バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第49話:『拳骨の英雄と不条理な防壁』
白ひげ海賊団との激闘からしばらくの後、オーロ・ジャクソン号は『偉大なる航路(グランドライン)』を進んでいた。
先日の敗北を糧に、俺はレイリー副船長との過酷な肉体鍛錬、探して自身のバグ巫力とこの世界の覇気の「完全同調」を進めていた。肉体(器)が強くなるほど、ヤクヤクの力を覇気に変質させる精度も格段に上がっていく。
だが、その修行の成果を否応なしに試される瞬間は、あまりにも唐突に、そして最悪の形で訪れた。
「おいおいおい! 冗談だろ、おい! なんであの船がこんなところにいるんだよォ!!」
見張り台からのバギーの絶刻が甲板に響き渡る。
水平線の向こう、こちらの進路を完全に塞ぐようにして現れたのは、巨大な海軍の軍艦――その船首には、犬の骨を象った禍々しいオブジェが佇んでいた。
「がははは! ロジャーァ!! やっと見つけたぞ、この野郎!!」
軍艦の甲板から、島を揺るがすような大声が響く。
海軍本部中将、モンキー・D・ガープ。後に『海軍の英雄』と呼ばれる、全盛期の拳骨のバケモノだ。その隣には、冷静に眼鏡を押し上げる智将センゴクの姿もある。最悪のコンビがこちらの退路を断っていた。
「げぇっ、ガープのじじいだ! 野郎ども、総員戦闘準備!!」
ロジャーの叫びと共に、オーロ・ジャクソン号の全船員が武器を構える。
だが、ガープの攻撃は常識の外側から飛んできた。男は軍艦の甲板に積まれた、船ほどもある巨大な鉄球を片手で軽々と持ち上げると、大砲をも遥かに凌ぐ速度でこちらへ向かって投げつけてきたのだ。
ズドォォォォン!!!
大気が爆ぜ、巨大な鉄球が凄まじい風圧と共にオーロ・ジャクソン号へ迫る。ロジャーとレイリーが即座に飛び出し、凄まじい覇気の一閃でそれを空中ではじき返した。
(おいおい、人間の腕力で投げる質量じゃねえだろ……!)
俺は首元のロザリオの結界を即座に緩め、右手にヤクヤクの『不運』のエネルギーを武装色の覇気として纏わせた。
白ひげの隊長格に負けたあの日から、俺の能力は進化している。ただの接触発動ではない。相手の覇気の防御を内側からバグらせ、強制的に綻びを生ませる『厄災の覇気』。これを全盛期の海軍最高戦力に試してやる。
激しい大砲の応酬の中、俺は飛び交う砲弾を足場にしながら、先陣を切って突撃してきた海軍の将校たちの中へと躍り出た。
「ガキが、調子に乗るな!」
海軍の少将クラスが、黒く染まった『武装色』の拳を突き出してくる。
俺はハオ直伝の陰陽術による精密なステップでそれを紙一重でかわし、男の胸元へヤクヤクの覇気を込めた掌を叩き込んだ。
パチチッ……! と不吉な黒い火花が散る。
その瞬間、少将の強固だったはずの武装色の覇気が、奇跡的な確率の「精神の乱れ」によって霧散し、彼の自慢の防具(正義のコートの金具)が突然へし折れて心臓を圧迫した。
「がはっ……!? な、何だこの不自然な……っ!」
激痛に顔を歪めた少将は、俺の素の体術による回し蹴りを防ぎきれず、そのまま甲板へと沈んでいった。
(いける……! 魂と覇気を同調させた不運の力なら、本物の強者の武装色だって裏からバグらせて、強制的に解除できる!)
確かな手応えを感じて口元を歪めたその時――世界が、一瞬で真っ暗になったかのような錯覚に陥った。
背後から迫る、文字通りの「天災」の気配。振り返る暇すらない。あまりにも巨大で、あまりにも圧倒的な、漆黒に染まりきった巨大な鉄拳が俺の視界を埋め尽くした。
「おいガキィ! こそこそ小細工してんじゃねェぞ!!」
ガープだ。いつの間にか俺の間合いに踏み込んでいた『英雄』が、一切の手加減なしの拳を振り下ろしてきた。
俺は本能的に両腕を交差し、カンストしたバグ巫力のすべてと、ヤクヤクの不運エネルギーを最大出力で前方に展開した。靴紐を千切れさせ、服を破き、筋肉を肉離れさせる――ガープを自滅させるための、あらゆる「理不尽な不運のルール」の防壁だ。
だが、その不運がガープに触れた、まさにその瞬間だった。
(……なっ!? 不運の概念が……消された……っ!?)
ガープの拳を覆う、天をも割るほどの超高密度な『武装色の覇気』。それは、ヤクヤクの実がもたらす「不運」という世界のシステムそのものを、力づくで真っ向から踏みつぶし、完全に無効化(シャットアウト)したのだ。
靴紐一枚すら千切れない。筋肉一つ歪まない。ただただ、「世界で一番硬い純粋な暴力」が、俺の張った陰陽術の防壁ごと、正面から俺の肉体を粉砕せんと迫る。
――ズガァァァァァァン!!!!!
島が一つ消し飛ぶかのような衝撃音が響き渡る。
不運を完全に無効化された俺の身体は、ガープの規格外の腕力によって、木の葉のように遥か彼方へと吹き飛ばされた。
「ぐ、あァァァァッ!!」
オーロ・ジャクソン号の甲板まで弾き飛ばされ、激しく背中を打ち付ける。
骨がきしむような激痛と、口から溢れる鮮血。意識が飛びかけるほどの衝撃の中、俺を辛うじてキャッチしたのはレイリーだった。
「無茶をするな、クロウ! あいつの拳には、悪魔の能力の搦め手など一切通用せんぞ!」
「……へっ、げほっ……! 本当に、とんでもねえ理不尽だな……!」
俺は口元の血を拭い、震える手で服の中からロザリオを取り出して再び首にかけた。ピタリと収まる厄災の力。
ガープの拳は、白ひげの隊長格などという生易しいレベルではなかった。不運のルールそのものを覇気でへし折り、「それがどうした、ただのパンチだ」と言わんばかりに実力だけで世界をねじ伏せる絶対的な壁。
(クク……これだから、この世界のバケモノたちは最高にイカれてやがる……!)
ロジャーとガープの激しい咆哮が響き渡り、二人の怪物が正面からぶつかり合う。
俺は自分の身体に走る激痛を、これ以上ない喜びとして感じながら、不敵に笑った。
ヤクヤクの力が完全無効化される世界。だからこそ、小細工なしの『素の強さ』を極める価値がある。完璧な自由を手に入れるため、俺は世界の頂点の理不尽さをその身に刻みながら、さらに強くなるための渇望を、魂の奥底で激しく燃え上がらせるのだった。