バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第72話:『呪いの調律と、魂を宿す刃』
情報屋に渡された地図を頼りに、俺は小舟を進めてその無人島へと上陸していた。
島を覆う空気はひどく澱んでいて、肌にまとわりつくような不快な気配が漂っている。
左手の薬指に嵌めた、弓のモチーフの銀の指輪。そこからサクヤの静かな気配が伝わってくるが、彼女はまだ指輪という依代に留まったままだ。
なぜなら、この先の洞窟の奥にあるものは、サクヤではなく、俺のもう一つの大切な『切り札』のための媒介だからだ。
《クロウ様……。この先の洞窟の奥から、凄まじい悪意と怨念の残滓を感じます。まさにマタムネ様の仰っていた通りの代物ですね》
「ああ。他人に厄災を撒き散らすこの『ヤクヤクの実』の能力。そして、持ち主を不運で殺す呪いの短刀……。これ以上ないくらい相性が良さそうだ」
手首のロザリオを軽く撫でながら、俺は洞窟の最奥へと足を踏み切った。
湿った岩肌の向こう、荒れ果てた祭壇のような場所に、それは突き立てられていた。
鞘の各所に不気味な文様が刻まれた、一振りの短刀。
近づくだけで、まるで肉体を直接蝕もうとするかのような生々しい『厄』の波動が津波のように押し寄せてくる。
普通の人間なら触れただけで不病にかかるか、最悪の不運に見舞われて死に至る代物だろう。
だが、俺は躊躇なくその柄へと手を伸ばし、一気に引き抜いた。
キィィィン……! と、空気を引き裂くような禍々しい金属音が洞窟内に響き渡る。
瞬間、短刀に宿る数百年の怨念が、俺のまだ幼い子供の肉体を乗っ取ろうと暴れ狂った。
「大人しくしろ。――陰陽調律」
俺は前世のシャーマンキングの世界で培った規格外の巫力を解放し、同時に『ヤクヤクの実』の能力を刃へと流し込んだ。
本来なら不運を撒き散らす呪いの力を、陰陽の巡りによって反転させ、短刀の持つ『呪い(厄)』そのものを強引に調律して従わせていく。
暴れていた刃の輝きが、禍々しい紫色から、徐々に静謐な深い藍色へと変化していった。
これで、この曰く付きの呪われた短刀は完全に俺の支配下となった。
「待たせたな、マタムネ。――出番だ」
俺がそう呟くと、俺の魂の奥底、前世からずっと眠っていたあの千年の猫の精霊――持霊『マタムネ』が、ふわりと現世へとその姿を現した。
タバコの煙のような霊体を揺らがせながら、マタムネは手にした短刀の刃をじっと見つめ、優しく微笑む。
《おやおや、これは誠に素晴らしい。私のような古い霊を現世に繋ぎ止めるには、これほど強固な“念”を秘めた器はありません。……まさに媒介専用の特級品です、クロウ様》
「だろ? あんたの言った通り、曰く付きの代物は最高の媒介だ」
俺が短刀を構えると、マタムネの霊体がその藍色の刃へと吸い込まれるようにして重なっていく。
「――オーバーソウル」
巫力を込めて呟くと、短刀の刀身が眩い光を放ち、実体化した霊力によって巨大な光の刃――あの『鬼殺し』の巨大な剣の姿へと変貌を遂げた。
ヤクヤクの能力と陰陽の巫力、そしてマタムネの魂の強度が、呪われた短刀を介して完璧に一つに噛み合った瞬間だった。
(完璧だ。サクヤは指輪を媒介にし、マタムネはこの短刀を媒介にする。二つの依代を揃えた今なら、この先に出会う新時代の化け物どもの覇気や身体能力が相手でも、一匹狼として十分以上に渡り合える)
誰にも明かしていない前世の記憶と、この海の未来を知る原作知識。
悪魔の実のせいで仲間は作れないが、俺にはサクヤがいて、そしてマタムネがいる。
俺は一度オーバーソウルを解き、静かに短刀を鞘へと収めた。
本当の自由の航海は、ここから本格的に始まっていく。
激動の大海賊時代の海を、俺は自分だけの航路で、どこまでも気楽に、そして貪欲に突き進んでいくつもりだ。