バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第86話:『白鯨からの船出と、呪いを相殺する少女』

第86話:『白鯨からの船出と、呪いを相殺する少女』

 

モビー・ディック号での、嵐をも吹き飛ばすほどの豪快な宴が明けた翌朝。

俺は白ひげのオヤジさんやマルコたちに見送られ、再び漆黒のガレオン船『レヴナント号』を動かして、新世界の荒れる海へと滑り出していた。

 

「グララララ! 楽しかったぜクロウ! どこへ行こうが、お前はあのロジャーの船の誇り高き生き残りだ! 死なねェ程度に自由にやりやがれ!」

 

船首から聞こえたオヤジさんの最後の豪快な笑い声を背中で受け止めながら、俺は手首のロザリオを軽く弾いた。

 

(ははは……。やっぱり新世界はいいな。さて、オヤジさんたちから手に入れた美味いものの情報をもとに、次の美食巡りといくか)

 

船長室の大きな椅子に深く腰掛け、俺は新世界のオリジナル航路を眺めていた。

自分が『シャーマンキング』の世界から力と記憶を引き継いで周回している『転生者』だということ、そしてこの海の未来を知る原作知識を持っていることは、相変わらず誰にも喋っちゃいない。

左手の銀の指輪(サクヤ)、腰の黒き妖刀『黒死一文字』(マタムネ)という二大媒介を揃えた俺の百鬼夜行は、今や新世界の怪物どもとも渡り合えるほどに完成されていた。

 

だが、この一匹狼の気楽な旅に、突如として『世界のバグ』のような出会いが訪れる。

 

数日後、ログポースの針が示す完全オリジナルの未知の孤島――通称『毒硝子の島』へと上陸した時のことだ。

島全体が、触れるだけで肉体を内部から破壊する、美しくも禍々しい結晶で覆われた地獄のような無人島。

 

そんな島の最奥、結晶の洞窟のなかで、一人の少女が膝を抱えてうずくまっていた。

白髪交じりの細い髪に、ぼろぼろの衣服。彼女の周囲の地面は、ただ佇んでいるだけで結晶化し、強烈な『腐食の厄』を周囲に撒き散らしている。

 

「……来ないで。私に触れたら、あなたもガラスになって壊れちゃう……」

 

少女が怯えた声で俺を拒絶する。

だが、その光景を見た瞬間、俺の脳裏には衝撃が走り、手首のロザリオがかつてないほど激しく共鳴を始めた。

 

(……待て、あいつのあの能力……。まさか、超人系『ガラガラの実(硝子人間)』……!?)

 

俺のヤクヤクの実の能力、そして傍らに佇むサクヤとマタムネの霊体による感覚が、彼女の魂の正体を瞬時に見抜いた。

外に向けて物質や生体を「硝子化させて崩壊させる」という、持ち主の意志に関係なく自動で発動してしまう最悪の呪い(バグ)のような波動。そのせいで家族も故郷も失い、この孤独な島に放逐されていたのだ。

 

他人に不運や病の厄災を撒き散らす、俺の『ヤクヤクの実』。

周囲の生体を硝子化して崩壊させる、彼女の『ガラガラの実』。

 

生きた人間を船に乗せれば俺の呪いのせいで自滅するはずだった。だが、もしもお互いが「常に最悪の呪いを撒き散らし合う存在」だったとしたらどうだ?

 

「ははは……。面白い。お互いの呪いが、完全に『相殺』し合ってやがる」

 

俺は躊躇なく少女の元へ歩み寄り、その白く震える手をガシッと力強く握り締めた。

 

「ひゃあ!? だ、ダメ、触っちゃ……え?」

 

少女が目を見開いて硬直する。

彼女の放つ硝子化の腐食(厄)は、俺の肉体に触れた瞬間にヤクヤクの実の反転調律の波動によって瞬時に吸い上げられ、ただの無害な光となって霧散していく。逆に、俺の身体から無意識に溢れ出ていた不運の呪いも、彼女の持つ強力な崩壊の波動によって、俺の肉体に届く前に空間ごと粉々に粉砕されていた。

 

磁石のプラスとマイナスが合致したかのように、お互いの半径数メートルの中だけ、世界で一番安全で、世界で一番綺麗な『無風地帯(セーフティエリア)』が出来上がっていた。

 

《……素晴らしい。まさか世界に、これほどクロウ様の性質と完璧に噛み合う魂の持ち主が存在したとは。……彼女なら、レヴナント号に乗せても、何一つ不運に蝕まれることはありませんね》

薬指の指輪から、サクヤが驚きと喜びの混ざった念話で呟く。

 

《ふふ、呪いと呪いが噛み合って調和を生むですか。これぞまさに、バグ魂の紡ぐ旅ならではの、とんだ面白い笑い話でございますねぇ》

短刀の奥から、マタムネもキセルを燻らせるような穏やかな口調で、嬉しそうに目を細めた。

 

「お前、名前は?」

 

「……シロ、です……」

 

「よし、シロ。俺の名前はクロウだ。見ての通り、俺も世界中から嫌われる厄病神でね。……お前、この島で一人でのたれ死ぬか、それとも俺の船に乗って、世界中の美味いもんを食べ歩く美食の旅に出るか、どっちがいい?」

 

俺が不敵に笑いながら問いかけると、シロはしばらく呆然とした後、その大きな瞳から大粒の涙をボロボロと溢れさせた。

 

「……いく。私、美味しいもの、いっぱい食べたい……!」

 

「ははは、決まりだな」

 

俺はシロの手を引いたまま、レヴナント号へと連れて帰った。

甲板に控える白骨の船員や怨霊の将兵たちは、初めて乗船してきた『生きた新しい仲間』を、静かに、しかし一糸乱れぬ敬礼で大歓迎した。シロの硝子化の能力も、最初から死んでいる彼らには何の影響も与えない。

 

船長室の大きな机に、白ひげの船から貰ってきた美味い肉や、各地で買い込んだ美食を並べる。

シロは「美味しい……! こんなの初めて食べた……!」と、頬を緩ませて本当に幸せそうに料理を口に運んでいた。

 

生きた仲間は作れないはずだった一匹狼の旅。

だが、呪いを相殺し合う最高の相棒・シロを手に入れた俺の『自由の美食航海』は、サクヤ、マタムネ、環境に影響されない百鬼夜行の軍勢と共に、新時代の海をさらに美味しく、どこまでも気楽に、そして不敵に加速していく。

 

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