バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第42話:『厄災の制御と陰陽の調律』

第42話:『厄災の制御と陰陽の調律』

 

 『ヤクヤクの実』の自動発動を抑え込むための、レイリー副船長との特訓が始まった。

 場所はオーロ・ジャクソン号の甲板。周囲では船員たちが、いつ不運の巻き添えを食らうかと、少し離れた場所から戦々恐々としながら見守っている。

 

「いくぞ、クロウ。まずはその『垂れ流している気配』を内側に引き絞れ」

 

 レイリーが木刀を構えずに前に立つ。

 俺の周囲には、今も無意識に『厄災』のエネルギーが陽炎のように揺らめいていた。これを放置すると、近くにあるロープが突然解けたり、通りかかった船員が足をつらせたりする。

 

(くそ、悪魔の実のシステムってのは、思った以上に魂のバイパスに無理矢理割り込んでくるな……!)

 

 俺は深く息を吐き、全神経を集中させた。

 前世で叩き込まれたハオ直伝の陰陽術――その中でも、自らの霊力や穢れを完全に隠蔽する『隠形(おんぎょう)』の技術を応用する。自動発動している不運の波形を、自分のバグ巫力で包み込み、ジリジリと肉体の内側へと押し戻していくイメージだ。

 

《フフ、良いぞクロウ。悪魔の力とはいえ、所詮は精神(意志)のエネルギーの一種だ。お主の魂の強度をもってすれば、御せぬ道理はない》

 

 マタムネの声を頼りに、俺はさらに意識を鋭く研ぎ澄ます。

 外へ漏れ出ていた不吉なオーラが、ゆっくりと俺の体内に収まっていく。周囲の空気が、張り詰めた緊張感から徐々に通常のそれへと戻り始めた。

 

「……ほう。完全に気配が消えたな」

 

 レイリーが感心したように目を細める。

 

「今だ、レイリー副船長! 攻撃を仕掛けてくれ!」

「よし、いくぞ!」

 

 レイリーが一歩踏み込み、目にも留まらぬ速さで木刀を突き出してきた。

 俺はそれを間一髪でかわすが、動いた拍子に一瞬だけ意識の集中が途切れ、内側に抑え込んでいたヤクヤクの力がピクリと漏れ出してしまう。

 

 その瞬間、レイリーの踏み込んだ足元の甲板が、油でも塗ったかのように不自然にツルリと滑った。

 普通なら大体の大男が派手に転ぶスリップだ。しかし、相手は『冥王』レイリーである。

 

「おっと……!」

 

 レイリーは驚異的な体幹と見聞色の覇気で不運の兆候を察知し、滑った足を強引に地面へ踏みつけ、何事もなかったかのように体勢を立て直した。

 

「今のが『不運』か。なるほど、踏み込んだ瞬間に重心がわずかに狂った。並の剣士ならこれだけで首が飛ぶな」

「へっ……さすがにレイリー副船長を転ばせるのは無理か。だけど、コツは掴んだ。動いている時でも、陰陽術の波形を維持してヤクヤクの力を完全に閉じ込めておけば、自動発動は防げる」

 

 俺は不敵に笑い、自分の右手に意識を集中させた。

 体内に閉じ込めた『厄災』のエネルギーを、今度は右手の掌だけに、ピンポイントで凝縮させていく。

 

「次は、俺から仕掛ける。自動発動がダメなら――『接触発動』だ!」

 

 俺は床を蹴り、レイリーの懐へと飛び込んだ。

 木刀を囮に振り下ろし、空いた左手でレイリーの衣服の袖を鋭く掠め取る。

 

 パチッ、と小さな火花のような精神的衝撃が走る。

 狙い通り、触れた瞬間にだけ、凝縮した『不運』をレイリーの肉体へと叩き込んだ。

 

 その瞬間、レイリーが構え直そうとした木刀の柄が、乾いた音を立ててパキリと微細なひびを割った。さらに、レイリーの右目の瞼が、ほんの一瞬だけ強烈に痙攣(けいれん)する。

 

「む……っ!?」

 

 ほんの刹那の隙。だが、世界最高峰の戦士であるレイリーの動きが、確実にコンマ数秒だけ遅れた。

 

「そこだ!」

 

 俺はその隙を見逃さず、レイリーの胸元へ木刀を突き出す。

 レイリーはひび割れた木刀でそれを弾き飛ばしたが、その顔には明らかな驚愕の念が浮かんでいた。

 

「がははは! おいおいレイリー、今一瞬、完全に動きが止まってたぞ!」

 

 甲板の端で見ていたロジャーが、大喜びで野次を飛ばす。

 レイリーは自分の木刀のひびを見つめ、それから俺を見て、観念したようにふっと笑った。

 

「嫌な能力だな、本当に。こちらの覇気の防御を抜けて、肉体の生理現象や武器の耐久度にまで『不運』を強制してくるとは。……だがクロウ、見事だ。まだ完璧ではないが、任意での接触発動、確かに形になりつつあるな」

「ああ。付き合ってくれて感謝するよ」

 

 俺は汗を拭いながら、手応えに口元を歪めた。

 ただの厄災垂れ流しではない。陰陽術の制御によって、触れた瞬間に相手のコンディションや武器を強制的にバグらせる暗器。

 この『ヤクヤクの実』の真価を、俺はロジャー海賊団の船上で、着実に自分のモノにしつつあった。

 

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