バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
第80話:『霧の牙城と、陰陽錬成の黒曜螺旋城』
手に入れた漆黒の無人島。その中心にそびえ立つ、かつて古代の戦場で朽ち果てたという巨大な石造りの城塞の跡を、俺は見上げていた。
島全体の龍穴(りゅうけつ)から湧き出す濃厚な死気と霊力は、生者にとってはただの毒だが、俺たち百鬼夜行にとっては無限のエネルギー源だ。
左手の薬指に嵌めた銀の指輪、あるいは腰の呪われた短刀をそっと撫でる。
(シャーマンキングの世界の陰陽術、そしてヤクヤクの実の反転調律……。この二つを掛け合わせれば、ただの拠点作りじゃつまらねェ。現代日本の知識にある、あの妖怪の総大将が構えた、歪んだ空間が天へとねじれ昇る和風の魔城――『葵螺旋城』。それをベースに、このグランドラインに俺たちだけのオリジナルを再現してやる)
「サクヤ、マタムネ。俺の巫力(ふりょく)をすべてこの島の龍穴へと繋ぐ。力を貸してくれ」
《はい、クロウ様。あなたの望む、百鬼夜行の真の牙城を築きましょう》
《ふふ、空間を反転させ、天へとねじ曲げる大掛かりな陰陽の錬成ですか。腕が鳴りますねぇ》
二人の持霊の同意と共に、俺は地面へと両手を突き立てた。
「――陰陽調律・大土木螺旋錬成(だいどぼくらせんれんせい)」
ドクン、と島全体が鼓動した。
手首のロザリオから溢れ出したヤクヤクの反転調律の波動が、島の地下を流れる莫大な霊力(地脈)と完璧に結合する。
本来なら崩壊や風化をもたらす『厄(大地の歪み)』を、陰陽の巡りによって「再構築と空間拡張」の力へと反転させ、朽ち果てていた石の城塞へと一気に流し込んだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
地響きと共に、巨大な変化が始まった。
洋風の無機質だった石造りの壁が、みるみるうちに美しく黒光りする木造の柱や、漆黒の漆喰(しっくい)の壁へと変質していく。
正面には巨大な唐破風(からはふ)の門が威容を現し、屋根には邪気を払う漆黒の瓦が幾重にも重なっていく。そして最大の特徴は、その城全体が、天に向かって巻き貝のようにねじれながらそびえ立つ、異形にして壮麗な螺旋(らせん)の構造へと組み変わったことだ。
俺たちだけのオリジナルの城、その名も――『黒曜螺旋城(こくようらせんじょう)』。
だが、真の変貌は外見だけではない。
内側へ一歩足を踏みえれば、そこには幾重にも重なる畳敷きの回廊、どこまでも天へとねじれ昇る騙し絵のような階段、そして空間の遠近感がバグったように歪む、果てしない『和の螺旋迷宮』が広がっていた。
陰陽術の空間歪曲によって、外見の数倍以上の広さを持つ、文字通りの魔城がここに完成したのだ。
《素晴らしい……! 城の至る所から、神聖なまでの和の覇気と、底知れない怪異の念を感じます。これぞまさに、百鬼夜行の総大将に相応しい居城です》
サクヤが美しい目を輝かせながら、実体化して黒塗りの回廊に降り立つ。
《おやおや、まさかグランドラインの片隅に、これほど見事な和の城郭が建つとは。キセルを燻らすのにも、これ以上ない風流な場所でございますよ》
マタムネもふわりと姿を現し、新しく出来上がった畳の上で満足げに目を細めた。
――オォォォォォォォッ!!!
城の完成を祝福するように、レヴナント号から下りてきた白骨の船員や怨霊の軍勢が、新しくなった和風の天守閣の周りに集まり、一斉に勝ち鬨(どき)を上げる。
最初から肉体を持たない彼らは、この霊力と死気が循環する黒曜螺旋城のなかにいるだけで、その存在をこの現世に強固に繋ぎ止めることができた。
俺は天守閣の最上階、総大将の座に据えられた大きな畳の座敷に腰掛け、窓の外を見下ろした。
城の周囲は、俺の陰陽術によって常に厚い『幻霧の結界』で覆われており、海軍の記録にも、ログポースの針にも、決して引っかかることはない。
(ははは、完璧だ。生きた仲間は作れねェが、俺には最高の二人の相棒と、死なない軍勢、そして世界政府の目すら届かないこの絶対の牙城がある)
海軍本部が俺に3800万ベリーの懸賞金をかけ、血眼になって俺の行方を追っている頃だろうが、彼らがこの霧の城に辿り着く術は、最初から存在しない。
「野郎ども、しばしここで牙を研ぐぞ。新時代がどれだけ荒れようが、この城がある限り、俺たちの自由は誰にも脅かせやしねェ」
俺の言葉に、怨霊の将兵たちが再び不敵に武器を掲げる。
誰にも明かしていない前世の記憶と、海賊王との最後の約束を胸に。
呪いと怨霊を従えた一匹狼の航海は、この隠された黒曜螺旋城を新たな起点として、グランドラインの闇をさらに深く侵食していく。