バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
あれから数年の月日が流れた。
赤ん坊だった俺――クロウは、今やロジャー海賊団の立派な(?)見習い雑用係として、オーロ・ジャクソン号の甲板を走り回っている。
「おいクロウ! サボってんじゃねェぞ! ほら、そっちのロープをまとめろ!」
「わかってるよ、バギー。お前こそ大砲の掃除はどうしたんだよ?」
「あァ!? 俺様に向かって生意気言ってんじゃねェ!」
真っ赤な鼻をピクピクさせて怒鳴るバギーの手から、バケツがすり抜けて宙を舞う。それを隣で器用にキャッチしたのは、麦わら帽子を被った赤髪の少年、シャンクスだ。
「ははは! 仲良くやれよ二人とも。ほらクロウ、ロジャー船長が呼んでるぞ。またお前の『手品』が見たいんだってさ」
「手品、ね……。了解、行ってくる」
苦笑いしながら、俺は船長室へと向かう。
彼らが『手品』と呼んでいるのは、俺が時折見せる陰陽術の端切れだ。もちろん、本気の術は誰にも見せていない。見せられるはずがない。ただの暇つぶしに、式神の真似事で紙の鳥を飛ばす程度だ。それでも、この世界の人間にとっては『悪魔の実の能力』の一種に見えるらしい。
《クク……。賑やかなことだな。あの赤髪の少年も、鼻の丸い少年も、実にいい覇気を秘めている。だが、お主が隠し持っている『バグ』に比べれば、まだ雛鳥のようなものだがね》
すれ違う船員たちの目を盗み、俺の肩口でマタムネが煙管をくゆらせる。霊体である彼の姿は、俺以外の誰にも見えないし、声も届かない。
(ああ。この船にはバケモノみたいな奴らがゴロゴロいる。だがな、マタムネ……)
俺は懐の霊符にそっと触れた。
前世で極めたハオ直伝の陰陽術、そして魂に刻まれた『泰山府君の秘術』。これらはこの世界の『悪魔の実』の呪縛……つまり、海に嫌われるというリスクすら無視する。
覇気という世界の理(ことわり)に対しても、こちらの霊力と巫力は完全に異質なエネルギーとして作用していた。戦えばどうなるか、俺自身にもまだ全貌は見えていない。
「おゥ、クロウ! 来たか!」
船長室の扉を開けると、豪快な笑い声を響かせる大男がそこにいた。
ゴール・D・ロジャー。後に海賊王と呼ばれる、この時代の中心にいる男だ。その隣には、冷静に本を読んでいる副船長のレイリーもいる。
「ロジャー、また紙の鳥が見たいのか? 航海中なんだから、少しは真面目に指揮を執れよ」
「がははは! 硬いことを言うな! お前のその不思議な力は、見ていて飽きねェんだ。なぁレイリー、こいつの力は本当に悪魔の実じゃねェと思うか?」
「さあな。だが、海に落ちても平気な顔をして泳いでいたからな。悪魔の実ではないのだろう。……ただ、クロウ。お前が時折見せるその『目』、ただの子供のそれではないな?」
レイリーの鋭い視線が、俺の身体を射抜くように注がれる。
さすがは『冥王』。俺がどれだけモブを装おうとしても、魂の奥底から漏れ出る、カンストした強者の気配を完全に隠し通すことは難しいらしい。
(……へっ、面白くなってきたじゃねえか)
俺は不敵な笑みを噛み殺しながら、ロジャーの前で人差し指を立てた。
指先から、青く静かなバグ巫力が、小さな鬼火となって灯る。
「ただの特異体質さ。――さあ、海賊王(候補)の御前だ。ちょっとした、世界の裏側の力を見せてやるよ」
伝説の船の上。最強の陰陽師としての牙を隠したまま、俺の2周目の航海は、いよいよ加速していく。