バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

56 / 110
第57話:『巨星への健康祈願と、運命の移籍』

第57話:『巨星への健康祈願と、運命の移籍』

 

 白ひげ海賊団のクルーたちのお守りを【安全祈願】や【安産祈願】へと強化し終えた頃、島の中央では歴史が大きく動こうとしていた。

 ロジャーが白ひげの前に両手をつき、「頼むニューゲート! おでんを1年貸してくれ!」と頭を下げて土下座をしていたのだ。世界の真実である『最後の島』へ到達するため、歴史の本文(ポーネグリフ)を読めるおでんの力がどうしても必要だという、執念の懇願だった。

 

「ふざけんなロジャー!!! おれの家族を奪う気かァ!!!」

 

 白ひげは激怒し、島全体が激しくひび割れるほどの凄まじい覇気と怒号を放つ。おでんやその家族を「弟」「家族」として何より大切に想う白ひげだからこその、魂からの拒絶だった。だが、当の光月おでん自身が「ロジャーの呼び声」に魂を揺さぶられ、「おれを行かせてくれ、ニューゲート!」と叫んだことで、ついに1年間という期限付きでの移籍が決定した。

 

 モビー・ディック号とオーロ・ジャクソン号の間で、荷物の積み込みや盛大な別れの宴が始まる。その喧騒から少し離れた大岩の影で、俺――クロウは、手元にある一際清らかな霊光を放つ特製のお守りを見つめていた。

 

《ほう……。お主、白ひげ海賊団(あやつら)がよほど気に入ったと見えるな、クロウ。ずいぶんと丁寧にバグ巫力を注ぎ込んでいるではないか》

 

 マストの陰から姿を現したマタムネが、煙管をくゆらせながら感心したように目を細める。

 

(まあな。俺はこの2周目、誰にも縛られずに自由に生きたい。だけど……好きな奴らが理不尽な運命でボロボロになっていくのを、ただ指をくわえて見てるのも、自由とは言えねえからな)

 

 周回者である俺は知っている。この後、おでんを送り出した白ひげ海賊団がどんな運命を辿るのか。

 二十数年後、この世界最強の男――エドワード・ニューゲートは、点滴に繋がれるほどの重病を患い、全盛期の力を失っていく。ヤクヤクの実の能力の本質は、因果の書き換えだ。不運を撒き散らす力を『反転』させ、陰陽道の五行循環と組み合わせれば、病魔や衰退という「最悪の因果」を、お守りが身代わり(形代)となって少しだけ和らげることができるはずだ。

 

(ハオ直伝の技術と、俺の巫力をここに込める。白ひげの肉体を蝕む病魔の進行を、ほんの少しでも遅らせる身代わりになってくれ……【健康祈願・強化版】だ)

 

 俺の手の中のお守りが、静かな光を放ち、やがてその輝きを内側へと閉じ込めた。

 

「おい、ガキ。そこで何をごちゃごちゃやってやがる」

 

 背後からの地鳴りのような声に振り返ると、そこには巨大な薙刀『むら雲切』を肩に担いだ白ひげが立っていた。相変わらず、俺のヤクヤクの力を警戒して、絶妙に5メートルの距離を取っている。

 

「おっさん。これ、お土産(プレゼント)だよ。受け取ってくれよ」

 

俺は歩み寄り、特製のお守りを白ひげの足元へポイと投げた。白ひげは嫌そうな顔のままそれを拾い上げ、手のひらの上のお守りを怪訝そうに見つめる。

 

「あん……? 何だこの妙な袋は。おれに不運をなすりつける気じゃねェだろうな」

 

「まさか。それは【健康祈願】の特製お守りさ。おっさん、あんたは強すぎる。だけど、いつかその強すぎる肉体が病魔に侵され、衰える時が来るかもしれない。……その時、そいつが少しだけ病気の身代わりになってくれる。肌身離さず持っておきなよ」

 

 俺の言葉に、白ひげは一瞬だけ目を見開いた。全盛期の今、己の衰えなどを口にする者など世界に一人もいない。だが、俺の瞳の奥にある深みを見て、白ひげはフンと鼻を鳴らした。

 

「グララララ……! 生意気なガキだ。おれが病気に負けるように見えるか? ……だが、家族を奪おうとするロジャーの船の奴の言葉だ、まともに聞く気はねェ。……ただ、息子たちがありがたがってた袋だ、貰っておいてやる。ロジャーの船で、おでんを困らせるんじゃねェぞ」

 

 白ひげはお守りをそっと懐の奥深くへと仕舞い込んだ。

 お守りに込められた陰陽の呪式が白ひげの強靭な肉体と同調を始め、彼の運命の軌道が、裏側から静かに和らいでいくのを俺は見届けていた。

 

「クロウ! 出航だぞ! おでんさんも乗った、早くしろ!」

 

 シャンクスの呼ぶ声が聞こえる。俺は白ひげに不敵な笑みを残し、オーロ・ジャクソン号へと向かって走り出した。

 光月おでんという新たな規格外の仲間を乗せ、ロジャー海賊団の航海はいよいよ世界の真実へと向かって最終周回へと突入する。未来の病魔の因果すら少しだけバグらせた俺は、飄々とした笑みを浮かべながら、伝説の船の甲板へと飛び移るのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。