バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
――ピピッ、ピピッ、ピピッ。
決勝トーナメント2回戦の当日。闘技場へ向かうために宿舎を出ようとした俺のポケットの中で、銀色のオラクルベルが非情な電子音を鳴り響かせた。
液晶画面にスクロール表示されたのは、予想だにしない本戦リーグの「結果」だった。
『通達:決勝トーナメント2回戦、ソロチーム御門蓮夜の対戦相手であるオリジナルチームは、恐慌状態による精神衰弱、および巫力全損の危険性を考慮し、正式に【試合放棄(リタイア)】を宣言した。よって、御門蓮夜の不戦勝とし、決勝トーナメント準決勝(ファイナルステージ)への進出を認可する』
「……は?」
画面に大写しになった『WALKOVER(不戦勝)』の文字を見つめ、俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、まだ少し青あざの残る両頬を押さえながら呆然と立ち尽くした。
《フフ……。蓮夜、どうやら前戦で開示した『巫力五十万オーバー』の数値と、あの岩山を3つまとめて消し飛ばした『真・陰陽神鳴の一矢』の破壊力に、完全に腰を抜かして逃げ出してしまったようですね》
指輪の内側から、サクヤのやれやれと言いたげな、しかし誇らしげな思念が伝わってくる。
原作キャラ以外のシャーマンたちが、俺のバグじみた超火力に戦慄し、戦う前に心を折られて一斉にリタイアを選択したのだ。一般モブとして傍観するつもりが、戦わずして本戦のトップ4へと上り詰めてしまうという、これ以上ない不条理な原作破壊(チートムーブ)だった。
だが、俺がその不戦勝の冠に困惑している暇など、この世界(システム)は与えてくれなかった。
ピピッ――!!!
突如、オラクルベルがこれまでで最も禍々しい、血のような赤色の警告灯を激しく明滅させた。
同時に、パッチの村全体の空気が、一瞬にしてドロリとした最悪の霊的プレッシャーによって窒息せんばかりに凍りつく。
『緊急通達:パッチ族十祭司の過半数、およびシャーマンファイト本戦参加者の多数が、未来王ハオの軍勢によって襲撃・無力化された。これをもって通常のトーナメントを凍結し、聖なるシャーマンファイトは――【グレートスピリッツ(神の身体)の防衛、およびハオの暗殺】へと移行する。生き残ったシャーマンは、直ちにパッチの聖地へと集結せよ』
「ついに、始まったか……。最終章(ラストステージ)だ」
俺は冷や汗を流しながらも、自身の左手の指輪をきつく握りしめた。
原作だと小山田カンパニーの襲撃とかあったけど自分の介入で変わってしまった。ムー大陸も同様だが、ハオなら居場所を知っていてもおかしくはない。ハオが圧倒的な力をもってパッチ族を蹂躙し、神の器であるグレートスピリッツと融合して完全なるシャーマンキングへと至る、世界の終わりの始まり。
「よお、御門くん! ベル、見た!? ハオの奴、ついに動き出しちゃったみたいだ!」
宿舎の廊下に飛び出すと、そこには木刀を担いだ麻倉葉、宝雷剣を握りしめて殺気を放つ道蓮、そして冷徹な瞳の奥に強い覚悟を宿した恐山アンナたちがすでに集結していた。
「ああ、見たよ。どうやら通常のぬるいトーナメントはお開きらしいな」
「お前が不戦勝で不気味に勝ち進んでいた理由も気になるが、今はそれどころではない! ハオがグレートスピリッツと融合すれば、この世界は完全に終わる。野良……いや、御門蓮夜、お前はどうする!」
蓮が馬孫刀の切っ先を床に突き立て、俺を真っ直ぐに見据えてきた。
前世の知識がある俺は、この先に待っているパッチのプラントでの死闘、そしてハオがキングとして覚醒する絶対的なインフレの結末を知っている。
「どうするもこうするもないさ。俺はただの一般モブの旅人だが……隣の席のお前らがハオの絶望に押し潰されるのを、指をくわえて見てる趣味はねえよ。ハオから泰山府君祭のすべてを叩き込んでもらった恩返しだ。……あの最悪なバッドエンドだけは、俺とサクヤの神弓で、裏から完璧にぶち壊してハッピーエンドに変えてやるよ」
俺が不敵に笑うと、葉は「あはは、頼りにしてるよ、御門くん!」と満面の笑顔を浮かべ、アンナも「ふん、当然よ。しっかり盾になりなさい」とフイッと顔を背けた。
《蓮夜、魂の結合OS、および泰山府君の累積術式はすでにカンストして完成しています。世界を滅ぼす未来の王だろうと、我らの真の超火力で、神の理ごと射抜いてやりましょう》
(ああ、サクヤ。一般モブの仮面は完全に捨てた。何度も世界を周回する俺の、これが1周目のクライマックスだ。ド派手に原作を破壊し尽くしてやろうじゃねえか)
オラクルベルの赤い警告灯が、俺たちの顔を不気味に照らし出す。
ハオとの密約、アンナの往復ビンタの洗礼、そして手に入れた五十万超えの累積器。
世界のすべての運命と不条理がパッチの聖地へと収束していく中、バグ魂を持つ男・御門蓮夜の、世界の理を完全に置き去りにする【最終章・ハオ救済ルート】の幕が、ついに絶対的な形で切って落とされるのだった。