バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第55話:『お守りの侍と、神避の瞬間』
それからさらに航海は進み、運命の歯車は再び一つの島へと収束しようとしていた。
そこで待ち伏せしていた海軍を叩きのめした時、ワノ国を出国し、光月おでんを新たな『弟』として迎え入れた白ひげ海賊団のモビー・ディック号が上陸していた。
見張りをしていたバギーが対岸に白ひげの船がやってきて上陸してくるのを叫んでいた。すると、どうだろう、おでんが猛スピードでこちらに向かってきてくる。
「よう、侍、『神避(かむさり)』!」
ロジャーの覇王色を纏った黒い稲妻が走る一閃がおでんに直撃しそのまま吹き飛ばされた。
(おお!ロジャー船長とおでんとの初めての邂逅か、この島だったか。)
2週目の転生から知っていたとはいえ、流石に忘れてきた。
「わははは! ニューゲート! また会えたなァ!」
「ロジャー……! 体調が悪いと聞いていたが、相変わらずうるせェ男だ!」
島の大地で、ロジャーと白ひげが再び正面からお互いの覇王色を纏い触れない斬撃が激突する。天を割る覇王色の衝撃波が島中に吹き荒れる中、その戦場の中心へと、凄まじい勢いで突撃してくる一人の男がいた。二本の刀を構え、髪を高く結い上げた異形の侍――光月おでんだ。
「おれは九里の大名、光月おでんだ! ロジャー、もう一度勝負しろォ!!」
おでんの圧倒的な覇気と突進力。だが、俺の視線(霊視)は、おでんの『衣服の隙間』に釘付けになっていた。
なんと彼の着物の懐や帯の間には、ワノ国の神社で買い漁ったお守りや魔除けの札が、これでもかとガチガチに詰め込まれ、不自然に膨らんでいたのだ。
(おいおいおい……マジで山ほど買い込んできやがったな)
《クク……。あれほど必死に『疫病神』への対策を施してくるとはな。お主、ずいぶんと嫌われたものだ、クロウ》
マタムネが呆れたように、しかし愉快そうに煙管をくわえて笑う。
「ガキ、どけェーーーっ!!」
突撃ルート上にいた俺を視界に捉えた瞬間、おでんの顔が引き攣った。彼は「こいつが噂の……!」と言わんばかりに心底嫌そうな顔を浮かべ、懐のお守りを片手で上からぎゅっと押さえつけながら、全力で俺との距離を離そうと斜めにステップを踏んだ。
だが、そのおでんの前に、我らが船長ロジャーが笑顔で割り込む。
「おでん! お前に怪我をさせちゃあニューゲートに怒られる! もう一丁――『神避(かむさり)』!!」
黒い稲妻を纏ったロジャーの一閃が放たれ、おでんは防御が間に合わず、凄まじい衝撃と共に遥か彼方の森の奥へと吹き飛ばされていった。
「おでん様ァーーーっ!?」
それを見たマルコや、おでんを追って密航してきたイゾウ、さらにはイヌアラシやネコマムシたちが驚愕の声を上げる。
俺はロザリオの結界をほんのわずかだけ緩め、吹き飛んでいくおでんに向かって、ヤクヤクの『不運の指向性』をそっと飛ばしてみた。懐のお守り結界がどれほどのものか、ちょっとした腕試しだ。
――その瞬間、おでんの懐に異変が起きた。
おでんが着物の隙間に仕込んでいた純白のお守りや魔除けの札が、俺の放った目に見えない厄災のエネルギーを吸い込んだ途端、まるでどす黒いインクを落としたかのように、中心から急速に色が変わり始めたのだ。
それは、ただ汚れるというレベルではない。まるで『ベン・トー』の井ノ上あせびの不幸体質の様に黒く染まり、お守りの生地や紙がジワジワと炭のように真っ黒く焼け焦げ、内側からボロボロに腐り果てていくという、あまりにも不気味な変色描写だった。
「お、おいイゾウ……! おれのお守りが、急に真っ黒に……ッ!?」
吹き飛ばされながら懐の異変に気づいたおでんが、驚愕に目を見開く。破魔のシンボルであったはずのお守りたちが、ヤクヤクの実がもたらす『強制的な不運の穢れ』の許容量を超え、身代わりとなって完全に死に絶えたのだ。
黒い灰となってボロボロと崩れ落ちるお守りの山。そして、その防壁が消え去った刹那、ヤクヤクの力が完全におでんの肉体を捉えた。
ドサササァッ!
森の奥の巨木に激しく激突したおでんが、体勢を立て直そうと反射的に地面に手をついた瞬間、そこにあったのは偶然にも、島固有の猛烈にトゲの鋭いサボテンの群生だった。
「――ぶべらっ!? 痛ェっ!! なんだこのトゲはァーっ!?」
おでんの絶叫が森に響き渡る。それと同時に、残っていた数枚のお守りも全て真っ黒に変色して消滅した。
それを見た白ひげクルーの包帯男が、腰を抜かさんばかりの恐怖に顔を歪めた。
「ひ、ひぃぃっ! ワノ国の最高級のお守り結界が、一瞬で真っ黒に腐りやがった……! やっぱりあのガキ、本物の疫病神だァ!!」
「野郎ども、クロウの半径5メートル以内には絶対に近づくんじゃねェよい!!」
マルコが悲鳴のような指示を出し、白ひげ海賊団の面々が俺を避けて一斉に左右へ散っていく。
俺は首元のロザリオに再び指をかけ、封印を戻しながら、飄々とした笑みを浮かべた。
「酷い言われようだな。俺はただ、ここに立ってただけなんだけどさ、流石に傷つくぞ」
ロジャーと白ひげの最強の激突の裏で、お守りを真っ黒に腐らせて不運の悪戯を仕掛けるクロウ。
この島での出会いが、後にロジャー海賊団の運命を決定づける「光月おでんの引き抜き」へと繋がっていく。世界の真実を読み解くためのピースが揃いつつある中、俺の自由気ままな2周目の航海は、いよいよ世界の核心へと足を踏み入れるのだった。