バグ魂(ソウル)の不確かすぎる多世界周回   作:カミト6622

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第88話:『海底の青き迷宮と、深海の隠れ絶品』

第88話:『海底の青き迷宮と、深海の隠れ絶品』

 

ガープ中将の理不尽極まりない拳骨の嵐を切り抜け、俺たちのレヴナント号は太陽の光すら届かない深海の底を、静かに滑るように進んでいた。

 

「陰陽調律・水神の底隠し」によって、本来なら巨船を一瞬で押し潰すはずの凄まじい深海圧(厄)は、すべて心地よい推進力へと調律されている。船体を包む不可視の結界のおかげで、海水は一滴も甲板に入り込まない。

深海の青黒い闇の中、レヴナント号の放つ藍色の眼光だけが、不気味に、しかし幻想的に周囲の暗闇を照らし出していた。

 

「……すごいや、クロウ。海の底なのに、全然息が苦しくない。窓の外、見たこともない大きな魚がたくさん泳いでる……」

 

船長室の大きな窓に張り付き、少女のように目を輝かせているシロが、オレンジ色に怪しく光る深海魚を指差した。

彼女の放つガラガラの崩壊波動と、俺のヤクヤクの厄災は、海底の閉鎖空間であっても完璧に相殺し合っている。お互いが半径数メートルの中にいれば、深海の中心だろうがそこは世界で一番安全なセーフティエリアだった。

 

「ははは、これぞ一匹狼……いや、二人旅ならではの特等席だろ。海軍のジジイも、まさか俺たちが魚人島以外で深海に潜ってメシを食ってるとは夢にも思うまい」

 

俺は手首のロザリオを弄びながら、白骨の船員たちが調理室から運んできた「獲れたての深海魚の白身鍋」を机に並べた。

ガープに鉄球を投げつけられる直前、サクヤの見聞色の覇気を頼りに、死なない船員たちに命じて網を投げ込ませておいたのだ。

 

《クロウ様、この深海魚の魂からは、過酷な水圧に耐え抜いた、非常に引き締まった濃厚な念を感じます。姿を隠した海底での美食巡り、まさに贅沢の極みですね》

薬指の銀の指輪から、サクヤが嬉しそうに目を細めて語りかけてくる。

 

《ふふ、拳骨の突風から一転して、静かな深海の底で鍋料理ですか。これほどの風流を味わえるのは、新世界広しと言えども、我ら百鬼夜行の船くらいでございましょうねぇ》

腰の黒き妖刀から、マタムネもキセルを燻らせるような穏やかな気配で、この静かな時間を愉しんでいた。

 

「シロ、冷めないうちに食おうぜ。深海魚の鍋は、冷えると脂が固まって不味くなるからな」

 

「うん……! いただきます……!」

 

シロが小さな手でスプーンを握り、ふーふーと息を吹きかけながら、透き通ったスープと白身魚を口へと運ぶ。

その瞬間、彼女の白髪交じりの細い髪がふわりと揺れ、顔全体にとろけるような幸せな笑みが広がった。

 

「……美味しい……っ! 弾力があって、すっごく甘い……! こんなの、あの寂しい島にいた頃は、想像もできなかった……」

 

「だろ? 激しい潮流と水圧に揉まれた魚は、筋肉の旨味が凝縮されてるんだ。調律の波動で泥臭さ(厄)も完璧に抜いてあるからな」

 

俺も一切れ口に運ぶ。

濃厚な脂の旨味と、ピリッと効かせた東の海のスパイスが完璧に調和して、五臓六腑に染み渡る。現代日本の原作知識を持つ俺からしても、この新世界の海底でしか獲れない隠れた絶品料理は、まさに世界政府の最高権力者どもすら舌を巻くレベルの美味さだった。

 

(ガープのジジイ、邪魔してくれたおかげで、逆に最高の隠れ処が見つかったぜ。俺たちはあんたの作った大海賊時代の喧騒を余所に、こうして世界の美味いものを特等席で傍観させてもらうさ)

 

明かしていない前世の記憶、そして海賊王との最後の約束を胸に。

悪魔の実のせいで他人は乗せられない。だが、呪いを相殺し合う最高の相棒・シロがいて、サクヤがいて、マタムネがいる。

 

「野郎ども、ログポースの針が安定するまで、このまま海底の航路を進むぞ。次なる美味いものの情報(噂)を、じっくりと手繰り寄せるとしようぜ」

 

俺の号令に、甲板の怨霊の将兵たちが静かに武器を掲げ、レヴナント号は深海の闇のなかを、さらに深く、不敵に滑るように突き進んでいく。

呪いと死者を従えた俺たちの『自由の美食航海』は、新時代の荒波の遥か下で、二人だけの特別な歴史の足跡を、どこまでも気楽に刻み続けていく。

 

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