バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第73話:『新時代の産声と、一匹狼の小試しの刃』
呪われた短刀と、弓のモチーフを刻んだ銀の指輪。
二つの強力な媒介を携え、俺は再び一人乗りの小舟を操って、霧深き無人島を後にした。
手首のロザリオを支点として流れるヤクヤクの力は、指輪に眠るサクヤ、そして短刀に宿るマタムネという二つの依代(よりしろ)を得たことで、驚くほど静かに、そして強固に安定している。悪魔の実のせいで他人は乗せられない孤独な船出だが、俺の魂の身内(身内)はこれ以上ないほどに賑やかだ。
「さて……まずは小手調べといくか。この新時代の海がどれほど荒れているか、肌で知っておく必要があるからな」
小舟を西へと走らせて数日。東の海の主要な航路へと出た頃には、ニュースクーが伝えていた「大海賊時代」の文字が、決して誇張ではないことを証明する光景に行き当たった。
水平線の向こう、激しい大砲の音が響き、黒い煙が立ち上っている。
一隻の大型の商船が、ドクロの旗を掲げた小悪党どもの海賊船に襲撃されている真っ最中だった。
「ひゃっはー! 海賊王の遺産をひっくり返す前に、まずはこの船の金を根こそぎ奪い取れェ!!」
下劣な笑い声を上げながら、略奪を繰り返す海賊ども。
原作の知識に照らし合わせても、名前すら出てこないような有象無象のモブ海賊だ。だが、ロジャー船長のあの最期の一言が、こうして世界中の悪党のブレーキを粉々に破壊しちまったのは間違いねェ。
《クロウ様……。あの海賊たちの魂からは、ただの強欲と、分不相応な野心が歪んだ形で肥大化した、ひどく汚れた念を感じます》
薬指の銀の指輪から、サクヤの凛とした念話が届く。
「そうだな。ロジャー船長の目指した『世界の真実』とは程遠い、ただの火事場泥棒だ。……マタムネ、ちょっと新しい刃の切れ味を試させてもらうぞ」
《おやおや、物騒ですね。ですが、あの不調和な念を放つ者たち相手であれば、この曰く付きの刃の『厄』を少しだけお裾分けしてやるのも、良い薬かもしれません》
魂の奥底から、タバコの煙を燻らせるようにマタムネがフワリと微笑む。
俺は小舟を寄せて、海賊船の甲板へと音もなく飛び移った。
「あァ!? なんだお前、どっから湧いて出たガキだ!?」
一人の海賊が抜刀し、生意気な子供(俺)を威嚇するように怒鳴る。
俺は何も答えず、腰の鞘から、深い藍色の光を帯びた『呪われた短刀』を静かに引き抜いた。
「――オーバーソウル」
巫力を込め、短刀の柄を握る。
瞬間、マタムネの霊体が藍色の刃と完璧に融合し、実体化した霊力によって、短刀は一回りも二回りも巨大な、禍々しくも美しい光の巨刃へと変貌を遂げた。
かつてシャーマンキングの世界で大鬼を切り裂いた、マタムネの『鬼殺し』の系譜を継ぐ大剣が、このONE PIECEの世界に初めて顕現した瞬間だ。
「な、なんだその光る剣は……!? 悪魔の実の能力者か!!」
海賊どもが顔色を変えて後ずさる。
「いくぞ、マタムネ」
《ええ、いつでも》
俺が一歩踏み出し、光の巨刃を大きく一閃した。
凄まじい巫力の波動が甲板を駆け抜け、海賊船のマストを、そして立ちはだかる武器を一瞬にして真っ二つに叩き斬る。
ただの物理的な破壊ではない。ヤクヤクの実の能力を陰陽の巡りで反転させ、短刀の持つ本来の『呪い(不運の厄)』を、斬撃の風圧と共に相手の肉体へと叩き込んだのだ。
「う、うわあああ!? 急に足が攣った!!」
「チクショー、持ってた銃が暴発しやがった!!」
斬撃の直撃を免れた周囲の海賊どもまでもが、俺が撒き散らした瞬間的な『不運の厄』に囚われ、自滅するように甲板へ転がっていく。
「ひ、ひぃぃ……化け物だァ!!」
ほんの数秒前まで略奪を楽しんでいた悪党どもが、いまや戦意を完全に喪失し、壊れた船の上でガタガタと震えていた。
「……なるほど。呪いの短刀を媒介にしたことで、ヤクヤクの反転調律が、攻撃的な『厄の付与』としてこれ以上ないほど綺麗に機能するな」
俺は納得のいく手応えを感じながら、オーバーソウルを解除し、短刀を静かに鞘へと収めた。
生身の子供の肉体にかかる負担も、二つの依代へと分散されたおかげで、以前のような限界を迎える兆候は微塵もない。
助けられた商船の人間たちが「あ、ありがとうございました……!」と、恐怖と感謝の混ざった目で俺を見つめてくる。
「気にしないでくれ。ただの通りすがりだ。……それと、この船の近くに長居すると、あんた達にも不運が移る。さっさと港へ帰りな」
俺はそれだけ言い残すと、再び自分の小舟へと飛び乗り、商船が呆気にとられる中で、風の向くままに航路へと戻っていった。
悪魔の実の性質のせいで、他人と交わることはできない孤独な旅。
だが、前世の仲間(サクヤ・マタムネ)と共に、この呪いすらも力に変えて進む一匹狼の航海は、驚くほどに心地いい。
(新時代(大海賊時代)の化け物ども……。いつかグランドラインの奥深くで、お前らの覇気と、俺たちのこのオーバーソウルがぶつかり合うのを楽しみにしてるぜ)
俺は手首のロザリオを軽く弾き、まだ見ぬ未知の海へ向けて、気楽に、そして不敵に小舟の帆を張った。