元で静かに、だが圧倒的な格の輝きを放つ白銀の指輪を握りしめた。

 ハオの千年の英知をすべて喰らい、魂の累積バグを究極の形へと昇華させた御門蓮夜。

 一般モブのカモフラージュを完全に脱ぎ捨て、神の領域へと片足を突っ込んだ男の、真の無双が始まる決勝トーナメントの舞台が、すぐ目の前まで迫っていた。

 

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