バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回 作:カミト6622
――それから、数ヶ月の月日が流れた。
季節は移り変わり、ふんばりヶ丘の街にも冬の足音が近づいていた。
道蓮との死闘、そしてあの恐るべき婚約者・恐山アンナによる地獄のしごきを経て、隣の席の麻倉葉は、見違えるほど霊的に研ぎ澄まされていた。
もちろん、俺――御門 蓮夜(みかど れんや)もまた、あの裏山で完成させた必殺技に磨きをかけ、いつでも動けるだけの巫力を指輪の内に滾らせていた。
そして、その夜。ついに『その時』が訪れる。
「……始まったか」
夜空を見上げた俺の視線の先。
漆黒の闇を切り裂くように、不吉な、だが神々しいまでの赤き光を放つ巨大な彗星が流れていく。
500年に一度、世界の王を決める戦いの幕開けを告げる星――『羅睺(らごう)』。
《蓮夜、凄まじい星ですね。ただの天体ではない……星そのものが、世界中のシャーマンの魂を呼び覚ますような強烈な霊波を放っています》
指輪からサクヤの声が響く。彼女の言う通り、俺の魂の奥底にあるバグ巫力も、その星の輝きに応じるように熱く脈打っていた。
(原作通りなら、この星が流れた直後、パッチ族の試験官たちが世界中に散る。そして――)
翌日。放課後の人気のない夕暮れの通学路。
俺はふと足を止め、すぐ目の前の曲がり角を見つめた。一般モブを装うための気配遮断を抜けてくる、明らかに異質な『自然の霊』の気配。
「……そこにいるのは分かっている。出てきたらどうだ、パッチ族」
俺が静かに声をかけると、空間が揺らぎ、壁の影から一人の男が滑り出るように現れた。
ネイティブアメリカンのような伝統衣装を纏い、頭には見事な羽飾り。その腰には、数体の精霊を宿した無数の装飾品(オラクルベル)がぶら下がっている。
「ほう。私の完全な気配遮断に気づくとはね。東京の野良シャーマンにしては、上出来なセンサーだ」
男は不敵に微笑んだ。麻倉葉の試験官である『シルバ』ではない。だが、その佇まいや放たれる圧倒的な大自然の巫力からして、間違いなくパッチ族の十祭司の一人――試験官だ。
「私の名はカリム。500年に一度の聖なる戦い『シャーマンファイト』の試験官だ。御門蓮夜、君の生まれ持つ異様な巫力の高まりを羅睺が捉えた。君にその戦いに参加する資格があるか、私がテストさせてもらう」
「……カリム、か」
原作知識がある俺は、彼が後に葉たちの重要な味方(そして敵)になる男だと知っている。まさか自分の担当試験官がカリムになるとは思わなかったが、相手にとって不足はない。
「テストの条件は簡単だ。この私に、一撃でも攻撃を当てること。制限時間は十分。さぁ、君の霊を見せてごらん」
カリムが腰の装飾品に手をかけ、大自然の精霊の気配を膨らませる。
《蓮夜、どうしますか? 相手はかなりの手練れ。ですが――》
(ああ。手加減なんてしてたら、一瞬で組み伏せられる。サクヤ、最初から俺たちの『極致』で行くぞ。パッチ族に、俺たちのバグっぷりを刻み込んでやる)
俺は左手中指の指輪を天に掲げ、魂のバグ仕様によって蓄えられた強大な巫力を一気に解放した。
「――オーバーソウル(O.S)」
ドォンッ!! と、周囲の空気が重圧で爆ぜる。
指輪のチャームから溢れ出た膨大な青い巫力が、俺の手元で【半透明に光り輝く巨大な弓】へと形を成していく。それを見たカリムの余裕に満ちた表情が、一瞬で驚愕へと凍りついた。
「なっ……なんだ、その巫力の絶対量は!? 君は本当に、バックボーンのない一般の野良シャーマンなのか……!?」
「さあな。一撃当てれば合格なんだろ? ――避けてみせろよ、十祭司」
俺は光の弦を引き絞る。
狙うはカリムのすぐ真横。手元に凝縮されていくのは、あの裏山で巨岩を粉砕した眩い白銀の閃光。
世界の王を決める大戦の裏側で、累積バグを持つ男の『最初の公式戦』が、今ここに始まった。