バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第43話:『厄災を祓うロザリオ』
レイリー副船長との特訓で『接触発動』のコツを掴みつつあったが、やはり24時間ずっと陰陽術の波形を維持して『不運』を抑え込むのは、精神的な摩耗が激しかった。少しでも気を抜くと、周囲のロープが解けたりスープがひっくり返ったりする。
そんな中、オーロ・ジャクソン号はとある活気ある島へと寄港した。
久しぶりの上陸に船員たちが賑わう中、俺もまた、気晴らしと能力の制御に関する「ある仮説」を検証するために街へと繰り出していた。
目指したのは、街の喧騒から少し離れた丘の上に立つ、古びた教会だ。
「おい、クロウ。こんな場所に何の用があるんだ?」
暇を持て余したシャンクスとバギーが、なぜか俺の後ろをトコトコとついてきている。二人はまだ俺の自動発動を恐れて、微妙に距離を取っていた。
「ちょっとした探し物さ」
教会に足を踏み入れると、厳かな空気と共にかすかな聖なる気配が漂っていた。この世界には神仏や悪魔の実の概念がある。ならば、それに対抗する『祈り』や『破魔』の概念があってもおかしくはない。
俺の目は、売店に並べられていた安価な土産物の山に留まった。
(……あった。要は、こういうのでいいんだよな)
俺が手に取ったのは、十字架があしらわれた、どこにでもある普通のロザリオのネックレスだった。数百ベリーで買えるような代物だ。
《ふむ……。面白い着眼点だな、クロウ。悪魔の力が『呪い』の一種であるならば、こうした信仰や破魔のシンボルに反発するのは自明の理。お主の陰陽術で少し霊的な指向性を与えてやれば、立派な『封印の呪符』として機能するだろう》
マタムネが感心したように煙管をくわえて頷く。
俺はロザリオを購入し、その場で首にかけた。そして、魂の奥底のバグ巫力を小さく動かし、ロザリオが持つ微弱な『破魔の気配』と、俺自身の体内で暴れるヤクヤクの『厄災のエネルギー』を衝突させるように編み込んだ。
カチリ、と頭の中で何かが噛み合う音がした。
(――消えた。完璧だな)
あれだけ四方に垂れ流されていた不吉なオーラが、ロザリオを起点として、綺麗に俺の内側へと閉じ込められたのだ。必死に精神集中(コントロール)をしなくても、身に付けているだけで自動発動が完全にシャットアウトされている。
「……あれ? おいシャンクス、なんか急に冷気が消えた気がしねェか?」
「あ、本当だ。さっきまでクロウの近くにいるとゾクゾクしてたのに、今は全然平気だな」
距離を取っていたバギーとシャンクスが、不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。
「ああ、もう大丈夫だ。このロザリオが『破魔の結界』の役割を果たしてくれてる。これを着けてる間は、俺の周りで不運は起きないさ」
「へぇ! そんな簡単な解決方法があったのかよ! 早く言えよな!」
バギーが安心したように俺の肩をバシバシと叩く。その瞬間、俺はロザリオに指先でそっと触れ、封印の結界をほんの一瞬だけ緩めて、右手にヤクヤクの力を込めた。
「おいバギー、調子に乗ると――」
「ぎゃあああ!? 足がつった!!」
バギーが突然その場にひっくり返り、激痛に顔を歪めてのたうち回る。
「ははは! バギー、お前相変わらずマヌケだな!」
「シャンクス、笑い事じゃねェ! 激痛だぞこれ! 呪いだ、やっぱりクロウの呪いだァ!」
ギャーギャーと騒ぐ二人を見ながら、俺はフッと口元を歪めた。
普段はロザリオで完全に力を封印し、普通のモブとして過ごす。だが、戦う時や必要な時だけ、こうして任意に解放して不運を叩き込む。
特訓による精神論ではなく、外的な道具(ガジェット)を使ったスマートな解決。
完璧なオン・オフのスイッチを手に入れた俺は、ロザリオを服の中にしまい込み、軽やかな足取りで教会を後にするのだった。