バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
閑話:『白ひげサイド:海男の直感と、新時代の羽音』
「グララララ! おいマルコ、東の海(イーストブルー)から入ってきた新入りの手配書を見な。なかなか面白いツラをしてやがるぜ」
新世界を航行する巨大な外輪船――モビー・ディック号の甲板。
世界最強の海男である“白ひげ”エドワード・ニューゲートは、点滴の管が繋がれた巨大な身体を揺らし、豪快に笑いながら一枚の手配書を放り投げた。
一番隊隊長のマルコが、パイナップルのような頭を揺らしながらそれを空中で受け止める。
手配書に記されていたのは、フードを深く被り、腰に藍色の短刀を手首にはロザリオを携えた少年の姿。
【WANTED】
“百鬼夜行”クロウ
DEAD OR ALIVE
¥38,000,000―
「初手で3800万ベリー、異名は“百鬼夜行”ねェ……。オヤジ、こいつはグランドラインに入ったばかりのルーキーだよい。しかも『生きた仲間を持たず、死者の軍勢と幽霊船を従えている』なんて不気味な噂が流れてる。海軍の本部少将どもが青くなって手配書をばら撒いてるらしいがね」
マルコがため息混じりにそう言うと、隣で巨大な肉の塊を貪り食っていた五番隊隊長のジョズが、ふと手を止めて手配書を覗き込んできた。
「死人の軍勢だと? 悪魔の実の能力にしちゃあ、妙な怪談話だな。能力者が死ねば消えるはずの怨霊どもを、完全に兵隊として統率してやがるって話だ」
隊長たちが小首を傾げる中、白ひげは手元の巨大な盃を傾け、喉を鳴らして酒を飲み干した。
「グララララ! 悪魔の実か、あるいは世にも珍しい魂の力か……。だがよ、マルコ。そのガキの持ってる短刀と、手首のロザリオに見覚えはねェか?」
「……ん? ロザリオ……?」
マルコが手配書の写真を細かく凝視し、ハッと目を見開いた。
かつて、白ひげ海賊団がまだおでんを乗せて海を走っていた頃。
...そして、あのゴール・D・ロジャーと3日3晩の死闘を繰り広げ、4日目に物々交換の和やかな宴を開いた、あの伝説の島での記憶。
ロジャーの船のタラップの陰で、シャンクスやバギーといった見習いどもに混ざり、いつも一歩引いたモブのような顔で、冷徹にこちらの傷や疲労を観察していた、あの妙な気配を纏った見習いのガキ。
「まさか……ロジャーの船にいた、あの無口な見習い(クロウ)かよい!?」
「そうだ! 間違いねェ、あの時のおかしなガキだ!」
ジョズも思い出したように声を張り上げる。
あの宴の最中、白ひげ海賊団の船員たちが激戦の疲労を一瞬で回復させたあの不可解な現象。当時はロジャーの船の『悪運』だと思っていたが、今にして思えば、あの少年の仕業だったのではないかという強烈な直感が、彼らの脳裏をよぎった。
「グララララ! あいつらはどいつもこいつも、おれからおでんを奪っていった時から狂ってやがる。ロジャーの奴が処刑台で新時代の幕を開けてからまだ1年足らずだ。赤髪のシャンクスが自分の船を出し、あの鼻デカのバギーも動き出そうとしてる。……だが、まさか最も目立たなかったあのガキが、生きた人間じゃなく『死者と呪いの船』を従えて、真っ先に海の闇を侵食し始めてるとはな」
白ひげは、新世界の荒れる海原を真っ直ぐに見据えた。
“万物の声”を聞いたロジャーが、最期にあの見習いどもに何を託したのか。それは誰にも分からない。
だが、海軍本部の最新の航海術を以てしても、その少年が率いる漆黒のガレオン船『レヴナント号』は、ある海域の『異常な海霧』の中に完全に消息を絶ったという。
(海軍のログポースすら狂う霧の海域か。グラララ、ロジャーのガキめ、世間を煙に巻いて、どこぞの島に不気味なアジトでも隠しやがったな)
白ひげの脳裏には、かつておでんが語っていたワノ国の侍の気骨と、それを冷徹に見つめていた少年の瞳が重なっていた。
ロジャーが命を懸けて切り拓いた、この最悪で最高の『大海賊時代』。
新時代の主役たちが動き出す前の、この静かな過渡期において、海賊王の遺した見習いの影が、確実に世界の裏側で百鬼夜行の足音を響かせ始めている。
「オヤジ、どうするんだよい? 接触を図ってみるか?」
マルコの問いかけに、世界最強の海男は盃をドンと甲板に置き、不敵に笑い飛ばした。
「放っておけ! ウチの家族に手を出さねェ限り、あいつが海の底でどんなアジトを隠そうがおれの知ったことじゃねェ。……ただ、次にあのガキと相見える時が来たら、その時は極上のワノ国の酒でも用意して、あいつの『本当の姿』ってやつを、この目でドンと拝ませてもらうさ!」
モビー・ディック号の甲板に、白ひげの豪快な笑い声が響き渡る。
新世界の怪物たちをも動妄させるその不穏な羽音を、世界最強の男は、ただ新時代の到来を楽しむようにして、静かに受け止めていた。