バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第70話:『一匹狼の船出と、魂を宿す依代を求めて』
ローグタウンに降り注ぐ激しい雨の中、海賊王ゴール・D・ロジャーの最期を見届けた俺は、一人、港の片隅に佇んでいた。
広場の方からは、新時代の幕開けに狂喜乱舞する群衆の怒号が未だに地響きのように聞こえてくる。
泣き叫んでいたシャンクスやバギーとも、人混みに紛れるようにして自然と道が別れた。あいつらはあいつらで、自分の『出番』に向けてそれぞれの海へと漕ぎ出すのだろう。
(さて、俺の『自由の航海』はどうするかね)
港に停泊させてある、一人乗りの小さな手漕ぎの小舟を見下ろす。
ロジャー海賊団という時代の最先端を走る巨大な船を下りた今、俺の前に広がっているのは、どこまでも広大で、誰も行く先を指図しない本当の自由の海だ。
だが、この航海には普通の海賊のような『仲間集め』の予定は一切ない。
というか、そもそも仲間を作ることができない。
シャンクスのやらかし(自業自得)で誤飲してしまった呪いの果実――『ヤクヤクの実』。
魂の巫力で「調律(サポート)」に変質させているとはいえ、この実は本来、周囲に不運や病、厄災を撒き散らす最低最悪の厄病神の能力だ。
俺が意識して調律の波動を巡らせていない限り、同じ船に長く居合わせる人間には、じわじわと『厄』が蓄積していく。ロジャー海賊団の怪物どもならまだしも、普通の人間が俺の船に乗れば、数日と経たずに原因不明の不運や病で自滅するのがオチだ。
「ま、こればっかりは悪魔の実の性質(バグ)のせいだしな。これを機に、気楽に一人で自由にやらせてもらうさ」
手首のロザリオを軽く撫でながら苦笑する。
誰にも明かしていない、前世の記憶と原作知識。
そして、この孤独な一人旅であっても、俺には最初から絶対に裏切らない、魂の半身たる最強の相棒がついていた。
俺のすぐ傍らに霊体として寄り添う持霊『サクヤ』が、俺にだけ聞こえる念話で、どこか嬉しそうに微笑む。
《一匹狼の旅、素晴らしいと思いますよ、クロウ様。誰にも気兼ねすることなく、ただ気の向くままに風を読めますから》
「そう言ってくれると助かる。……ただ、これからの激動の大海賊時代を一人で生き抜くには、さすがにこの生身の身体だけじゃ心もとないのも事実だ」
そうなのだ。前世である『シャーマンキング』の世界の力――巫力やサクヤの存在があるとはいえ、今の俺の肉体はまだ成長途中の子供の段階。先のラフテル前での体調不良のように、みんなの厄を吸い込みすぎれば器が持たないし、この先に出会うであろう新時代の化け物どもと生身だけで渡り合うには限界がある。
この世界で俺の本当の『強さ』を引き出すためには、どうしても不可欠なものがある。
それは、持霊の力を物理的な攻撃力へと昇華させるための器――『媒介(ばいかい)』だ。
前世のような弓や指輪を今回の2周目の俺は持っていない。サクヤの持つ強固な霊力を100%引き出し、この世界での戦い(オーバーソウル)に耐えうるほどの、とてつもない『念』や『歴史』を秘めた一級品の依代(よりしろ)を見つけ出す必要がある。
(名刀、あるいは太古の遺物……。この広い海のどこかには、サクヤの魂を受け止めるに相応しい媒介が必ず眠っているはずだ)
「まずは、その媒介となる物を探す旅から始めるとするか。お前も手伝ってくれよ、サクヤ」
《はい。喜んで、クロウ様。あなたの進む航路のすべてを、どこまでもお供いたします》
澄んだサクヤの念話が胸の奥に心地よく響き、俺は小舟のロープを解いて甲板へと飛び乗った。
手首のロザリオに触れ、ヤクヤクの調律の波動を自分自身の肉体だけに集中させ、海へと滑り出す。
ロジャーの遺した『ひとつなぎの大秘宝』を巡って、世界中の悪党どもが海へと繰り出すこの大海賊時代。
俺はその喧騒を余所に、自分だけの自由な航路を進み、最強の依代を求めて世界を巡る。
バグ魂(ソウル)が紡ぐ、不確かな多世界周回。
海賊王の見習いだった俺の、本当の『自由の航海』が、今ここから静かに幕を開けた。