バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第45話:『迫る軍艦と不敵な出航』
酒場での小競り合いを「不運の自滅」でスマートに煙に巻いた俺たちは、買い出しの荷物を抱えてオーロ・ジャクソン号へと帰還した。
甲板に荷物を下ろしたところで、船内がどこか慌ただしい空気に包まれていることに気づく。
「おい、クロウ、シャンクス、バギー! 戻ったか! 荷物を積んだらすぐに帆を張る準備をしろ!」
大きな声で指示を飛ばしてきたのは、航海士のスコッパー・ギャバンだった。
「ギャバンさん、何かあったんですか? まだ上陸したばかりなのに」
「海軍だよ、シャンクス。この島の近海に、数隻の軍艦がこちらに向かって進軍中だそうだ。それも、ただの小部隊じゃねェ」
ギャバンの言葉に、バギーが「ひぇっ!」と短い悲鳴を上げて青ざめる。
だが、船長室から出てきたロジャーとレイリーの顔には、焦りの色は微塵もなかった。むしろロジャーは、いつものように不敵で豪快な笑みを浮かべている。
「がははは! しつこいねェ、海軍の奴らも! よし、野郎ども、追いつかれる前に出航だ! 派手に波を蹴立ててズラかるぞ!」
「応っ!!」
ロジャーの一言で、船員たちの士気が一気に跳ね上がる。見習いの俺たちもそれぞれの配置へと走り出した。
俺は甲板のロープをまとめながら、服の中に隠したロザリオにそっと触れる。自動発動の『厄災』は完璧に抑え込まれているため、船の操作に支障が出るような不運は一切起きていない。
《クク……。海軍、か。この世界の『権力』の軍勢だな。クロウ、お主のそのロザリオのスイッチ、大がかりな海戦でも試してみるか?》
霊体としてマストの天辺から見下ろしているマタムネが、愉しそうに語りかけてくる。
(いや、大立ち回りを演じて有名人になるつもりはねえよ。俺はこの2周目、誰にも縛られずに気ままに自由に行きたいんだ。……ただ、面白そうなオモチャ(能力)があるんだから、退屈しのぎにちょっと悪戯するくらいはいいだろ?)
オーロ・ジャクソン号は錨を上げ、滑るように港を出港した。
しかし、島を離れてしばらく進んだところで、水平線の向こうから巨大な影が姿を現した。白い帆に刻まれた『MARINE』の文字――海軍の軍艦が、こちらの退路を塞ぐように扇状に展開していたのだ。
「囲まれてるぞ! ロジャー船長!」
「がはは、上等だ! 砲撃の用意をしろ! 正面突破だ!」
軍艦の主砲が火を吹き、激しい砲撃の音が海原に轟き渡る。
水飛沫がオーロ・ジャクソン号の甲板を濡らす中、俺は見習いとして大砲の弾を運ぶフリをしながら、迫り来る軍艦の『気配』を見聞色(霊視)でじっと観察していた。
(正面の1隻……あの配置は絶妙にこちらの進路を邪魔してるな。……よし、ちょっとだけ航海の邪魔者を退いてもらうか)
俺は弾薬箱の影に隠れ、ロザリオの結界をほんのわずかだけ緩めた。
そして、前世の陰陽術で鍛えた『遠隔への指向性』を、ヤクヤクの実の不運エネルギーに乗せて、正面の軍艦の操舵室目がけてピンポイントで放つ。
――接触ではなく、空間を超えた『視線による厄災の付与』。
その瞬間、正面の軍艦の舵を握っていた海軍兵の腕が、謎の強烈な突っ張り(こむら返り)を起こした。
「う、うわあああ!? 腕が、腕が動かんっ!?」
「どうした! 舵を左に切れ! 激突するぞ!」
海軍兵が苦悶の表情で舵を固定したまま倒れ込んだ拍子に、軍艦は不自然に急旋回を始めてしまう。その結果、隣を進んでいた別の軍艦の側面に、大音響と共に自ら激突していった。
ズガガガガァン!!!
「な、なんだと!? 正面の軍艦同士が同士討ちを始めたぞ!?」
「操舵のミスか!? 嘘だろ、あんなベテランの海兵たちが!」
予期せぬ海軍の自滅により、扇状の包囲網の正面にぽっかりと巨大な風穴が空いた。
ロジャーはその好機を見逃さず、剣を高く掲げて叫ぶ。
「がははは! 運がこっちに向いてやがる! 野郎ども、あの隙間を全速力で突き抜けるぞォ!!」
歓声を上げる船員たちと共に、オーロ・ジャクソン号は海軍の包囲網を鮮やかに突破していく。
俺はロザリオを再び服の奥へと仕舞い込み、飄々とした笑みを浮かべながら、何食わぬ顔で次の砲弾を運び始めるのだった。