バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
――あの日から、ふんばりヶ丘の霊的密度は加速的に跳ね上がっていた。
麻倉葉は阿弥陀丸を持霊にし、シャーマンとして急速に馴染み始めていたが、同時にこの街に『次なる嵐』が近づいているのを、俺の魂のバグセンサーは明確に察知していた。
そしてある日の放課後、ついにその嵐が形となって現れる。
「――お前が麻倉葉か。くだらぬな、そのような気の抜けた男がシャーマンを名乗るとは」
夕暮れの街路樹の影から現れたのは、鋭い三つ編みの髪型をした、我が強く冷徹な瞳の少年。
中国の暗殺名家・道(タオ)家の御曹司、道 蓮(タオ レン)。
その背後には、巨大な馬に跨った禍々しい武将霊――馬孫(ばそん)が、圧倒的な殺気を放ちながら控えていた。
(ついに来たか。俺と同じ『レン』の名を持つ、最初の壁)
俺は離れたビルの屋上から、気配を完全に断ってその光景を見下ろしていた。
道蓮の戦闘スタイルは苛烈そのものだ。彼は霊をただの道具として扱い、馬孫の圧倒的な破壊力を自身の『馬孫刀』へと憑依させ、容赦なく葉へと襲いかかる。
ドガァンッ!! と、激しい衝突音が響き、葉と阿弥陀丸の憑依合体が防戦一方に追い込まれていくのが見えた。
《……凄まじいな。あの中国の武将霊、ただの人間霊の域を超えています。何より、あの主(道蓮)の、霊の力を限界まで絞り出すかのような強引な巫力の通し方……粗暴ですが、一撃の威力は破格です》
サクヤが俺の隣で、戦況を鋭く分析しながら呟く。
「ああ、あれが道家の戦い方だ。霊を消耗品として、巫力で無理やりブーストさせている。……だがサクヤ、あれは俺たちの戦い方の『ヒント』になると思わないか?」
《……ほう? と言いますと?》
俺は左手中指の指輪を見つめる。
道蓮の戦い方は、巫力を「爆発的」に込めて瞬間的な破壊力を生み出すものだ。なら、俺たちの戦闘スタイル――『弓矢』において、それを応用したらどうなる?
矢をただ放つのではない。俺のバグじみた膨大な巫力を、指輪という極小の媒介の限界まで圧縮し、サクヤの精密な射撃技術で一気に解放(リリース)する。
「葉たちの戦いはあいつらに任せる。サクヤ、俺たちも裏山で、俺たちの『極致』を完成させるぞ」
《フッ、仰せのままに。主のデカすぎる器、どこまで耐えられるか試してみましょう》
◆
ふんばりヶ丘の裏山。深い木々に囲まれた、誰も来ない即席の修練場。
俺は目を閉じ、道蓮が見せた巫力の爆発的な運用の残像を、脳内で自分の回路へと組み込んでいく。
「――オーバーソウル(O.S)」
俺の手元に、半透明の光輝く巨大な巫力の弓が具現化する。
ここまではいつも通りだ。だが、ここからさらに、俺の魂の奥底に眠る「周回バグによって累積された莫大な巫力」を、濁流の如く指輪のチャームへ、そして光の弦へと注ぎ込んでいく。
ミシ、ミシシ……ッ!
空間が歪むような重圧。指輪のチャームが悲鳴をあげるかのように激しく明滅し、光の弓がパチパチと青い火花を散らし始めた。
「くっ……! まだだ、まだ凝縮できる……ッ!」
《蓮夜! 媒介が持ちません! これ以上は魂の器が暴発します!》
「サクヤ、お前ならこの暴れ馬を御せるはずだ! 狙いを定めろ!」
サクヤの霊体が光の弓と完全に融け合い、暴走寸前の莫大な巫力を、強引に『極小の一点』へと収束させていく。
弦に番えられた光の矢は、もはや眩すぎて直視できないほどの純白い閃光へと変貌していた。
「標的は――あの遥か彼方の巨岩!」
限界まで引き絞られた光の弦。
俺は全ての雑念を捨て、指を離した。
「――墜ちろ、サクヤ。……『神鳴の一矢(かむなりのひとや)』!!」
ドォォォォンッッッ!!!
墓地で放ったものとは比較にならない、まるで落雷が起きたかのような爆音。
放たれた白い一閃は、音速を遥かに超えて空間を衝撃波で割りながら突き進み――次の瞬間、数百メートル先にある巨大な岩石を、跡形もなく粉々に粉砕(バースト)させた。
爆風が裏山の木々を激しく揺らし、砂煙が舞い上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
俺は膝を突き、激しく肩で息をした。左手の指輪は熱を帯び、煙を上げている。
だが、その破壊力は、原作初期のシャーマンが放っていい威力を遥かに逸脱していた。道蓮の『馬孫一撃』すらも正面から消し飛ばせる、俺たちの最初の必殺技(オリジナル・オーバーソウル)。
《……見事です、蓮夜。まさか私の射撃に、主の累積巫力をここまで上乗せできるとは。これなら、あの道家の小僧が相手だろうと、一撃で射抜いて御覧に入れましょう》
サクヤが誇らしげに、しかし少し荒い息を吐きながら微笑んだ。
「ああ……。これでようやく、原作のインフレに正面から殴り込める足がかりができた」
遠くの街の方角からは、未だに葉と蓮の激しい巫力の衝突がかすかに感じられる。
主人公たちの死闘を特等席で見つめ、その力を喰らって、裏でさらにバグった強さへと進化していく。
不確かな多世界周回の1周目。御門蓮夜の存在は、知らぬ間に原作のパワーバランスを大きく揺るがし始めていた。