バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第52話:『水先星島と、終わりの始まり』
ガープとの遭遇戦から、さらに数ヶ月の月日が流れた。
俺はレイリー副船長の言葉通り、ヤクヤクの力だけに頼らない「素の強さ」を極めるべく、毎日のように肉体を限界まで追い込んでいた。この世界のプロテインが含まれているかのような濃密な空気を肺腑に吸い込み、泰山府君の技術を応用して細胞レベルで魂と肉体を調律していく。その成果は確実に実を結び、俺の放つ『武装色の覇気』は、以前とは比べ物にならないほど高密度に研ぎ澄まされつつあった。
そんなある日、オーロ・ジャクソン号の甲板に、かつてないほどの緊張感と、それ以上の高揚感が満ち満ちていた。
「見えたぞォーーー!!! 航路の最終地点だ!!!」
見張り台からの絶叫に、船員たちが一斉に船首へと駆け寄る。
水平線の向こう、荒れ狂う新世界の海を抜けた先に姿を現したのは、霧に包まれた幻想的な島――ログポースの指針がすべてこの場所を指して動かなくなる、人類未踏の地『水先星(ロードスター)島』だった。
「がははは! ついにここまで来たか! 野郎ども、上陸だァ!!」
ロジャーの豪快な号令が響き渡り、オーロ・ジャクソン号はゆっくりと島の海岸へと滑り込んでいく。
見習いの俺やシャンクス、バギーも興奮を隠せない船員たちと共に、初めてその大地へと足を踏み入れた。
島の中を進むにつれ、俺の見聞色の覇気(霊視)は、この島全体が放つ異質な『気配』を敏感に捉えていた。
《ふむ……。ここはただの終着点ではないな。世界の本質、その一端が眠っている気配がするぞ、クロウ》
霊体として俺の隣を歩くマタムネが、煙管をくわえたまま周囲の木々を見上げて呟く。
(あ国。ログポースが完全に狂ってやがる。……ここで行き止まりってわけじゃなさそうだな)
島の中心部には、古代の遺跡のような奇妙な祭壇が佇んでいた。そこにあったのは、歴史の真実を語るにはあまりにも情報が足りない、しかし「この先」が確実に存在することを示すいくつかの手がかりだった。
ロジャーやレイリー、ギャバンたちがそれらを深刻な、しかしどこか嬉しそうな顔で見つめている。
「……違ったな」
ロジャーが、ぽつりと呟いた。
「ログポースの最終地点はここだ。だが、世界の針はここで行き止まりじゃねェ。この島は、ただの『案内所』だ。本当の最後の島は……この海のさらに奥に眠ってやがる!」
ロジャーの言葉に、船内が一気に静まり返る。
世界で初めて『偉大なる航路(グランドライン)』を完全制覇したはずの海賊団が、その最終地点で「さらに先がある」という不条理な現実に突き落とされたのだ。普通なら絶望してもおかしくない。
だが、ゴール・D・ロジャーという男は違った。
「がはははは! 面白れェ! 誰も見たことのない、本当の最後の島がまだあるんだな! よし、野郎ども! 旅はまだ終わりじゃねェぞ! もう一周、最初からやり直しだァ!!」
「「おおおおおーーーっ!!!」」
船長の一言で、絶望は一瞬にして過去最高の熱狂へと裏返った。もう一度、この広大な海を最初からひっくり返しにいく。その規格外のスケール感に、俺は思わずゾクリと鳥肌が立つのを感じていた。
(がはは、もう一周か……。多世界を周回してる俺に向かって、なんて面白いことを言ってくれる船長だ)
俺は首元のロザリオを指先で弄びながら、不敵に口元を歪めた。
本当の最後の島へ行くには、世界に点在する『歴史の本文(ポーネグリフ)』、そしてそれを読み解く力が必要になる。つまり、ここからロジャー海賊団の航海は、世界の核心へと一気に加速していくのだ。
「おいクロウ! 何ニヤニヤしてんだよ! 次の航海に向けて、物資のチェックを始めるぞ!」
「わかってるよ、シャンクス。……さあ、世界を裏側からバグらせる準備を、本格的に始めようぜ」
水先星島という終着点。しかしそれは、クロウにとっても、ロジャー海賊団にとっても、真の『自由』を掴み取るための終わりの始まりに過ぎなかった。青く滾る魂の牙を秘めながら、俺たちは再び、伝説の続きへと舵を切るのだった。