バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第35話:『規格外(バグ)の少年とロジャー海賊団』

 

 あれから数年の月日が流れた。

 赤ん坊だった俺――クロウは、今やロジャー海賊団の立派な(?)見習い雑用係として、オーロ・ジャクソン号の甲板を走り回っている。

 

「おいクロウ! サボってんじゃねェぞ! ほら、そっちのロープをまとめろ!」

「わかってるよ、バギー。お前こそ大砲の掃除はどうしたんだよ?」

「あァ!? 俺様に向かって生意気言ってんじゃねェ!」

 

 真っ赤な鼻をピクピクさせて怒鳴るバギーの手から、バケツがすり抜けて宙を舞う。それを隣で器用にキャッチしたのは、麦わら帽子を被った赤髪の少年、シャンクスだ。

 

「ははは! 仲良くやれよ二人とも。ほらクロウ、ロジャー船長が呼んでるぞ。またお前の『手品』が見たいんだってさ」

「手品、ね……。了解、行ってくる」

 

 苦笑いしながら、俺は船長室へと向かう。

 彼らが『手品』と呼んでいるのは、俺が時折見せる陰陽術の端切れだ。もちろん、本気の術は誰にも見せていない。見せられるはずがない。ただの暇つぶしに、式神の真似事で紙の鳥を飛ばす程度だ。それでも、この世界の人間にとっては『悪魔の実の能力』の一種に見えるらしい。

 

《クク……。賑やかなことだな。あの赤髪の少年も、鼻の丸い少年も、実にいい覇気を秘めている。だが、お主が隠し持っている『バグ』に比べれば、まだ雛鳥のようなものだがね》

 

 すれ違う船員たちの目を盗み、俺の肩口でマタムネが煙管をくゆらせる。霊体である彼の姿は、俺以外の誰にも見えないし、声も届かない。

 

(ああ。この船にはバケモノみたいな奴らがゴロゴロいる。だがな、マタムネ……)

 

 俺は懐の霊符にそっと触れた。

 前世で極めたハオ直伝の陰陽術、そして魂に刻まれた『泰山府君の秘術』。これらはこの世界の『悪魔の実』の呪縛……つまり、海に嫌われるというリスクすら無視する。

 覇気という世界の理(ことわり)に対しても、こちらの霊力と巫力は完全に異質なエネルギーとして作用していた。戦えばどうなるか、俺自身にもまだ全貌は見えていない。

 

「おゥ、クロウ! 来たか!」

 

 船長室の扉を開けると、豪快な笑い声を響かせる大男がそこにいた。

 ゴール・D・ロジャー。後に海賊王と呼ばれる、この時代の中心にいる男だ。その隣には、冷静に本を読んでいる副船長のレイリーもいる。

 

「ロジャー、また紙の鳥が見たいのか? 航海中なんだから、少しは真面目に指揮を執れよ」

「がははは! 硬いことを言うな! お前のその不思議な力は、見ていて飽きねェんだ。なぁレイリー、こいつの力は本当に悪魔の実じゃねェと思うか?」

「さあな。だが、海に落ちても平気な顔をして泳いでいたからな。悪魔の実ではないのだろう。……ただ、クロウ。お前が時折見せるその『目』、ただの子供のそれではないな?」

 

 レイリーの鋭い視線が、俺の身体を射抜くように注がれる。

 さすがは『冥王』。俺がどれだけモブを装おうとしても、魂の奥底から漏れ出る、カンストした強者の気配を完全に隠し通すことは難しいらしい。

 

(……へっ、面白くなってきたじゃねえか)

 

 俺は不敵な笑みを噛み殺しながら、ロジャーの前で人差し指を立てた。

 指先から、青く静かなバグ巫力が、小さな鬼火となって灯る。

 

「ただの特異体質さ。――さあ、海賊王(候補)の御前だ。ちょっとした、世界の裏側の力を見せてやるよ」

 

 伝説の船の上。最強の陰陽師としての牙を隠したまま、俺の2周目の航海は、いよいよ加速していく。

 

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