バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
――パッチの聖地、最深部『星の聖霊(グレートスピリッツ)』の間。
そこは、現世の理がすべて崩壊した、無限の光と精神が漂う神の領域だった。
そしてその中心、神の器と完全に融合し、125万を遥かに超えた無限の巫力を有して完全なるシャーマンキングへと覚醒した少年――ハオが、傲然と、しかし底知れない孤独の瞳で世界を見下ろしていた。
「――来たね、葉。それに……僕の愛しい“世界の外の旅人”、御門蓮夜」
ハオがマントを翻した瞬間、宇宙の誕生を思わせるほどの圧倒的な紅蓮の超爆炎が吹き荒れ、神のプレッシャーが空間を圧殺した。
麻倉葉、道蓮、恐山アンナ、エックス・ローズのマルコたちが、その次元の違う絶望的な神の力の前に息を呑み、膝を突きかける。
「お前らの絶望(バッドエンド)だけは、俺たちの神弓で裏から完璧にぶち壊すって、約束したからな」
俺――御門 蓮夜(みかど れんや)は、その無限の炎のど真ん中で、感情の波を完全にフラットに保ったまま一歩前に進み出た。
「甲縛式オーバー・ソール――『真・神鳴の神弓(しん・かむなりのしんきゅう)』」
俺の魂の器から溢れ出たバグ巫力が、ハオの泰山府君祭によって完全固定化されたことで、かつてない純度で爆発する。
全身を包み込む白銀と紅蓮の巫力の甲冑、および左腕と完全に一体化した【白銀の神弓】が眩い輝きを放ち、ハオの放つ神の炎を五行の理で中和しながら、その場に確固たる第三の極を形成した。
「クク……、本当に素晴らしいよ、蓮夜。僕の叩き込んだ泰山府君祭と陰陽術をそこまで昇華させ、神となった僕の前に立ちはだかるなんてね。……でも、無駄さ。キングとなった僕には、この世界のどんな攻撃も届きはしない」
「分かってるさ。……五十万そこらの巫力じゃ、お前の千年の深淵には届きもしねえってことくらいな。だから、これは『攻撃』じゃねえ。――俺の『すべて』を賭けた、最初で最後の恩返しだ、ハオ」
俺は右手を引き、進化した神弓の弦を限界まで、魂の器の底の底を削り落とすように引き絞った。
光の弦に番えられたのは、あのプラントで手に入れた『千年前のハオの術式の残滓(救済の鍵)』。そして、ハオから授かった泰山府君祭の結合術式によって、俺のバグ魂の最最深部と完全に同調したサクヤの、四百年の優しくも鋭い霊力。
キィィィィィン……ッッッ!!!
引き絞られた白銀の弓の周囲で、大気が、空間そのものが激しく鳴動を始める。
50万などという安い数値ではない。俺は、魂の累積バグが誇る器の全容――俺の『全生命力(全命)』、そして魂の内側に滾る『全巫力』の、文字通り俺を構成するすべての存在を燃料として、弦の中心へと濁流のように収束させていった。
世界の不条理を終わらせ、魂に救いをもたらす奇跡。それはまさに、かつて前世の記憶で知った、己の全存在を捧げて紡ぎ出す【命の答え】の至高のリスペクト。
バグによって保障されていたはずの俺の今世の全寿命と全エネルギーが、弦に番えられた一本の白い一矢へと極限まで収縮し、肉体から確かな温もりが、魂から一切の光が完全に消え去っていく。それでも、俺の心には一点の曇りもなかった。
「墜ちろ。――『真・陰陽救済の一矢(しん・おんみょうきゅうさいのひとや)』」
パァァァァァンッッッ!!!
爆音すらも置き去りにした、文字通りの『無音の閃光』が決戦場を真一文字に切り裂いた。
放たれた一撃は、俺の全生命力と全巫力のすべてを代償にした純白の輝きを纏い、まっすぐにハオへと直進する。ハオがスピリット・オブ・ファイアを以て放った絶対防御の炎をも強引に吸い込み、その一矢は一切の減速なしにハオの胸のコアへと完璧に突き刺さった。
魂のすべてを賭した光がハオを貫き、結界を包んだのは破壊の爆発ではなかった。
それは、ハオの魂を内側から優しく包み込む、泰山府君祭の『魂の結合・浄化』の光。
千年間、彼を絶望に縛り付け、狂わせてきた「人類への憎悪」と「裏切りの因縁」だけが、俺の全存在を賭した奔流によって、文字通り塵一つ残さず綺麗に消滅(バースト)させられていく。
「……あ……、あ……」
光の中で、ハオのマントが静かに解け、彼の瞳から、千年の孤独の涙がボロボロと溢れ出していた。
霊視の呪縛が消え、誰も信じられなかった彼の魂が、俺の不確かな魂のすべてを賭した一射によって完璧に救済されたのだ。
――だが、その精神の深淵において、奇跡はまだ終わっていなかった。
「……ハオ」
溢れる光の向こう側から、幻影のように一つの霊体が歩み寄ってきた。
千年前の麻倉葉王が唯一、自身の巫力を削ってまで作り出し、および決別した最高の友。小さな猫の霊――マタムネ。その手には、形見の煙管が握られていた。
「マタムネ……!? なぜ、君がここに……っ」
「お久しゅう御座います、ハオ様。……世界の外の旅人が放った一矢が、貴方様の千年の頑なな心を、そして私との因縁をも綺麗に解き放ってくれたので御座います」
マタムネは優しく目を細め、泣きじゃくるハオの足元にそっと寄り添った。千年の時を超えた、かつての主従であり親友の、本物の和解。
光の最深部から、もう一つの、誰よりもハオが恋い焦がれていた魂が姿を現した。
「――麻ノ葉(あさのは)……母上……ッ!!」
ハオが息を呑み、子供のように声を震わせる。
千年前、人間に理不尽に殺害された、ハオのすべての愛の根元であり、すべての憎しみの始まりとなった最愛の母親。
アンナのイタコの力すら届かなかったグレートスピリッツの深淵から、蓮夜がすべてを賭けて放った救済の一矢が、彼女の魂をもこの特等席へと呼び戻していた。
「よしよし。よく頑張りましたね、私の可愛い童葉王(あさはお)」
麻ノ葉は、泣き崩れるハオの頭を優しくその胸に抱き寄せ、その長い髪を何度も何度も愛おしそうに撫でた。ハオは最愛の母の腕の中で、千年の全ての憎悪を水に流すように、ただの幼い子供のように声を上げて泣き続けた。
マタムネがそれを見守り、葉が、アンナが、道蓮が、誰もがその救済の黎明に静かに涙を流していた。
「御門くん、本当に、本当にありがとね……っ! ハオの奴、お母さんに会えたんだね……!」
葉がいつもの真っ直ぐな、しかし心底嬉しそうな笑顔で俺の元へ駆け寄り、アンナも「ふん、当然よ。私の往復ビンタの成果が出ただけよ」と少しだけ優しく微笑んだ。
「ああ、約束は守ったぜ、お前ら。……だが、俺の『今世』も、どうやらここまでらしいわ」
ドサリ、と俺は膝を突き、その場に崩れ落ちた。
全生命力、そして全巫力を完全に使い果たした俺の肉体は、すでに一滴のエネルギーも残っておらず、完全に役目を終えていた。ハオの泰山府君祭が不完全に起動し、強制的な転生の光ではなく、純粋な『死』としての白い光の粒子が、俺の身体からサラサラと零れ落ちていく。
「ええっ……!? 御門くん、身体が消えかけてるよ!? 嘘だろ、死んじゃうなんてそんなの――!」
まん太がパニックになり、葉や蓮が驚愕に目を見開いて駆け寄ろうとする中、母親の腕からそっと顔を上げたハオが、静かに俺の前に歩み寄ってきた。
「……蓮夜。君は僕を救うために、自分のすべての生命力と、その圧倒的な全巫力を……。本当に、大馬鹿者で、どうしようもなく愛しい旅人だ」
ハオは俺の左手――白銀の指輪をそっと握りしめ、悲痛な、しかし極上の親愛を込めた笑みを浮かべた。
「でも、君の命が終わっても、魂の最最深部には僕が授けた陰陽術と泰山府君祭が完璧に刻まれている。君が次にどの世界へ行こうとも、僕の英知は君と共にあり続ける。……マタムネ、お前もこの旅人の歩みを見守ってあげておくれ。僕たちの、魂の証として」
「御意に御座います、ハオ様。これからは、世界の外の旅人様のお供をいたしましょう」
マタムネの霊体がフッと微笑み、俺の白銀の指輪へと吸い込まれていく。ハオからの、最大の贈り物だ。
「ああ、ありがとよ、ハオ。お前のおかげで、次の世界の強くてニューゲームは、最初からカンスト状態で無双できそうだわ。……麻ノ葉さんも、お幸せにな」
白い光の粒子を散らしながら、俺の意識はゆっくりと闇へと沈んでいく。肉体の完全なる死。全生命力と全巫力を捧げた、1周目の人生の完全なる終焉。
サクヤの霊体も、およびマタムネの魂もまた、記憶を保ったまま俺の深淵へと融合し、次の生へ旅立つ不動の相棒となった。
「じゃあな、麻倉、アンナ、蓮、竜、まん太。隣の席のモブのよしみだ、お前らのハッピーエンド、特等席で楽しませてもらったぞ」
「うん! またね、御門くん! 次の世界でも、のんびりよろしくね!」
葉のいつもの真っ直ぐな声を最後に聞きながら、俺の1周目の命は完全に幕を閉じ、魂は完全な眩い光の渦へと包まれていった。
ハオの千年の英知を喰らい、自身の全生命力と全巫力を引き換えに世界の運命を完璧に破壊・救済した御門蓮夜。
1周目である『シャーマンキング』の世界で完全に全てを燃やし尽くし、神弓と陰陽術、および最高の相棒サクヤとマタムネを魂に内包した男の、不確かな多世界周回の『2周目の物語(強くてニューゲーム)』が、新たなる世界の幕開けと共に、今ここに、絶対的な暴走の産声を上げるのだった。
――『バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回』・第一部(シャーマンキング編) 完。