バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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閑話:『隣の席の呑気な日常と、恐るべき許嫁』

 ――ふんばりヶ丘中学校、3年A組。

 

 麻倉葉がこの学校に転校してきてから数日。

 相変わらず授業中は机に突っ伏してのんびりと寝息を立てている彼の姿に、クラスメイトたちは早くも呆れ半分、微笑ましさ半分といった目線を向けていた。

 

 そんな中、ある日の昼休み。

 教室の喧騒を遠くに聞きながら、俺、御門 蓮夜(みかど れんや)は、購買で買ってきた焼きそばパンを齧っていた。

 すると、隣の席で大あくびをしながらのそのそと起き上がった葉が、俺の食べているパンをじっと見つめてくる。

 

「……なぁ、御門くん」

「なんだよ、麻倉。俺の焼きそばパンには、お前に分けるほどの余剰スペースはねえぞ」

「あはは、違うって。……いやさ、この前の放課後は話しかけちゃって悪かったね。オイラ、東京に来てから同類に会えると思ってなかったから、なんか嬉しくなっちゃってさ」

 

 葉は首の後ろを掻きながら、いつもの屈託のない笑みを浮かべた。

 お互いにシャーマンであることは察しつつも、深入りはしない。そんな微妙な距離感のまま、隣の席で何気ない雑談ができるのが、彼にとっては意外と新鮮で気楽らしい。

 

「別に気にしてねえよ。お前が普通の一般人として過ごすなら、俺もただの隣の席の奴として接するだけだ」

「うん、それが一番ありがたいなー。……でもさ、そんなのんびりした生活も、ちょっと今日で終わりそうなんだよね。オイラ、今からすっごく憂鬱なんだ」

 

 葉は机に顎を乗せ、まるでこの世の終わりのような、気の抜けた顔でため息をついた。

 道蓮のような強敵が現れてものんびりしている男が、ここまで怯える理由。前世の知識を持つ俺には、それが何なのかが瞬時に分かった。

 

(あいつが来るんだな……。シャーマンキングの、裏の最強キャラが)

 

 俺は焼きそばパンを飲み込み、お茶で喉を潤してから、あえて何も知らないフリをして話を振ってみることにした。

 

「憂鬱? なんだよ、出雲の実家からお説教の電話でもかかってきたのか?」

「うう、もっと恐ろしいことだよ……。さっき実家のばあちゃんから連絡があってさ。オイラを鍛え直すために、青森から『許嫁(いいなずけ)』がこっちに向かってるんだって……」

「へえ、許嫁か。やるじゃねえか。中学生のくせに結婚相手がいるなんて、名家はこれだから羨ましいね」

 

 わざとからかうように言う俺に、葉は「羨ましくなんてないってば!」と、珍しく本気で身震いしてみせた。

 

「アンナって言うんだけどさ……。まぁ、可愛い女の子ではあるんだけど、一言で言うと『ものすごく恐ろしい』んだ。イタコだからオカルトパワーも凄いし、何よりオイラ、あいつには絶対に逆らえないんだよね。逆らったら、どんな酷い目に遭うか……うう、考えただけでお腹痛くなってきた」

 

 頭を抱えて本気でガタガタと震えだす主人公。

 その様子を脳内で見ていたサクヤが、面白そうにくすくすと笑声をあげる。

 

《くすくす……。あの麻倉家の神童をここまで怯えさせるとは、そのアンナとやら、どれほどの女傑なのでしょうね。蓮夜、一度お目にかかりたいものです》

(サクヤ、やめとけ。あの恐山アンナは、幻の左手(ワンハンド)で一国の王すら黙らせるお人だ。野良シャーマンの俺たちが迂闊に近づくと、どんな修行の巻き添えを喰らうか分かったもんじゃない)

 

 俺は心の中でサクヤを宥めつつ、へらへらと笑う。

 

「ま、頑張れよ、麻倉。夫婦円満が一番だろ。学校にプリントを届ける用事とかがあっても、俺は絶対にお前の家には近づかないからな」

「酷いなぁ、御門くん! 友達なんだから、アンナが来たら盾になってよ!」

「本音が混ざってるじゃねぇか!誰が盾になるか。ただの『隣の席の野良シャーマン』だろ」

 

 そんな他愛のない軽口を叩き合っていると、葉は「あはは、冷たいねぇ」と笑いながらも、どこか安心したように表情を緩めた。

 これから始まる過酷な運命を知る由もない彼は、そのまま再びのんびりと机に突っ伏した。

 

(恐山アンナの襲来、そして、あの中国の道(タオ)家――道 蓮との最初の激突か……。原作のタイムラインは着実に近づいてるな)

 

 俺は指輪のチャームを指先で弄びながら、窓の外の空を見上げた。

 嵐の前の静けさのような、ふんばりヶ丘のほのぼのとした昼下がり。

 不確かな多世界周回の1周目。このぬるい日常の裏で、俺もサクヤも、来るべき戦いに向けて静かに牙を研いでおくとしよう。

 

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