バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第27話:『理の外の告白と、往復ビンタの洗礼』
決勝トーナメント初戦。巫力五十万オーバーという異次元の数値を叩き出し、チーム『ゴッド・オブ・ミス』をワンパンで沈めた夜。
俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、宿舎の自室ではなく、麻倉葉たちが身を寄せる民宿『炎』の一室に呼び出されていた。
部屋の空気は、今までにないほど凍りついている。
道蓮は馬孫刀の柄に手をかけたまま微動だにせず、小山田まん太はガタガタと震えている。そして、対面に座る恐山アンナの瞳には、冷徹なまでの怒りと、隣の席の級友を『敵』とみなさざるを得ない切ない亀裂の予感が漂っていた。
「御門くん……さっきの戦い、ハオの陰陽術だよね。君、いつの間にあいつと……」
葉がいつもの緩さを完全に消し、痛みを堪えるような声で切り出してきた。
(クソ、やっぱりこうなるか。ここで黙ってたらガチで敵対ルートだ。それは本意じゃねえんだよな……)
俺はため息をつくと、観観念してあわあわと両手を挙げた。
「待て待て、誤解だ! 俺はハオの仲間じゃねえ! ……仕方ねえ、お前らには本当のことを全部話してやるよ。信じるか信じないかは任せるが、俺の魂の『バグ』の秘密だ」
俺は腹を括り、ハオに話した内容をそのまま彼らへ暴露した。
自分が何度も世界を渡り、培った力を内包して転生する周回者であること。前世の世界ではこの世界が『漫画物語』として描かれていたこと。だからハオの因縁も結末も知っており、その未来の理不尽を生き抜くために、対価としてハオにバグの秘密を教えて陰陽術を叩き込んでもらったこと――。
「……別の世界……、漫画……?」
まん太がパニックになり、蓮が「ふざけるな! そんな荒唐無稽な嘘を――」と怒鳴りかけた、その瞬間。
――ガタガタガタガタッ!!!
突如、部屋の空間が歪み、アンナの背後に巨大な一対の式神――『前鬼(ぜんき)』と『後鬼(ごき)』が凄まじい鬼気と共に顕現した。
「顕現せよ――式神。……あんた、そんな一世一代の重大な秘密を、隣の席の葉に今まで隠してモブのフリをしていたのね。……万死に値するわ」
「え、ちょ、アンナさん!? 式神まで出すのは話が重す――」
パァァァァァンッッッ!!!
パァァァァァンッッッ!!!
パァァァァァンッッッ!!!
パァァァァァンッッッ!!!
「ギャァァァァァッッッ!!?? いってぇぇぇ!! 往復!! 2連続超高速往復ビンタ!!? なんで!!!」
アンナの『幻の左』が残像すら残さず、俺の両頬へ容赦のない往復ビンタを叩き込んだ。それだけでは終わらない。
ドガァァァァァンッッッ!!!
「ブふぉっっっ!!?? 前鬼後鬼のダブル正拳突き!!?? 物理攻撃(ビンタ)からの霊的ツッコミ(式神)のコンボは理不尽だろぉぉぉっ!!!」
アンナのブチ切れビンタの風圧に押し出されたところを、前鬼と後鬼の巨大な拳による「霊的ツッコミ」が容赦なく俺の脇腹へと炸裂した。俺は部屋の壁まで吹っ飛んで激突し、その場に崩れ落ちた。生まれつきバグ仕様で魂の器がデカい俺のセンサーをもってしても、彼女の怒りのフルコンボだけは本当に避けられない。理不尽の極みだった。
「いい、次にあいつと接触して目立つ真真似をしたら、私の持霊で今度こそ魂ごと消し飛ばすから」
アンナは冷淡な顔のまま、自分の左手をパッパと振った。
葉は呆然とした後、「あはは……あははは! なーんだ、そっかぁ! 御門くん、ハオの味方になったわけじゃないんだね! 良かったぁ!」と、いつもの呑気な笑顔を取り戻して心底ホッとしたように笑った。
「まぁ、ちょっとした『救済』のつもりだよ。お前らがこの先、ハオの絶望に直面しても、俺の進化した神弓と陰陽術があれば、原作の最悪なバッドエンドだけは裏から撃ち抜いてハッピーエンドに変えてやれるからな」
俺が腫れ上がった顔でボソッと言うと、アンナはフイッと顔を背けた。
「……ふん。勝手にしなさい。ピンチの時はこき使ってあげるわ」
蓮も「チッ、相変わらず不条理な男だ」と武器から手を離した。不本意な式神コンボの洗礼と引き換えに、決定的な亀裂は回避され、俺たちの不確かな絆はより強固なものへと繋ぎ止められた。
◆
その数時間後、深夜のパッチの村の断崖。
宿舎を抜け出した俺の前に、やはり紅蓮の火の粉と共にハオが姿を現した。
彼は昼間の俺の無双、そして夜に葉たちへ秘密を明かしたことすらも全て霊視で把握している。
「――クク、あはははは! 本当に面白いね、蓮夜。葉たちにすべてを告白して――って、何だいその姿は!」
振り返った俺の顔を見た瞬間、あのハオが、千年の歴史を生き抜いた未来の王が、初めて見るほど腹を抱えて大爆笑し始めた。
「アハハハハハハハハッッッ!!! 最高だ、最高だよ蓮夜!! 両頬がまるでアンパンマンみたいに真っ赤に膨れ上がってボロボロじゃないか!! あのイタコの娘、容赦がないね!!」
「笑うな未来の王様……っ! お前がホイホイ秘密を叩き込んできたせいで、俺の顔のパワーバランスが崩壊したんだよ……っ!」
俺はパンパンに膨らんだ両頬をさすりながら、涙目で冷たい缶コーヒーを患部に当てた。ハオはひとしきり大笑いした後、ようやく笑い涙を指先で拭うと、隣に腰掛け、夜風に長い髪を揺らしながら聞いてきた。
「クク……、お腹が痛いよ。……で、秘密を明かした君は、これから『今後の人生』をどうするつもりだい?」
「どうするもこうするもないさ。俺はこの1周目のシャーマンファイトを最後まで見届け、お前から泰山府君祭を完璧に学び切る。そして、この生が終われば……俺はまた、培ったすべての力を内包したまま、誰も知らない『次の別のアニメや漫画の世界』へと強制転生させられる。それが俺の、終わらない旅の人生だ」
「外の世界への旅、か。……クク、切ないね。僕がどれだけ君を気に入ってこの世界に引き留めようとしても、君の魂はいつか僕の元を去り、別の理(システム)へ行ってしまうんだから」
ハオはそう言って、どこか寂しげに、しかし極上の笑みを浮かべて夜空の星を見上げた。
「慢でも、それでいいさ。君が次の世界へ行くとき、その魂の最深部には、僕が叩き込んだ最強の陰陽術と泰山府君祭が完璧に固定化されて刻まれている。君がどの時空へ行こうとも、君の力の一部として、僕の英知は永遠に生き続けるんだからね。……それは、僕たちが時空を超えて繋がっている、完璧な証だろ?」
「……かもな。お前のおかげで、次の強くてニューゲームは最初からカンスト状態で無双できそうだわ。ありがとよ、未来の王様」
俺が腫れ上がった顔で不敵に笑うと、ハオは満足そうにマントを翻し、紅蓮の炎と共に消え去っていった。
仲間たちとの絆を守り、ラスボスと未来を語り合う。
一般モブのカモフラージュを完全に脱ぎ捨てた御門蓮夜の、世界の理をも置き去りにする真の原作破壊・決勝トーナメント2回戦が、圧倒的な仕込みを終えて、いよいよ幕を開けようとしていた。