バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
――シャーマンファイト、決勝トーナメント第1試合。
パッチの村の中央に位置する、天空を衝くような特設巨大闘技場。
リーグ戦を全勝で突破した最高峰のシャーマンだけが集うこの魔境で、ソロチーム『御門蓮夜』の最初の相手として指定されたのは、海外の神話に連なる英霊を従える伝説級のオリジナル3人組――チーム『ゴッド・オブ・ミス』だった。
「クク……、ソロ枠のバグ野郎。ハオの陰陽術を真似て調子に乗っているようだが、ここからは桁が違うぞ。神の領域の戦い、その身で味わえ!」
3人が同時に吠え、それぞれの媒介から空間がひび割れるほどの凄まじい巫力を爆発させた。
彼らが展開したのは、海外の古代神話の主神たちを宿した、山のような巨躯を誇る3体の「神級霊」のオーバーソウル。
ハオの125万という絶望的な数字にすら届き得ると噂される彼らの合計巫力は、ただそこに存在するだけで闘技場全体の重力をバグらせ、激しい暴風を巻き起こしていた。
観客席では、麻倉葉やアンナ、エックス・ローズのマルコたちが息を呑んでその圧倒的な威圧感に戦慄している。だが、特等席で見下ろすハオだけは、愉しげに笑みを深くしていた。
(ハァ……。ハオから泰山府君祭を叩き込まれて、魂の固定化が完成した直後にこれか。本当に、この大会のインフレは容赦ねえな……)
俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、嵐のようなプレッシャーのど真ん中で、やれやれと肩を落とした。
だが、俺の魂の奥底で燃え盛る『決意』は、微塵も揺らいでいなかった。
ピピッ、ピピッ、ピピッ――!!!
その時、決戦場全体の巨大モニター、および世界中のシャーマンたちのオラクルベルが、見たこともないほどの激しい警告音を鳴り響かせた。
液晶画面にスクロール表示されたのは、泰山府君祭によって魂の固定化(累積)が完全完成した、俺の『本物のスペック』。パッチ族のシステムが、俺の隠密(ステルス)を強制的にブチ抜いて弾き出した、異次元の巫力数値だった。
『計測不能:ソロチーム御門蓮夜。魂の累積バグにより――現在巫力、五十万を突破。なおも上昇中』
「な、何だとォォォォォッッッ!!?? 五十万……だと!?」
チーム『ゴッド・オブ・ミス』のリーダーが、その現実離れした数字に目玉が飛び出んばかりに驚愕した。
「ご、五十万……!? 嘘、嘘でしょ御門くん!? リーグ戦の時は数万程度にしか見えなかったのに……っ!?」
観客席で小山田まん太が贅叫し、道蓮が馬孫刀を握る手をガタガタと震えさせ、あのアンナすらも驚愕に顔を引きつらせていた。ハオの部下をワンパンした時ですら出力を数割に抑えていた俺の、これが泰山府君祭によって前世の潜在霊力と今世の巫力を「完全結合」させた、真の魂の器の絶対量だった。
「驚くのは早いぞ、神話気取りのガチ勢ども。――サクヤ、俺たちの『本当のオーバーソウル』を見せてやる」
《御意、蓮夜。我が魂のすべて、主の深淵へと捧げましょう!》
俺は左手の指輪を天に掲げた瞬間、ハオから授かった泰山府君祭の結合術式が、極限まで発動した。
これまでは指輪という極小の媒介にサクヤの霊力を「圧縮」していただけだった。だが、魂の結合を完成させた今の俺たちは違う。サクヤの戦国四百年の霊格そのものを、俺の累積バグ魂の最深部へと完全に融和させ、指輪の媒介を超えて『俺の肉体と魂そのもの』を依り代(媒介)とする、前代未聞の超絶複合オーバーソウル。
「――甲縛式オーバーソウル……『真・神鳴の神弓』」
ドォォォォォォォンッッッ!!!
闘技場全体が、まるで巨大な隕石が直撃したかのような凄まじい地鳴りを上げて爆発した。
俺の全身を包み込むように具現化したのは、戦国の武将さながらの白銀と紅蓮の神聖な『巫力の甲冑』。そして、俺の左腕と完全に一体化するように固定化されたのは、五行の術式が金色の紋章となって脈打つ、物理的な存在感を持った【白銀の神弓】。
ジャンヌのシャマシュや、ハオのスピリット・オブ・ファイアのような巨大霊ではない。だが、極限までコンパクトに、俺自身の身体に「五十万超えの巫力」を完全に密着・固定化させた、絶対的な戦闘特化の具現。
「な、何だその姿は……っ!? 怯むな、神の雷を喰らえ!!」
恐怖に狂ったチーム『ゴッド・オブ・ミス』の3人が、3体の神級霊のオーバーソウルから、闘技場全体を焼き尽くす極大の神罰熱線を放った。
だが、今の俺には、その音速の攻撃すらも止まって見えた。
俺は右手を引き、進化した神弓の弦を静かに、だが力強く引き絞った。
「五行相生――すべての属性を俺の矢の糧とする」
迫り来る3体の神の熱線を、俺は避けることすらしない。放たれた神罰のエネルギーそのものを、俺の神弓の五行の術式が「相生」として強引に吸い込み、光の弦へとそのまま上乗せして超増幅させていく。
弦に番えられたのは、もはや眩すぎて太陽すらも黒く霞むほどの、絶対的な滅びの一矢。
「墜ちろ。――『真・陰陽神鳴の一矢』」
パァァァァァンッッッ!!!
爆音すらも置き去りにした、文字通りの『無音の閃光』が決戦場を真一文字に切り裂いた。
放たれた一撃は、3人が誇る神級霊のオーバーソウル、彼らの全巫力の防壁、および彼らが縋り付いてきた古代の神話のプライドを、まるで激流の前に晒された砂細工のように、一瞬にして分子レベルで完全に消滅させた。
光の奔流はそのまま特設闘技場の分厚い超合金の外壁を豪快にブチ抜き、パッチの村を取り囲む巨大な岩山を3つ、文字通り綺麗に粉砕して、遥か彼方の成層圏の雲を割って消失した。
「あ……、あ……」
巫力を極限まで全損し、持霊の神々を強制浄化されたチーム『ゴッド・オブ・ミス』の3人は、戦う意志も誇りも完全にポッキリと折れ、その場に白目を剥いてドサリと崩れ落ちた。もちろん、出力はコントロールしてあるが、決勝トーナメント第1試合としてはあまりにも圧倒的な異次元のワンパン幕引きだった。
ピピッ、とオラクルベルが静かに鳴り、画面に『WIN』の文字。
「……フハハ、アハハハハハハハッッッ!!! 素晴らしい、本当に素晴らしいよ、蓮夜!!」
誰もが声すら出せずに硬直する静寂の闘技場に、最上段の特等席から、ハオの狂おしいほどの歓喜と激しい所有欲の大笑いが降ってきた。
自分の授けた泰山府君祭と陰陽術を完全に実戦で開花させ、五十万という異次元の数値を叩き出して見せた『世界の外の旅人』。ハオの瞳には、もはや執着を通り越した深い愛惜の情すら浮かんでいた。
「僕の陰陽術を喰らい、自分だけの最高の甲縛式オーバーソウルへと昇華させるなんてね! 君は名実ともに、僕の隣に立つ唯一無二の存在だ!」
ハオの狂喜に満ちた絶叫、および観客席の別の場所で「五十万……、それに今のハオの術……。御門くん、君は一体……」と、ガタガタと震えながら恐怖と絶望に戦慄する葉やアンナたちの視線を完全に無視し、俺は静かに神弓を指輪へと戻した。
(ハァ……、一般モブのカモフラージュは完全に終わったな。だが、これでいい)
俺はポケットにオラクルベルをしまい込み、マントを翻して闘技場を後にした。
ハオの千年の英知を喰らい、自身の累積バグ魂を究極の形へと昇華させた御門蓮夜。
神の理らをも完全に逸脱した男の、決勝トーナメントという名の『完全なる蹂躙・原作破壊』が、今ここに、最悪で最高の形で本格的に開幕したのだった。