バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第39話:『戦利品と不気味な果実』
レイリー副船長との修行を経て、俺の「覇気」と「肉体」の同調は驚くほどスムーズに進んでいた。前世のカワした魂の強度が、この世界の頑丈な肉体へと確実に還元されていくのを感じる。
そんな中、オーロ・ジャクソン号は『偉大なる航路(グランドライン)』で遭遇した、とある海賊団との交戦に突入していた。
敵は名前も知らない、この海に掃いて捨てるほどいる有象無象の海賊団だ。ロジャー海賊団の敵ではない。
「野郎ども! 船長を援護しろ! 宝は全部いただくぞ!」
「がははは! 威勢がいいねェ! どんどん奪っちまえ!」
ロジャーの笑い声が響く中、船員たちが次々と敵船へ乗り込んでいく。
俺もまた、見習いとしての仕事を果たすべく、混乱する敵船の船内へと潜り込んでいた。狙うは倉庫、あるいは船長室だ。モブらしく目立たないよう、戦闘の激しい甲板を避けて裏通路を進む。
《おやおや、クロウ。随分と手際が良いな。泥棒の才能でもあるのかね?》
霊体として壁をすり抜けてきたマタムネが、呆れたように煙管をくゆらせる。
(泥棒じゃねえよ、海賊の正当な『戦利品(ぶんどり)』の回収だ。……っと、ここが船長室か)
鍵の壊れた扉を蹴り開けると、そこは荒らされた形跡のない豪華な部屋だった。俺は視線を走らせ、デスクの奥に厳重に置かれた、一際古めかしい木製の宝箱を見つける。
(あった。直感だが、これにはちょっと良いものが入ってそうな気配がするな)
俺は宝箱を抱え、どさくさに紛れてオーロ・ジャクソン号へと持ち帰った。
戦闘はほどなくしてロジャー海賊団の完全勝利で幕を閉じ、甲板では奪い取った財宝の山を前に、船員たちが宴の準備を始めていた。
俺は自分の部屋へと戻り、持ち帰った宝箱の錠前を、陰陽術の端切れで軽く弾いて解錠する。パカリ、と重い音を立てて蓋が開いた。
(金塊か、それとも……あ?)
中に鎮座していたのは、宝石ではなかった。
それは、全体が禍々しい紫色をしており、表面には奇妙な唐草模様がびっしりと渦巻いている、見たこともない形の果実だった。
「……おいおい、これって」
《ふむ。これが噂に聞く、海の悪魔の化身……『悪魔の実』というやつか。確かに、普通ではない不気味な霊気を放っているな》
いつの間にか姿を現したサクヤが、興味深そうに果実を覗き込む。
俺は果実を手に取り、魂の奥底にあるバグ巫力を少しだけ割り振って、その性質を「視る」ように探ってみた。陰陽術の識別眼が、その果実に宿る特異な『呪い(システム)』の波形を読み解いていく。
(……超人系(パラミシア)か。それも、性質は『厄災』。周囲に不幸や不運を強制的にまき散らす能力……。言わば『ヤクヤクの実』ってところか)
前世の陰陽道において、「穢れ」や「厄」を操る呪詛は基本中の基本だ。だが、この悪魔の実はそれを世界のルールとして強制発動させるらしい。
(もしこれを食えば、俺のバグ魂とどう噛み合う? ……いや、今はまだやめておこう。海に嫌われるリスクもあるし、まずはじっくり検証してからだ)
そう結論付けた俺は、悪魔の実を再び宝箱に戻し、しっかりと蓋を閉めた。
まさかこの果実が、明日にでもとんでもない形で俺の体内へ放り込まれることになるなど、この時の俺は知る由もなかった。