バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第51話:『大物の烙印と次なる調律』
全盛期のガープという理不尽な猛獣から辛うじて逃げ切ったオーロ・ジャクソン号は、追撃を振り切り、再び『偉大なる航路(グランドライン)』の穏やかな海原へと戻っていた。
緊迫した空気が解けた甲板では、船員たちが散らばった資材の片付けに追われている。
「わははは! いやぁ、一時はどうなるかと思ったぜ! まさかあのガープが、ロジャーじゃなくうちの見習いを直々にスカウトしに来るなんてなァ!」
大きな樽に腰掛けたスコッパー・ギャバンが、腹を抱えて大笑いしている。
「笑い事じゃねェよギャバンさん! 俺様なんてあのじじいの顔を見ただけで寿命が3年縮んだんだぞ! なんでクロウの奴はあんなバケモノに目をつけられて平気な顔してやがんだ!」
バギーが真っ赤な鼻をピクピクさせながら、大袈裟に身振手振りを交えて文句を垂れている。その隣で、シャンクスはどこか羨ましそうに、しかし心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「でも、ガープ中将にそこまで警戒されるなんて、クロウはやっぱり凄いよ。……ケガ、本当に大丈夫か?」
「ああ、レイリー副船長がすぐに割って入ってくれたからな。骨に少しヒビが入った程度さ」
俺は服の上から首元のロザリオに触れ、フッと苦笑した。
今回はヤクヤクの実の不運エネルギーをガープの超高密度な武装色の覇気で完全に無効化され、さらには魂の異質さ(バグ)を本能的な見聞色で見抜かれるという、文字通りの完敗だった。
「おい、クロウ。ちょっと面を貸せ」
背後からの低い声に振り返ると、そこにはいつの間にかレイリー副船長が立っていた。
俺はシャンクスたちに手を振って別れ、レイリーに従って船尾の静かな区画へと移動した。レイリーは海を見つめたまま、静かに口を開く。
「ガープはお前の『力』の正体を見抜いてはいない。だが、お前がただの見習いではないこと、そして将来的に世界の脅威になり得る『何か』を宿していることには気づいた。あいつの直感は、時に海軍のあらゆる情報網よりも正確だからな」
「……買い被りすぎだよ。俺はただ、何にも縛られずに気ままにこの海を旅したいだけさ」
「その『自由』を突き通すだけの力が、今のお前にはあるか?」
レイリーの鋭い眼光が、俺の身体を射抜く。
「白ひげの隊長格には不運を力づくで押し返され、ガープには能力そのものを完全に消された。お前が持つ悪魔の力は確かに強力だが、新世界の頂点に立つ者たちの『絶対的な意志(覇気)』の前には、小細工は通用せん。……お前が本当に自由でありたいなら、そのバグった力に頼るな。お前自身の『器』を、あいつらを黙らせるほどに鍛え上げろ」
レイリーの言葉は、今の俺に深く突き刺さった。
「感謝するよ、レイリー副船長。……言われなくても、次にあいつらと会う時までには、もっとマシなツラを拝ませてやるさ」
俺が不敵に笑うと、レイリーは満足そうに口元を緩め、俺の頭を無造作に撫でて去っていった。
《クク……。手厳しいが、実に的を射た言葉だな、クロウ》
誰もいなくなった船尾で、煙管の煙と共にマタムネが姿を現す。その隣にはサクヤも静かに佇んでいた。
(ああ。ヤクヤクの力をただ垂れ流すだけじゃ、あのレベルのバケモノには届かない。ならば、今度はこの『不運の呪い』を自分自身の覇気の中に完全に溶かし込み、相手が触れた瞬間に『内部から覇気を腐らせる』ような、より高密度な調律が必要だ。それと……素の肉体をもっといじめ抜いて、プロテイン(空気)の恩恵を限界まで吸い上げてやる)
《素晴らしい意気込みですね、クロウ様。世界をバグらせる真の『厄災の覇気』……その完成に向けて、私もお手伝いいたします》
サクヤが慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
海軍の英雄に目をつけられ、世界から追われる身となったクロウ。だが、完璧な自由を手に入れるための牙を研ぐには、これ以上ない最高のシチュエーションだ。俺は青く滾る魂の炎を内側に秘め、次なる修行へ向けて静かに拳を握り締めるのだった。