バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第44話:『酒場の喧騒と迫る影』
ロザリオによって『ヤクヤクの実』の自動発動を完璧に抑え込めるようになった俺は、シャンクス、バギーと共に島での買い出しの任務を命じられていた。
大きな袋を背負い、活気ある港町の市場を歩く。
「おいクロウ、本当にそのネックレスを着けてりゃ大丈夫なんだろうな? 俺様はもう、さっきみたいに急に足がつるのは御免だぞ!」
「しつこいな、バギー。あれから一度も変なことは起きてないだろ」
ビクビクしているバギーを横目に、俺は周囲の『気配』に意識を向けていた。
ロザリオのおかげで自分の不運オーラは消えているが、1周目でカンストさせた俺の見聞色の素養(霊視)は、街のあちこちから放たれる不穏な気配を敏感に察知していた。
「なぁ二人とも、あそこの酒場、なんだか妙に騒がしくないか?」
シャンクスが麦わら帽子を押さえながら、通りの角にある大きな酒場を指差した。
中からは粗暴な笑い声や、食器が割れる荒々しい音が響いてきている。情報収集も海賊の見習いとしての重要な仕事だ。俺たちは顔を見合わせ、そっと酒場の様子を覗き見ることにした。
薄暗い店内では、数人の柄の悪い海賊たちが、町の住人たちを脅して酒を巻き上げていた。
男たちの衣服には、見慣れない髑髏のマーク。ロジャー海賊団のような大物ではないが、この近海で民間人を襲って小銭を稼いでいる小悪党の類だろう。
「ケッ、どいつもこいつもシけた面しやがって! おい、もっとマシな酒を持ってこい!」
「ひ、ひぃっ……! す、すぐに持ってきます!」
怯える店主の姿に、バギーが小声で毒づく。
「チッ、安物の海賊が格好つけやがって。ロジャー船長ならあんなダサい脅し方はしねェぞ」
「でもバギー、俺たち今は買い出しの途中だ。余計な騒ぎを起こすとレイリーさんに怒られるよ」
シャンクスが冷静に宥めるが、運命というやつは放っておいても向こうから歩いてくる。
酒場で暴れていた海賊の一人が、入り口の扉から顔を覗かせていた俺たちの存在に気づき、不機嫌そうに立ち上がったのだ。
「あァ? なんだそのガキどもは。……おい、そこの麦わら帽子と丸い鼻。俺たちの顔をジロジロ見てんじゃねェよ」
「誰が丸い鼻だコノヤロー!!」
お決まりの地雷を踏み抜かれたバギーが秒速で激怒し、シャンクスが慌ててそれを組み伏せる。
海賊はチッと舌打ちをすると、俺たち見習い3人組に向かってドカドカと足音を荒げて近づいてきた。その腰には、重そうな肉切り包丁のような大剣がぶら下がっている。
「おいガキども、命が惜しけりゃ持ってる買い出しの袋をここに置いて――」
(……やれやれ。モブらしく穏便に済ませたかったんだがな)
俺はため息をひとつ吐き、服の中に隠していたロザリオにそっと右手を伸ばした。
完全に抑え込んでいたヤクヤクの『厄災のエネルギー』を、結界の隙間からほんのわずかだけ指先に引き出す。
「おい、聞いてんのかガキ!」
海賊の親玉らしき男が、威嚇のために腰の大剣を引き抜こうとした、まさにその瞬間。
俺は男のすれ違いざまに、その鞘(さや)の先端へ、ツン、と人差し指で軽く触れた。
接触発動。
俺の指先から、目に見えない濃密な『不運の呪い』が、男の武器と足元へと流れ込んでいく。
「――あ?」
男が大剣を引き抜こうとした瞬間、なぜか鞘の内部の金具が奇跡的な確率で噛み込み、剣が途中で完全にロックされて抜けなくなった。無理に引っ張った男はバランスを崩し、さらに足元にあった小さな泥水に足を滑らせる。
「うおっと、ぶべらっ!?」
男は派手に顔面から地面へと突っ込み、激しい音を立てて鼻血を噴き出した。
さらに悪いことに、倒れた拍子に背負っていた銃の引き金が何かに引っかかり、暴発。乾いた銃声が響き、弾丸は彼らの仲間が持っていた酒樽の底を綺麗に打ち抜いた。
「ギャーッ!? 俺たちの酒がァーッ!」
「お、頭(かしら)!? 大丈夫ですか! なんだ今の自滅は!?」
酒場の中が一瞬にして大混乱に陥る。
何が起きたのか全く理解できていないシャンクスとバギーは、呆然と口を開けてその光景を見ていた。
「……な、なんだ? あいつ、勝手に転んで勝手に自滅したぞ?」
「がはは、マヌケな奴らだな! ほら、騒ぎが大きくなる前に荷物を持ってズラかるぞ!」
俺は二人の背中を押し、混乱する酒場を後にして足早に通りを駆け抜けた。
背後からは、まだ海賊たちの悲鳴と怒号が聞こえてくる。
(ロザリオのオン・オフ、思った以上に使い勝手がいいな)
普通のモブを装いながら、触れるだけで敵をマヌケに自滅させる。
この島での小さな遭遇戦で『ヤクヤクの実』の隠密性と実用性を確信した俺は、フッと口元を歪め、オーロ・ジャクソン号へと続く帰路を急ぐのだった。