バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
――キーンコーンカーンコーン。
放課後を告げるチャイムが鳴り、クラスメイトたちが次々と教室を後にする。
俺は適当に時間を潰し、教室に人がいなくなるのを待っていた。あまり目立ちたくない一般人(偽装)としては、集団下校の混雑は避けたいからだ。
だが、誤算が一つ。隣の席の転校生――麻倉葉もまた、机に突っ伏したまま動こうとしなかった。
やがて教室に俺と葉の二人だけになった時、彼はのそりと顔を上げた。
ヘッドホンを首にかけ、いつものへらへらとした笑みを消して、じっと俺を見つめてくる。
「なぁ、御門くん」
「ん? なんだ、麻倉。まだ帰らないのか?」
「いやさ、確信が持てたから、ちょっと話しかけてみようと思って」
葉は椅子をガラリと引いて、俺の正面に向き直った。その瞳は、いつもの呑気なものとは違い、シャーマンとしての鋭い光を宿している。
「御門くん。君、本当は『見えてる』んだろ?」
「……何がだ?」
「とぼけなくていいって。学校にいる間、ずっと君の周りの霊が静かに整列してた。それに……その指輪さ。普通の中学生が持つには、ちょっと霊的に『重すぎる』媒介(依り代)だ」
ストレートなカミングアウトの要求。
まだ持霊を持たないこの段階の葉だからこそ、東京という見知らぬ土地で「同類」を見つけた好奇心と警戒心が勝ったのだろう。
《蓮夜、どうしますか? 記憶を弄るような術は、今の我らにはありませんが》
(いや、隠し通すのは無理だな。麻倉の直感を舐めない方がいい。……少しだけ『カード』を見せるか)
俺は小さくため息をつくと、左手の指輪をわざと葉に見せるように机に置いた。
「……気づいてたか。さすがは出雲のシャーマン、麻倉家の人間だな」
「えっ!? 君、オイラの実家まで知ってるの!?」
今度は葉が目を見開いて驚く番だった。俺はフッと不敵に笑う。
「俺は御門蓮夜。ただの野良シャーマンだ。お前ら名家と違って、バックボーンは何もない。……お前のことは、ちょっとした『情報網』で知てっただけさ。心を開く気があるなら、これ以上探るなよ。お前と敵対する気はないからな」
「へえ……。野良でこれだけの巫力を隠せるなんて、東京には面白い奴がいるんだね」
葉はすぐにいつもの緩い笑顔に戻り、「あはは、悪かったよ。仲間を見つけて嬉しかったんだ」と頭を掻いた。
「でもさ、御門くん。君ほどの力があれば、霊を怖がって隠す必要なんてないのに」
「俺には俺の事情があるんだよ。目立ちたくないんだ。それに……この世界には、迂闊に動けば魂ごと喰われるような化け物がゴロゴロいるからな」
俺の言葉に、葉は少しだけ真面目な顔をして「ふーん、化け物、か……」と呟いた。彼が未来に出会う最悪の双子の兄――ハオの存在を、俺は暗に示唆しているが、今の葉にはまだ届かない。
「ま、お互い干渉し合わないってことで。じゃあな、麻倉」
「うん、また明日ね、御門くん」
俺は鞄を肩にかけ、教室を後にした。
背後で、葉がどこか興味深そうに俺の後ろ姿を見送っている気配を感じる。
(ひとまず、最初の心理戦はクリアか……。だが、これで麻倉葉に『謎の同級生シャーマン』として認識されちまったな)
夕日に染まるふんばりヶ丘の街を歩きながら、俺は指輪のチャームをそっとなぞる。
原作では、この後、小山田まん太が墓地で葉と出会い、木刀の竜との騒動へと発展していくはずだ。
《蓮夜。本当にあやつを放っておいてよろしいのですか?》
(ああ。1周目の目的は、最強の力を貪り尽くすことだ。まずは原作のイベントを特等席で観察させてもらうさ。介入するタイミングは、こちらの都合で選ぶ)
魂に刻まれた不確かな周回バグ。その謎を解き明かすための俺の物語は、原作のタイムラインの裏側で、静かに、しかし確実に牙を研ぎ始めていた。