バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第79話:『世界に回る手配書と、死者の眠る孤島』
新生海賊団の壊滅からしばらくして、レヴナント号の甲板に一羽のニュースクーが舞い降りた。
白骨の船員が慣れない手つきで小銭を渡し、受け取った新聞と一枚の紙切れを俺の元へと運んでくる。
「……ははは。海軍の仕事も、今回は随分と早いじゃねェか」
広げた手配書。そこに躍っていたのは、フードを深く被り、腰に藍色の短刀を携えた俺の姿だった。
【WANTED】
“百鬼夜行”クロウ
DEAD OR ALIVE
¥38,000,000―(3800万ベリー)
(初手で3800万ベリーか。東の海のトップだったアーロンが2000万、クロコダイルの元初版が8100万だと思えば、グランドラインに入ったばかりの『生きた仲間を持たない見習い』に対する警戒にしちゃあ破格の数字だな)
死人の軍勢を率いる幽霊船の主。海軍本部が俺に下したその評価に、俺は思わず不敵に笑った。
同じ頃、この手配書は世界中の海の『かつての仲間たち』の元へも届いていた。
東の海のどこかで自分の海賊団を立ち上げようとしていたシャンクスは、「あはは! クロウの奴、おれ達を置いて先に行っちまったな! 怨霊を従えるなんて、相変わらずあいつの能力はわけが分からねェや!」と麦わら帽子を直しながら嬉しそうに笑い、バギーは「3800万だとォ!? なんであの陰気なクロウが最初の懸賞金でおれ様より高ェんだよチクショー!」と鼻を真っ赤にして悔しがっているだろう。
そしてシャボンディ諸島で酒を煽るレイリーさんは、手配書を眺めながら「死者の軍勢、か……。あいつも自分の『自由の形』を見つけたようだな」と静かに盃を傾けているはずだ。
《クロウ様、世界にあなたの名が轟き始めましたね。ですが、これだけの巨船と軍勢を維持し、さらに次の『依代』を探す旅を続けるには、荒波を避けて心置きなく羽を休められる“拠点”が必要です》
薬指の銀の指輪から、サクヤの冷静な念話が届く。
「ああ。これからは海軍や、手柄を焦った新時代の賞金稼ぎどもが群がってくるからな。レヴナント号を隠し、俺たちの巫力を蓄えるための拠点(アジト)を探すとしよう」
ログポースの針が指す航路を敢えて少し外れ、俺は原作知識とマタムネの霊的視覚を頼りに、グランドライン前半の海域に潜む『不気味な空白地帯』へと舵を切らせた。
そこは、常に濃い海霧に閉ざされ、激しい潮の結界によって通常の航海士では絶対に近づけない呪われた海域だった。
だが、レヴナント号と俺の『ヤクヤクの実』の反転調律があれば、そんな潮の『厄(障害)』などただの追い風に過ぎない。
霧を突き抜けた先。そこに姿を現したのは、島全体が巨大な黒い岩盤で覆われた、不気味な静寂に包まれる無人島だった。
かつて古代の戦場だったのか、島の至る所に朽ち果てた石造りの城塞の跡があり、大地からは濃厚な『死気』と霊力が湧き出している。
小舟ではなく、巨大なレヴナント号をそのまま隠せる広大な天然の入江。
これこそ、生きた人間にとってはただの地獄だが、俺たち百鬼夜行にとっては天国とも言える最高の立地だった。
《おやおや……これは素晴らしい。島全体が強固な霊力の溜まり場(龍穴)になっていますね。ここにレヴナント号を係留しておけば、船員たちの霊体も常に全盛期の強度を保つことができるでしょう》
短刀の奥から、マタムネがキセルを燻らせるような静かな気配で感心したように呟く。
「よし、ここを俺たちの『百鬼夜行の牙城』とする。野郎ども、錨を下ろせ!」
俺の号令に、白骨の船員たちが一斉に応じ、巨大な錨が轟音を立てて海底へと沈んだ。
仲間はいらない。呪いと死者を従えた一匹狼の旅。
世界にその悪名を轟かせ、最強の拠点を手に入れた俺の『自由の航海』は、この激動の大海賊時代を裏から侵食するように、さらに深く、暗く、加速していく。