バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第56話:『厄災の反転と、未来への祈願』
ロジャーと白ひげの激突が一段落し、島には一時的な休戦の空気が流れていた。
森の奥でサボテンのトゲを抜き終えた光月おでんは、未だに心底嫌そうな、そしてどこか悔しそうな顔をして大岩に腰掛けていた。その手のひらの上には、炭のように真っ黒く焼け焦げ、ボロボロに形を崩したワノ国のお守りの残骸がある。
「チッ……侍の誉れが形無しだ。ロジャーの一撃も見事だったが、まさかお守りが一瞬でこんな風に腐り果てるとはな。あのガキの『疫病神』っぷりは本物だぜ」
おでんがため息を吐くと、隣にいたイゾウも神妙な面持ちで頷いた。
そこへ、草むらを分けて飄々とした足取りの俺――クロウが姿を現した。
「うおっ!? 出たな疫病神っ!!」
おでんがガタッと飛び起き、反射的に身構える。周囲にいたマルコや白ひげのクルーたちも、一斉に俺から5メートル以上の距離を取って警戒態勢に入った。
「そう警戒すんなよ。さっきのはちょっとした悪戯(テスト)さ。……おっさん、そのボロボロのお守り、ちょっと貸してくれよ」
「あん? 何を企んでやがる。これ以上不運を上乗せされてたまるか!」
「いいから」
俺は歩み寄り、おでんの手から黒焦げになったお守りの残骸をひょいと奪い取った。
白ひげの隊長格やガープとの戦いを経て、俺のヤクヤクの力は進化している。そして、航海の間に掴み取った『覚醒』の兆候は、不運を押し付けるだけではない、もう一つの新たな応用(バグ)の扉を開いていた。
(ヤクヤクの実の能力の本質は、世界の『確率』や『因果』を最悪の方向へ書き換えること……。だったら、その発生した『厄(災い)』を逆に内側へ吸い取り、無かったことにする(反転させる)こともできるはずだ)
前世の陰陽道において、穢れを溜め込む『身代わり(形代)』の技術は基本だ。
俺は首元のロザリオの結界を完全に閉じ、今度は自分の右手へ、バグ巫力と共にヤクヤクの力を『逆転の波形』として流し込んだ。
(ハオ直伝の五行の理――木火土金水。万物の循環を巻き戻し、この物質に染み付いた『厄災』の概念を、俺の魂で丸ごと吸い尽くす!)
俺が黒焦げのお守りの上に右手をかざした瞬間、パチチと青白い静かな火花が散った。
おでんやイゾウ、マルコたちが息を呑んで見守る中、お守りにこびりついていたドス黒い不運の残滓が、俺の掌へとジワジワと逆流して吸い込まれていく。
すると、どうだ。
ベン・トーのあけびのように真っ黒く腐り果て、灰のようになりかけていたお守りの生地が、元の白さを取り戻し、ワノ国の神社で売られていた時以上の、清らかな『聖なる輝き』を放って完全に再生した。
「な……なんだとォーーーっ!?」
おでんが文字通り目玉を飛び出させて絶叫した。
「お前……不運をまき散らすだけじゃなく、災いを吸い取って物をもとに戻しちまったのか!? 一体どんな『妖術』だ……!」
「妖術ね。まあ、そんなところさ」
俺が不敵に笑うと、遠巻きに見ていた白ひげ海賊団のクルーたちが、一斉に目の色を変えて俺の元へと群がってきた。さっきまでの警戒はどこへやら、誰もが真っ黒に変色した自分たちのお守りを両手に握りしめている。
「お、おいクロウ! 俺たちのお守りも頼む!!」
「さっきはお守りを笑って悪かった! この真っ黒になったやつ、お前なら元に戻せるんだろ!? 頼むよ!!」
現金な奴らだ。だが、俺はフッと口元を緩めた。
白ひげ海賊団――家族を何より大切にする、この一本気な連中は、俺にとってもワンピースの世界の中で「好きな海賊団」の一つだ。気ままな2周目の航海の中で、彼らとこうして関わるのも悪くない。
「いいよ、全員分まとめて持ってきな。ついでに、今後のイベントに向けて『特製のお守り』に超強化してやるよ」
「え? 特製のお守り?」
マルコが不思議そうに首を傾げる。
俺は集まった山のようなお守りを前に、陰陽術の術式をさらに深く練り上げた。この先の未来、おでんの妻であるトキが、この船の上(あるいは次の旅の途中)で子供を産むこと、そして彼らが様々な激動に巻き込まれていく歴史を、周回者である俺は知っている。
(ヤクヤクの因果反転――これを持たせる奴らに、あらゆる『幸運』と『守護』を強制付与する。航海の安全を守る【安全祈願】。そして、これから生まれてくる命を守るための【安産祈願】だ)
俺のバグ巫力が光となり、すべてのお守りを包み込む。
再生したお守りたちは、ただ元に戻っただけでなく、内側から眩いほどの霊光を放つ『最上位の護符』へと進化を遂げた。
「ほら、これでお前らの航海の安全はバッチリだ。おでんのおっさんも、奥さんやお腹の子供のために、その安産祈願のお守りをちゃんと持っておきなよ」
「あん……? トキの安産祈願だと? お前、なんでトキが子供を孕んでることを……」
おでんがギョッとして俺の顔を見たが、俺はわざとらしく肩をすくめてみせた。
「ただの直感さ。悪魔の実を食べた『疫病神』の言うことだ、信じるか信じないかはおっさん次第だよ」
そう言い残し、俺は飄々とした足取りでロジャーたちのいる方へと歩き出した。
お守りを大事そうに抱え、驚きと感謝の念を浮かべる白ひげ海賊団の面々。
ただ不運を撒くだけの能力から、因果を操り、未来の災いすら未然に防ぐ領域へ。完璧な『自由』を体現するためのバグ能力は、伝説の海賊たちにその底知れなさを植え付けながら、さらに美しく、凶悪に磨き上げられていくのだった。