バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
――ふんばりヶ丘総合病院、個室。
白いベッドの上で、包帯塗れになった麻倉葉が天井をぼんやりと見上げていた。
中国から来た道(タオ)家のシャーマン、道 蓮(タオ レン)との死闘。結果として、葉は阿弥陀丸との凄まじい執念の憑依合体によって勝利を収め、阿弥陀丸を守り抜くことには成功した。
だが、その代償は大きかった。肉体は限界を超えてボロボロになり、こうして病院のベッドに横たわっている。
ガラガラ、と静かに病室のドアが開く。
「……あれ、御門くん?」
「よお、麻倉。随分と派手にやられたな」
パイプ椅子に座って看病していたちびっ子――小山田まん太が「えっ、クラスの御門くん!?」と目を丸くする中、俺、御門 蓮夜(みかど れんや)は適当に買ってきたリンゴの袋をベッド脇の棚に置いた。
「学校で担任が『麻倉が事故で入院した』って言ってたからさ。一応、隣の席のよしみでお見舞いだ」
「あはは……。事故、ね。わざわざありがとね、御門くん」
葉は痛む身体を少しだけ起こし、苦笑いを浮かべた。
勝ったはずの彼の瞳の奥には、どこか晴れない曇りがある。道蓮が放った圧倒的な巫力のプレッシャー、そして歴史の影で暗躍してきた道家という一族の底知れない闇に対する危機感が、重くのしかかっているのが俺のバグセンサーにはっきりと視えた。
「……勝ったっていうのに、浮かない顔だな。あの道(タオ)家のシャーマンの背後に、もっとヤバい因縁でも視えたか?」
俺が声を潜めてそう切り出すと、横にいたまん太が「えっ、シャーマン!? 御門くん、君もそっち側の人間なの!?」とガタッと椅子を鳴らして驚愕した。
「まん太、静かに。……やっぱり、御門くんには隠せないか」
葉はまん太を手で制し、真剣な顔で俺を見つめてきた。
「勝つには勝てたんだ。でもさ、あいつの巫力はオイラなんかよりずっと上で、本当にギリギリだった。それに、道蓮は言ってたんだ。自分よりもっと強い奴らがこれからゴロゴロ現れるって。……正直、今の憑依合体のままじゃ、この先の戦いにはついていけない気がするんだよね」
ポツリと漏らした、主人公の率直な危機感。
原作知識がある俺は、この後、世界規模の戦い『シャーマンファイト』が始まり、霊を完全なエネルギーとして武器に宿す『オーバーソウル(O.S)』の技術が必須になることを知っている。
今の葉は勝てたからこそ、自分の肉体を使った憑依合体の「限界」を誰よりも痛感しているのだ。
《蓮夜、あまり深く関わるのは危険では? あやつに中途半端な知識を与えれば、原作の因果が歪みかねませぬ》
(分かってるさ、サクヤ。ただの気まぐれだ。隣の席の奴がいつまでもジメジメしてたら、俺の寝覚めが悪いだろ?)
俺は左手中指の指輪をそっと撫で、ベッドの柵に肘をついて葉の顔を覗き込んだ。
「なぁ、麻倉。一つだけ、野良の独り言として聞いてくれ」
「……え?」
「お前と阿弥陀丸の憑依合体は確かに凄い。だが、人間の身体には肉体的な限界があるだろ? いくら強い霊を重ねても、お前自身の身体が耐えきれなきゃ、今回みたいにボロボロになる。……じゃあ、もし肉体以外の『別の何か』、例えばあいつの愛刀だったり、そういう物質に霊の強度をそのまま上乗せできたら、どうなると思う?」
――『物質に霊を宿す』。
それは、この先始まるシャーマンファイトにおける必須技能であり、俺がすでに指輪で完成させている『オーバーソウル』の、極めて核心に近いヒントだった。
「肉体、以外の……物質に……?」
葉の瞳が、ハッとしたように大きく見開かれる。
まだ明確な形にはなっていないだろうが、彼の天才的なシャーマンとしてのセンスが、俺の言葉の裏にある「莫大な可能性」の尻尾を確かに掴んだようだった。
「ま、ただの妄想だ。出雲の名家のお坊っちゃんなら、俺みたいな野良に言われなくても、すぐに自分で答えを見つけるだろ」
俺はそれだけ言うと、荷物をまとめてサッと立ち上がった。
これ以上ここにいれば、麻倉家の関係者に俺のバグじみた巫力を察知されるリスクがある。
「じゃあな, 麻倉。早く退院して席に戻ってこいよ。お前がいないと授業中寝ててもカモフラージュにならなくて困るんだ」
「あはは……うん。ありがと、御門くん。なんだか、次に進むべき道が視えた気がするよ」
葉はいつもの緩い、しかし確かな闘志を宿した笑みを浮かべて俺を見送った。
(これでいい。葉はさらに劇的に強くなる。裏でさらに力を蓄えるだけだ)
病院を出て、夜の帳が下りるふんばりヶ丘の街を歩きながら、俺は不敵に笑う。
主人公にほんの少しのスパイス(助言)を与えた。これがこの世界の未来をどう変えるのか、あるいは変えないのか。
どちらにせよ、俺の多世界周回は、ますます面白い方向へ加速していくに違いない。