バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第58話:『疫病神と同乗の航海』
白ひげ海賊団との運命的な交渉を経て、光月おでんとその妻トキ、そしてまだ幼いモモの助と日和を乗せたオーロ・ジャクソン号は、世界の真実を巡る最後の航海へ向けて勢いよく波を切っていた。
なお、白ひげの船にいた家臣のイゾウは「白吉っちゃん(白ひげ)を頼む」とおでんに残され、白ひげ海賊団に残留。代わりに、おでんを追ってきたイヌアラシとネコマムシの二匹が、ロジャーの船の物資の隙間に勝手に(密航という形で)潜り込んで入ってきているのが見つかり、甲板は早くも賑やかなお祭り騒ぎとなっていた。
「おいロジャー! 話が違うぞコノヤロー! なんであの『疫病神』が最初からここにいるんだァ!!」
おでんが航海図を広げていたロジャーに詰め寄っていた。その手は、先ほど俺がヤクヤクの力と陰陽術で【安産・安全祈願】へと超強化し、輝きを取り戻したあのお守りを、着物の懐ごとぎゅっと上から押さえている。
「がははは! おでん、何を驚いてんだよ! クロウはうちの自慢の見習い雑用係だぞ!」
「知ってるわ! 白ひげの船にいた頃からお前らのところに『ヤクヤクの実』のクソガキがいることは聞いてたが、同じ船で1年間も寝食を共にするなんて聞いてねェ! 妖……いや、あんな不吉な能力者と一緒じゃ、おれの命がいくつあっても足りねェわ!」
おでんは心底嫌そうな、そして本気で警戒している顔で、少し離れた場所で何食わぬ顔をしてロープをまとめていた俺を指差した。
おでんは前もって白ひげのクルーたちからクロウの「不運を撒き散らす疫病神」としての恐ろしさを聞いていたからこそ、最初から俺がこの船にいることは知っていた。だが、いざ実際に同じ空間で暮らすとなると、その理不尽な不気味さに改めて肝を冷やしているのだ。
「おいおいおでん、クロウを怖がりすぎだって。あいつ、普段はロザリオを着けてるから、何も悪さをしなけりゃただの生意気なガキだぜ?」
「そうだぞ! 俺様なんて何度もあいつの不運の巻き添えを食らってるが、この通りピンピンして――痛っ!? 船の手すりに頭ぶつけたァーっ!!」
バギーが喋った瞬間に盛大に足を滑らせ、手すりに頭を強打してうずくまる。それを見たおでんは「ほら見ろォ!! 呪いだ!!」とさらに目玉を飛び出させてのけ反った。
(……やれやれ。バギーのはただのマヌケな自爆だってのにな)
俺はため息をひとつ吐き、まとめたロープを担いで、おでんのいる方へと飄々とした足取りで歩み寄った。俺が一歩近づくたびに、おでんが不自然なほど大股でズササッと後ろへ距離を取るのが可笑しい。
「おっさん、そんなに怯えんなよ。さっき白ひげの船でお守りを再生させてやっただろ。俺はただ、誰にも縛られずに自由に旅したいだけなんだ。あんたたちの旅の邪魔をするつもりはねえよ」
俺が首元のロザリオを指先で弄びながら不敵に笑うと、おでんは一瞬だけ呆気に取られたように動きを止めた。それから、俺の言葉の奥にある妙な落ち着きと覚悟を感じ取ったのか、フンと鼻を鳴らして構えを解いた。
「……自由に旅したい、か。ロジャーと言い、お前と言い、この船の奴らはどいつもこいつも、おれの常識の枠に収まらねェ奴ばかりだ。だが……トキや子供たちにだけは、絶対にその不運の力を近づけるんじゃねェぞ」
「分かってるよ。そのために特製のお守りにしてやったんだからさ」
俺が肩をすくめてみせると、おでんはまだ少し嫌そうな顔を残しつつも、ようやく肩の力を抜いてガハハと笑った。
《クク……。勝手に乗り込んできたイヌやネコも含め、ずいぶんと賑やかな航海になりそうだな、クロウ》
俺の肩の後ろで、誰も気づかない霊体の中でマタムネが煙管をくゆらせて笑う。
「よし! 出発だァ! 野郎ども、おでんの案内で、まずはスカイピア――『空島』を目指すぞォ!!」
「「おおおおおーーーっ!!!」」
ロジャーの豪快な号令が船内に響き渡り、オーロ・ジャクソン号の帆が力強く風を孕む。
イゾウを白ひげの船に残し、勝手についてきたイヌアラシたちを乗せて進むロジャー海賊団。世界の真実へと至る最後の旅路の幕が、ついに本格的に上がるのだった。