バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第62話:『青海の潮風と、水神の都への針路』
激しい水しぶきと共にオーロ・ジャクソン号が着水し、俺たちは無事に青海へと帰還した。
空島からの一気の下山は、タコバルーンと俺の『ヤクヤクの実』の調律のおかげで、船体への被害も最小限で済んだ。
「わはははは! やっぱり海はこうでなくっちゃな! おい野郎ども、無事に戻った祝いだ、宴の準備をしろ!」
船首に立つロジャー船長が早くも酒瓶を掲げ、甲板の船員たちがドッと歓声を上げる。
(……やれやれ。無事に戻れたのはいいが、この世界の人間はやっぱり規格外が多すぎる)
俺は手首のロザリオに触れながら、宴に沸く甲板を眺めていた。
俺が死ぬたびに強くてニューゲームを強制される『転生者』であることは、ロジャー船長をはじめ、この船の誰にも喋っちゃいない。前世のシャーマンキングの世界で培った巫力や持霊のサクヤ、そして『ヤクヤクの実』の呪いを「調律」のサポート能力に変質させていることも、俺だけの秘密だ。
この世界の主役たちが命を燃やして突き進む旅路を、モブの境界線から特等席で見届ける。それがこの2周目の世界における俺のスタンスだった。
そんな俺の隣に、麦わら帽子を直しながらシャンクスが並び、バギーが懐から空島で手に入れた小銭をジャラジャラと鳴らしながら割り込んでくる。
「へっ、空島はスリリングだったけどよ、次は黄金を高く買い取ってくれる港がいいぜ!」
「バギーはお金のことばっかりだな。俺はまた誰も行ったことがないような面白い島に行きたいよ」
見習いコンビのいつものやり取りを他所に、船首にいたロジャー船長が、航海士の持ってきたログポースを満足げに眺めながら振り返った。
「野郎ども、次の目的地が決まったぞ! 世界一の造船都市――『ウォーターセブン』へ向かう!」
「ウォーターセブンだと? おいロジャー、あの魚人の凄腕船大工のところか!」
レイリーさんの言葉に、ロジャー船長はニカッと白い歯を見せて笑う。
「ああ! 旅の終盤に向けて、オーロ・ジャクソン号を完璧にメンテナンスしてもらうのさ! おでん、お前にも世界一の職人の技を見せてやる!」
「おお、世界一の造船都市か! それはまた見モノだな、ロジャー!」
おでんさんも豪快に笑い、船の進路が力強く変わっていく。
ウォーターセブン。あの魚人の造船技師、トムさんがいる島だ。
《クロウ様……。行く先々で世界の歯車が噛み合っていくのを感じます。ですが、進むほどに世界の監視の目も強くなるでしょう》
影から姿を現した持霊『サクヤ』が、俺の耳元で静かに囁いた。
(分かっている。世界政府の連中だって、ロジャー海賊団の動きをいつまでも黙って見てるわけがないからな)
「行くか、サクヤ。俺たちの役割は、この世界の主役たちが最後まで走り抜けるための道を、少しだけ整えてやることだ」
《御心のままに、クロウ様》
俺はシャンクスやバギーと共にマストのロープを引きながら、新しい島への潮風を胸いっぱいに吸い込んだ。
バグ魂がもたらす不確かな多世界周回。2周目の航海は、いよいよ『水神の都』へと向けて加速していく。