バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第53話:『深まる呪いと覚醒の予兆』
『水先星(ロードスター)島』を後にし、本当の最終地点を目指すために、オーロ・ジャクソン号は再び世界の海を巡る航海へと突き進んでいた。
その途上、俺の肉体と魂には劇的な変化が起きつつあった。
レイリー副船長との絶え間ない実戦特訓に加え、この世界の濃密な空気(プロテイン)を取り込み続けた結果、俺の『器(肉体)』は急速に成人並みの強靭さを獲得し始めている。それによって、魂に宿る過剰なバグ巫力、そして『ヤクヤクの実』のエネルギーを受け止める許容量が爆発的に跳ね上がっていた。
ある嵐の夜。激しい雷雨が甲板を打ち据え、巨大な波がオーロ・ジャクソン号を翻弄する中、俺は船尾の静かな暗がりで、自身の右手に意識を集中させていた。
(……ただの接触発動じゃない。覇気と融合させて『内部から腐らせる』だけでもない。もっと、悪魔の力そのものの本質へ深く潜り込む……)
服の奥にあるロザリオの結界を、ミリ単位で慎重に解放していく。
すると、これまでは単なる「周囲の人間への微小な不幸」として漏れ出ていた不吉なオーラが、俺の成長した肉体と魂(バグ巫力)の制御によって、まったく異なる性質を帯びて変質し始めた。
ジリジリと、右手の周囲の『空間』そのものが歪むような、歪な霊圧が膨れ上がる。
《ほう……。ようやくその領域の入り口に触れたか、クロウ》
激しい雨風の中でも一切乱れることなく、煙管を手にしたマタムネが俺の隣に姿を現した。その瞳は、俺の右手から放たれる異質なエネルギーを冷徹に見据えている。
(ああ。今までは人間に対してしか作用しなかった不運のルールが、いま、俺の意志に呼応して『物質』や『環境』そのものへ侵食しようとしてるのが分かる)
《悪魔の実の『覚醒』の兆候、ですね。能力が周囲の人間だけでなく、世界そのものに影響を及ぼし始める……。クロウ様のバグ巫力とハオ直伝の五行の理が、悪魔の能力をより高次のステージへと強制的に引き上げようとしているのです》
サクヤが嵐の海を背景に美しく佇み、穏やかに、しかしどこか畏怖を覚えるような声で告げた。
俺は右手を、甲板の隅に置かれていた、何の意味もない頑丈な鉄の錨(いかり)へと向けた。触れてはいない。距離にして約1メートル。
その状態のまま、俺はヤクヤクの力を『空間そのものの不運』として、その一点へピンポイントで指向(放射)した。
(――不運のルールを固定する。その錨にとっての、最悪の『天災』が今ここで起きろ)
パチッ、と黒い火花が虚空で弾けた。
直後、触れてもいないはずの重厚な鉄の錨の内部で、数万回、数十万回もの経年劣化と金属疲労が「たったの一瞬で発生する」という、確率の概念を無視した超常現象が起きた。
錨は内側からボロボロに朽ち果て、激しい雨の圧力にすら耐えきれず、サラサラとした鉄の粉となって甲板へ崩れ落ちたのだ。
「……へぇ。触れずに、物質を裏からバグらせて消滅させる、か」
俺は自分の右手を見つめ、不敵に口元を歪めた。
これまではガープのような『圧倒的な覇気の持ち主』には能力そのものを完全に無効化されていた。だが、この「世界そのものを書き換える覚醒の力」が完全に開花すれば、どれだけ強固な武装色の覇気を纏っていようが、彼らが立っている『大地』を地盤沈下させ、彼らの頭上に『雷』や『火事(隕石)』を強制的に降らせて自滅させることが可能になる。
理不尽な超暴力(ガープ)に対抗するための、さらなる理不尽な不条理(天災)。その究極の切り札の片鱗を、俺は確かに掴み取った。
「おーい! クロウ! こんな嵐の中で何突っ立ってんだよ! 早く帆を畳むのを手伝ってくれ!」
遠くから、びしょ濡れになったシャンクスが声を張り上げて走ってくる。
「今行く! 悪りぃ!」
俺は即座にロザリオの結界を締め直し、何食わぬ顔で飄々とした見習いの仮面を被り直した。
誰も見たことのない本当の終着点へ向かう、伝説の航海。その影で、世界を裏側から完璧にバグらせるための『厄災の王』の牙は、嵐の海の中で静かに、しかし確実にその殺傷力を研ぎ澄ましていくのだった。