バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第48話:『牙を研ぐ夜と、強者の条件』
白ひげ海賊団との三日三晩に及ぶ激闘、そして四日目の奇妙な物資交換を終え、オーロ・ジャクソン号は再び『偉大なる航路(グランドライン)』の青い海へと進路を取っていた。
島を離れて数日。甲板では、シャンクスとバギーが先日の戦いでの手柄(と、大半は言い訳)について、相変わらず騒がしく言い争っている。
「おいクロウ! お前、白ひげのオヤジさんに本気で嫌な顔されてただろ! 伝説の海賊をあそこまで引かせるなんて、ある意味お前が一番恐ろしいぜ!」
「うるさいよバギー。俺はただ、自分の持ってるカードを正直に説明しただけさ」
適当にバギーの言葉をあしらいながら、俺は自室に戻り、静かにベッドの上に腰掛けた。
首元のロザリオに触れると、ヤクヤクの実の不運エネルギーは完全に鳴りを潜めている。しかし、あの島で白ひげ海賊団の『隊長格』に正面から叩き伏せられた時の、あの圧倒的な『武装色の覇気』の感触は、今も俺の肉体と魂に鮮烈に焼き付いていた。
《クク……。随分と深く考え込んでいるな、クロウ。世界最強の男の軍勢に、完膚なきまでに叩きのめされたのが、そんなに堪えたかね?》
暗がりの部屋の中に、煙管の煙と共にマタムネが姿を現した。その隣には、慈愛に満ちた、しかしどこか見透かすような瞳をしたサクヤも並び立つ。
(堪えたってのとは少し違うさ。ただ……『ヤクヤクの実』という便利な玩具を手に入れて、少しばかり油断していたのは事実だな)
俺は自分の手のひらを見つめ、静かに巫力を滾らせた。
ヤクヤクの不運は、確かに世界の理をバグらせる強力な力だ。触れるだけで武器を壊し、足元を滑らせる。だが、相手の『武装色の覇気』――つまり、魂が肉体を覆うほどの強固な意志の力がこちらの巫力を圧倒している場合、その程度の不運は力づくで無視されてしまう。
この2周目を何にも縛られず、誰にも邪魔されずに気ままに自由に進めるためには、やはり土台となる『素の肉体(器)』と『覇気(意志)』が圧倒的に足りていない。
《お気づきになりましたか、クロウ様。この世界の空気(プロテイン)は、生きているだけで肉体を強くしてくれます。ですが、それを魂のバグ巫力と完全に『調律』し、練り上げるのはご自身の意志です》
サクヤが優しく微笑みながら、俺の肩に透き通った手を置いた。
(ああ。前世の陰陽術のノウハウに甘えて、この世界の『覇気』というシステムを舐めていた。あいつらの覇気は、単なる精神力じゃない。肉体と魂が完全に一つになった、理不尽なまでの生存本能の塊だ)
ハオ直伝の五行の理をベースに、ヤクヤクの力を閉じ込める。そこまではできた。
次にするべきは、その閉じ込めた不運のエネルギーを、俺自身の『武装色の覇気』として肉体に纏わせ、相手の強固な覇気の防御を内側から腐らせる(バグらせる)ほどの高密度な一撃へと昇華させることだ。そのためには、もっとこの肉体をいじめ抜き、レイリー副船長との特訓に本気で取り組む必要がある。
「へっ……面白くなってきたじゃねえか。あの隊長格の男、次に出会った時は、その自慢の覇気ごと不運でへし折ってやるさ」
俺が不敵な笑みを浮かべると、マタムネは嬉しそうにクスクスと笑い、煙管の煙を天井へと吹き上げた。
《それでこそ我が主だ。自由に生きるための牙、さらに鋭く研ぐとしよう》
敗北を糧に、俺の魂の奥底で青い炎がさらに静かに、しかし激しく燃え上がる。
普通の海賊見習いを装いながら、世界のバケモノたちをいつか驚かせるための真の最適化(チューニング)。俺の自由で気ままな2周目の航海は、ここからさらなる変革の時を迎えようとしていた。