バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第50話:『英雄の眼光と執念の追跡』
ガープの超暴力によって吹き飛ばされた俺は、レイリー副船長に支えられながら、何とかオーロ・ジャクソン号の甲板で立ち上がった。首元にかけ直したロザリオが、暴れ狂うヤクヤクのエネルギーを辛うじて内側に閉じ込めている。
だが、安堵する時間は一瞬たりとも与えられなかった。
軍艦の甲板から、こちらを真っ直ぐに射抜く、猛獣のような視線を感じたからだ。
「……おいおい、今の一撃を食らって、まだ五体満足で立ってやがんのか」
ガープだ。男は自分の拳を見つめ、それから俺の顔をじっと凝視した。
その鋭い眼光には、明らかな「不審」と「興味」が混ざり合っている。
「少将の覇気を一瞬で霧散させ、このワシの拳骨にまで妙な『薄気味悪い気配』をぶつけてきおったな。ただの悪魔の実の能力じゃねェ……あのガキ、何かとんでもねェ不吉なモノを隠し持ってやがる」
全盛期の英雄が持つ、本能的な見聞色の直感。俺が仕掛けたヤクヤクの力は完全に無効化されたはずだったが、ガープはその奥にある『魂の異質さ』を、その驚異的なセンスで嗅ぎ取っていた。
「がははは! 面白れェガキだ! おいロジャー、その見習いは海軍(ワシ)が引き取るぞ! 将来とんでもねェ大悪党にならんうちに、ワシが直々に叩き直して海兵にしてやるわい!」
「おいおい冗談言うなガープ! クロウはうちの大事なクルーだ、渡せるわけねェだろ!」
ロジャーが抜刀し、ガープの前に立ちはだかる。
だが、ガープの執念は凄まじかった。男はロジャーの斬撃を強引に拳骨で弾き飛ばすと、驚異的な瞬発力で海原を跳び、オーロ・ジャクソン号の甲板へと直接乗り込んできたのだ。
「来い、ガキィ!!」
ターゲットを俺一人に絞ったガープの巨大な手が、空気を引き裂いて伸びてくる。
捕まれば終わりだ。インペルダウンに連行されるか、ガープの地獄の特訓で海兵に洗脳されるか。どちらにせよ、俺の『自由気ままな航海』はそこで終了してしまう。
《おっと、これは洒落にならんぞ、クロウ! あの男、本気でお主を連れて行く気だ!》
《クロウ様、下がってください!》
マタムネとサクヤが同時に警告の声を上げる。
俺は痛む身体を無理矢理動かし、全力でバックステップを踏んだ。それと同時に、レイリーが横から滑り込み、黒刀を振るってガープの腕を阻止する。
「うちの見習いに色目を使うな、ガープ! 連行したければ私を倒してからにするんだな!」
「邪魔するなレイリー! ワシの直感が言っとるんだ、あのガキは絶対にここで捕まえにゃならんと!」
甲板の上で、レイリーとガープの凄まじい近接戦闘が勃発する。衝撃波だけで船の木の手すりが消し飛び、周囲の船員たちが巻き込まれないよう退避していく。
(くそっ、完全にロックオンされちまったな……。自由にのんびり旅をしたいだけだってのに、これじゃ世界一番の厄介者に目をつけられたようなもんだ!)
俺は服の奥のロザリオを握りしめ、冷や汗を流しながらも、口元を不敵に歪めた。
ガープという理不尽な壁、そして彼に目をつけられたという最悪の状況。だが、魂の奥底にあるバグ巫力は、この破滅的な危機を楽しんでいるかのように熱く滾っていた。
「面舵いっぱーい!! 突っ切るぞォ!!」
ギャバンの怒号と共に、オーロ・ジャクソン号が大きく傾き、ガープの軍艦の脇を強引にすり抜けていく。ロジャーが背後からガープに強烈な一撃を叩き込み、レイリーと共にガープを船外へと押し戻した。
「ぶははは! また逃げんのかロジャー! おいクロウ、お前の顔は覚えたからな! 次に会った時は絶対に引っ捕まえてやるぞォ!!」
海へと落ちながらも、豪快に笑いながらこちらを指差すガープの姿が、遠ざかっていく。
九死に一生を得た俺は、激しい息を吐きながら甲板にへたり込んだ。
「……へっ。連行できるもんなら、やってみろよ、英雄さん」
海軍の最高戦力にその存在を刻みつけ、追われる身となったクロウ。完璧な自由を手に入れるための航海は、皮肉にも、世界で最も危険な男からの執拗な追跡という形で、さらなる激動のステージへと突入していくのだった。