バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第59話:『空島への突き上げる海流(ノックアップ・ストリーム)』
光月おでんを乗せたオーロ・ジャクソン号は、一路、伝説とされる地――上空一万メートルに浮かぶ『空島』を目指し、ジャヤの近海へと到達していた。
勝手に密航してきたイヌアラシとネコマムシもすっかり船になじみ、おでんの案内とロジャーの持つ「万物の声を聞く力」によって、空へと突き上げる異常海流『突き上げる海流(ノックアップ・ストリーム)』の発生ポイントを完全に捉えようとしていた。
「お、おいロジャー! 海が突然盛り上がってやがる! おれの航海日誌に何と書けばいい!!? 海が!! 爆発するぞォ~~~っ!!!」
「わははは! 見てろおでん、世界は広いんだ! 船をガチガチに固定しろよ、野郎ども!!」
ロジャーの豪快な笑い声と共に、海面が不気味に盛り上がり始める。
船の周囲の海水が一気に沸騰したかのように泡立ち、巨大な積帝雲の下で、天へと届く大爆発が起きた。凄まじい質量と圧力の海水が、文字通り垂直の巨大な柱となって天へと噴き上がったのだ。
「う、うわああああーーーっ!!! 船が垂直に浮いてやがるーーーっ!!!」
「ひぇぇぇ! 落ちる! 海に落ちたら俺様はカナヅチなんだよォ!!」
バギーが涙目で叫び、シャンクスが必死にマストに掴まる中、オーロ・ジャクソン号は噴き上げる海流の濁流に乗り、もの凄い速度で垂直に空へと駆け昇り始めた。
激しい衝撃と重力が船全体を襲い、マストや船体がミシミシと悲鳴を上げる。あまりの不条理な大自然のエネルギーに、おでんですら目玉を飛び出させて大岩のように踏ん張っていた。
(なるほど……これが世界を縦に繋ぐ大天災のエネルギーか。凄まじいな)
俺は船尾のロープに片手をかけ、激しい風圧に晒されながらも、服の奥のロザリオにそっと指を触れた。
これほどの超質量が垂直に上昇する中では、ほんのわずかな『不運(イレギュラー)』が船体の大破や全員の転落に繋がりかねない。だからこそ、今はヤクヤクのエネルギーを完全に反転させ、船全体を包み込むように【安全祈願】の呪式として薄く展開していた。
《クク……。大自然の猛威すらも、お主の因果の調律の範囲内というわけか、クロウ。実に贅沢な船旅だな》
激しい風の中でも霊体として涼しげに佇むマタムネが、煙管をくわえたまま面白そうに呟く。
(悪魔の力に溺れるつもりはねえよ、マタムネ。だけど、この気ままな2周目の航海を途中で終わらせるわけにはいかねえからな。退屈しのぎの安全確保さ)
俺のバグ巫力とヤクヤクの反転エネルギーが、オーロ・ジャクソン号の竜骨(キール)を裏から補強し、激流の衝撃を絶妙にいなしていく。そのおかげで、船は一度もバランスを崩すことなく、猛烈な速度で雲を突き抜けた。
――そして、視界が一気に真っ白な光に包まれる。
激しい轟音が止み、フワリとした浮遊感のあと、オーロ・ジャクソン号は静かに「白い海」へと着水した。
目の前に広がっていたのは、青い海ではなく、どこまでも続く真っ白な雲の海。そして、その奥にそびえ立つ、巨大な神の国『スカイピア』の姿だった。
「こ……ここは、どこだ……? 雲の上に、本当に国があるのか……!?」
サボテンのトゲの時とは違う、純粋な驚愕に震えるおでんが、へたり込んだまま空島の景色を見上げていた。
「わははは! 着いたぞ野郎ども! 空島だァ!!」
ロジャーの勝ち誇ったような大号令が、どこまでも高い空へと響き渡る。
世界のバグを裏から制御し、大自然の難所すらも飄々と乗り越えた俺は、首元のロザリオを服の中に収め、不敵な笑みを浮かべながら、黄金の鐘が眠る伝説の大地へと一歩を踏み出すのだった。