バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第54話:『閑話・不運な息子たちと、約束の神社』
――これは、ロジャー海賊団が『水先星(ロードスター)島』へと到達するよりもさらに遡る、とある「家族」の幕間劇(サイドストーリー)。
新世界に君臨する大海賊、エドワード・ニューゲート率いる白ひげ海賊団の巨大な旗艦モビー・ディック号は、滝を登るというあまりにも規格外な難所を越え、鎖国国家『ワノ国』へと漂着していた。
そこで白ひげたちは、後に彼らの『弟』となる、破天荒極まりない九里の大名――光月おでんという、一人の規格外の男と運命的な出会いを果たすことになる。
おでんは白ひげに一太刀浴びせるや否や、「おれの船に乗せてくれ!」と豪快に言い放ち、白ひげはその器の大きさを認めつつも、「人の下に立てるような男ではない」と、彼の同行を頑なに拒否していた。
――そんな、歴史の表舞台が熱く動き出そうとしていた影で。
モビー・ディック号の甲板の片隅では、数人のクルーたちが深刻な、しかしどこか必死な顔で頭を突き合わせていた。
「おい、マルコ……。聞いたか? この『ワノ国』って場所にはよ……」
「何だよい、マルコ。お前ら、おでんの入団テストの準備で忙しい時に、何をこそこそ集まってるんだい」
船医見習いのマルコが呆れたように声をかけると、集まっていた若いクルーたちが、冷や汗を流しながらガタガタと震え出した。彼らは、あの「ロジャー海賊団との四日目のプレゼント交換」の際、見習い坊主のクロウから悪ふざけでロザリオのネックレスを引っ手捕り、地獄のような『理不尽な不幸の連鎖』に巻き込まれた被害者たちだった。
「違うんだよいマルコ! 切実な問題んだ! あの日から、俺たちの不運がまだ微妙に続いてる気がしてならねェんだ!」
「そうだよ! 俺なんて昨日、何もない平地で滑って自分の刀で尻を刺したんだぞ! 絶対にあいつの『ヤクヤクの呪い』がまだ残ってやがるんだ!」
そこへ、すり鉢で豪快にすりつぶしたおでんを買い込んできた光月おでんが、どっかりとあぐらをかいて割り込んできた。
「おいおい、お前らさっきから何をコソコソと情けねェ面をしてやがる! 刀で尻を刺したァ? 侍が聞いて呆れるぞ、がははは!」
豪快に笑うおでんに、包帯を巻いたクルーが涙目で訴えかける。
「おでんの旦那、笑い事じゃねェんだ! ロジャーの船に、ただ近くにいるだけで周囲をマヌケに自滅させる『ヤクヤクの実』のクロウってガキがいるんだよ! 触られただけで武器が壊れるし、酷い時は原因不明の不運の連鎖で船ごと同士討ちが始まるんだ!」
「あん……? 近くにいるだけで不運が起きる悪魔の実だァ?」
おでんは目を丸くして、クルーたちの必死な説明に耳を傾けた。
「ああ! だから俺たちは、この国の住人に聞いた『神社(じんじゃ)』って場所にどうしても行きてェんだ! そこにはあらゆる災いや呪い、いわゆる『厄(やく)』を綺麗に祓い清めてくれる、不思議な『お守り』って札が売られてるんだろ!?」
お守り、という単語を聞いた瞬間、それまで面白がっていた光月おでんの笑顔がピタリと止まった。
おでんはガタッと立ち上がると、その濃い顔を限界まで歪めて目を見開き、驚愕と、心底「嫌そうな顔」を一遍に浮かべたのだ。
「――おい待て! 近くにいるだけでマヌケな自滅を引き起こすだと!? そりゃあ悪魔の実の能力っていうより、まるで歩く『疫病神』じゃねェか! 冗談じゃねェ、侍の誉れもクソもあったもんじゃねェぞ! 正々堂々と刀を交える前に、急にお腹を下したり刀の紐が千切れたりするってことだろ? 縁起が悪すぎるわ!」
いかに破天荒で恐れ知らずのおでんといえど、武士としての誇りや真っ向勝負の美学を持っている。戦いの強い弱いではなく、ただ近くにいるだけで「マヌケな不運」を強制的に演出してくるクロウの能力は、おでんにとってもリアルに最も関わりたくない、心底不気味で嫌な能力だった。
「だろ!? だから九里の奥地にある古い社で、お守りを山ほど買い込むんだ!」
「待て、お前ら。……念のため、おれの分も買ってこい。いや、おれも行く! 自分の目で確かめて、一番高いお守りを懐に忍ばせておく! あの疫病神にだけは、絶対に呪われたくねェ!」
絶対に不運に巻き込まれたくないおでんは、本気で嫌そうな顔のまま、クルーたちと一緒に神社へと同行することを即決したのだった。
少し離れた特等席から、大きな酒杯を傾けながらその様子を眺めていた巨漢――白ひげは、フンと鼻を鳴らした。
「グララララ……。おでんの野郎まで巻き込まれてやがる。マヌケどもが、海賊が神頼みとはシけた真似を。……だが、あのヤクヤクのガキの件に関しては、お前らのその警戒心は間違っちゃいねェ。あのクロウとかいうガキは、存在そのものが世界のバグだ」
白ひげの許可(?)を得たおでんと不運なクルーたちは、お守りを求めてワノ国の奥地へと大急ぎで走り出していった。
その頃、ロジャー海賊団の船尾で、いつものようにレイリーから課された鬼のような筋力トレーニングを平然とこなしていたクロウは、ふと、自身の魂の奥底(バグ巫力)がチクリと微弱に波打つのを感じていた。
《おや、どうしたクロウ。集中が乱れたぞ》
マストの上で煙管の煙をくゆらせるマタムネが、怪訝そうに目を向ける。
(いや……何でもないさ。ただ、遠くの国で、俺のヤクヤクの『穢れ』に怯えたマヌケな侍や海賊たちが、神社だのお守りだのって、懐かしい陰陽道の概念(システム)に縋ろうとしてる気配がしてな)
クロウは首元のロザリオに触れ、不敵に、そして飄々とした笑みを浮かべた。
(無駄だってのにな。この2周目の世界で、俺が自由に生きるために磨き上げている『厄災の覇気』は、そんな小綺麗な結界一枚で祓えるほど、生易しい代物じゃねえんだよ)
白ひげ海賊団の息子たちと光月おでんが、ワノ国の神社で必死に「お守り」を買い漁るという、滑稽で愛おしい閑話休題。
世界の裏側で、彼らがどれだけ必死に不運への対策を練ろうとも、それを遥かに超越する『バグ魂』の最適化(チューニング)は、ロジャー海賊団の航海と共に、どこまでも加速していくのだった。