大分涼しくなってきまして、処す越の執筆速度もなんとなく上がったような、そんな気がします。
涼しくなってくると風邪を引く方が多くなってきます。
また今年はインフルエンザも早期流行の恐れがあるため油断は禁物です。
体調管理をしっかりとして、元気に冬に備えましょう。
それでは本編をお楽しみください。
~ゲヘナ学園 万魔殿議長室~
マコト「キキキ! では今回の戦闘糧食改善が何故重要課題となったか、そこを話そう。先生は当然トリニティを知っているな? 何やらあの時のゴタゴタの中で顧問をやっていたと聞く」
重厚な執務机の奥で、羽飾りのついた軍帽を揺らしながらマコトが不敵に笑う。
ユリー「勿論。あ、まさかトリニティに侵攻するためとか言わないよね...?」
マコト「先生、さすがの私をバカにしてもらっては困る。トリニティなんぞいつでも潰しにかかれる距離にあるからそこは関係ないと断言しよう!」
ユリー「良かった、安心したよ」
そっと胸をなでおろす。
相変わらず大言壮語だが、今回は珍しく戦争の発端ではなさそうだ。
マコト「どうもここ最近、万魔殿や風紀委員会の出動件数が増えてきていてな。風紀委員はまあ勝手に自滅してもらうとして、こちらも疲弊が相当なんだ。そこで色々現場を視察に回った結果、補給物資の食事が酷すぎるというのが露呈してな。...イロハ、アレを」
イロハ「アレ...まさか先生に食べてもらう気ですか?」
マコト「ああ。顧問になってもらうからには、まず現場の実情を知ってもらわないといけないからな」
イロハ「分かりました。先生、お覚悟を。」
重い溜息をつきながら、イロハは近くのソファに置いてあったカバンから、厳重に真空パックされたパッケージを取り出してきた。
開封すると、中から出てきたのは軍隊で支給されるような、無機質なオリーブドラブ色のレーション(戦闘糧食)だ。
ユリー「これは...見た目は普通のレーションだけど...」
イロハ「ではお湯が必要なものだけ準備しますので、まずはそちらの固形物を食べてみてください」
イロハが差し出してきたのは、パウチに入ったスティック状の栄養食だった。見た目は市販のカロリーメイトにそっくりなのだが...
ユリー「んぐっ...らぃぉえ(なにこれ)」
口に含んだ瞬間、舌の上から水分という水分が一瞬で蒸発し、口腔内が砂漠化した。
口粘膜が貼りつき、言葉を発することすら困難になる有様だ。
マコト「携帯食料...といったところだな。口の中の水分をすべて持っていかれるだろう?」
ユリー「っ、ゲホッ...! あとこれ何!?」
手元に残されたもう一つの物体を指さす。
それは一見するときつね色をした立方体だが、手に取るとずっしりと重く、指で押してもびくともしない石のような固さだった。
マコト「恐らくキャラメルだ。私はそれを舐めきるのに丸二日かかった」
ユリー「えぇ...」
イロハ「お待たせしました、こちら支給品のコーヒーです」
イロハがお湯を注ぎ、湯気が立つマグカップを運んできた。
しかしその液体は、コーヒーの領域を遠に超え、まるで濃い目の墨汁、或いは重油かと思うほどドス黒く濁っている。
しかも何やらとろみも付いている。
ユリー「ズズズッ...うーん、これはクソマズイ。いや、本当にゴメンなんだけど」
一口すすった瞬間、あまりの不快感に顔が歪んだ。
忖度ゼロの感想である。
イロハ「いえ、別に我々ゲヘナ学園で作っているものではないので、何と言ってもらっても構いませんよ」
イロハは心底どうでもよさそうに肩をすくめた。
マコト「と、今食べてもらった有様でな。現場からも悲痛な声が多数聞こえてきている。勿論、あくまでこれは戦闘糧食扱いだからめちゃくちゃに美味しくしてくれとは言わない。ただ少しでも英気を養える程度にならないかと思ってな」
ユリー「マコト、本当に悪いこと企んでない? 君がそこまで現場を心配するなんて...」
イロハ「先生、疑ってしまう気持ちもわかりますが、こう見えてマコト先輩、一週間ほど前にこのレーションだけで過ごす耐久実験を試みて、初日で大後悔したんです。私も巻き添えで道連れになったので、どうか信じてあげてください...」
サツキ「私からもどうか...マコトちゃんに『どんな食べ物でも美味しく平らげられる催眠術』をかけて差し上げたのですが、それすら太刀打ちできなかったほどなの...」
傍らに控えていたサツキが、困ったように頬に手を当てて付け加える。
ユリー「うへぇ...分かった、どうにかしてみるよ。でも、別にこれ給食部は関係ないんじゃ? 私の情報網なら、外部のメーカーに掛け合うくらい...」
???「給食部に掛け合ってほしいというのは、私どもからのお願いです」
突然、閉まっていたはずの議長室の重厚なドアが開き、凛とした声が響き渡った。
イロハ「げっ、美食研究会!? どうやって入ってきたんですか、外には見張りが居るはずですが!」
イロハが思わず椅子から立ち上がる。
ハルナ「ふふっ、彼女たちの買収など、私の美食情報網をもってすれば簡単なことです。ちょっと美味しいお店の限定情報を教えただけですよ?」
黒髪をなびかせ、当然のように入ってきた黒館ハルナが優雅に微笑む。
イロハ「ハァ...まあ、そういうことです先生。端的に話すと『フウカさんの腕なら間違いない』と、彼女たちからの強い進言があったのです」
ハルナ「フウカさんの料理の腕、先生もご存じでしょう?」
ユリー「勿論、何度も手料理を頂いてるからね」
マコト「まあ、ともかくだ。先生、これはいくら時間をかけても構わないが、出来れば早急に対応して欲しい。任せたぞ、先生!」
マコトがバッと腕を組み、満足げに頷いた。
こうしてユリーは、万魔殿と美食研究会、そしてフウカ率いる給食部を巻き込んだ「極悪レーション改善プロジェクト」に首を突っ込むことになってしまったのだった。
ユリー「ところで...まだ給食部も忙しいだろうから、もうちょっとだけここに匿ってくれないかな? 今外を歩くのは流石に危ないでしょ」
マコト「ああ、この部屋は好きに使うと良い! なんならイブキと遊んでいくのもいいぞ!」
イブキ「わーい! 先生、遊ぼうー!」
ユリー「よしよし、何して遊ぼうか」
そうしてイブキとのお絵描きや折り紙に付き合いながら、平和な議長室で時間を潰すことしばし。
フウカから「ようやく一段落しました」と連絡が入ったのは、午後1時を少し回った頃だった。
~ゲヘナ学園 給食部調理室~
昼のピークを過ぎ、熱気と煙がようやく引いた調理室。
調理台の後片付けをしていたフウカは、やってきたユリーの姿を見るなり、申し訳なさそうに眉を下げた。
フウカ「今朝は追い出すような形になっちゃってごめんなさい、先生...」
ユリー「ううん、全然大丈夫。それより...さっき連絡したレーションの件なんだけど」
フウカ「ええ、話は伺っています。万魔殿だけじゃなくて、なんと風紀委員会の方々まで私に頼み込んできた時は正直驚きましたが...」
フウカはエプロンで手を拭いながら、真剣な眼差しでコクリと頷く。
フウカ「...あんなパサパサで味もそっけもないものを『食事』として配給されていたなんて、給食部として黙っていられません! 先生が以前、外の世界で培われた戦闘糧食(レーション)の知識と、私の料理を組み合わせましょう。過酷な現場で戦うみんなが、少しでも笑顔になれるような美味しいレーションを絶対に完成させてみせます!」
フウカの凄まじい熱気に若干圧され気味になりつつも、こうして給食部との『ゲヘナ改善レーション開発計画』が本格的に始動した。
ジュリ「あ、あの、私は...?」
不安そうにエプロンの裾をギュッと握りしめ、上目遣いで尋ねてくるジュリ。
ユリー「もちろん、ジュリの力も必要だよ。よろしくね」
ジュリ「先生...!!はいっ、私、全力を尽くします!」
ぱっと顔を輝かせるジュリの横で、フウカだけがジト目(눈_눈)でこちらを見つめていた。
フウカ「...(ジュリの『調理』だけは絶対に阻止しないと、レーションどころか生物兵器ができちゃう...!)」
言葉には出さないものの、フウカの目から伝わってくる切実な危機感を、そっと苦笑いで受け止めた。
~ゲヘナ学園 食堂~
昼休みが終わり、賑やかだった食堂から生徒の姿が徐々にまばらになっていく。
がらんとした広い食堂の隅の席で、ユリー、フウカ、ジュリの三人による第1回ミニ企画会議が始まった。
テーブルの上には万魔殿から持ち込んだ例の極悪レーションが並べられている。
フウカ「まず...一番の問題は主食です!」
フウカがバンッとテーブルを叩いて身を乗り出した。その目は怒りでメラメラと燃えている。
フウカ「あのクッキーバーみたいなやつ! あれを『主食』として扱っていることに、我々給食部は激しい憤りを覚えます! ゲヘナにはまだまだ成長期の子たちだってたくさんいるんですよ!? そんな大事な時期に、口の水分を全部奪うだけの砂漠みたいな固形物を強要するなんて...いささかどころか、明確な虐待です!」
ジュリ「せ、先輩落ち着いて...」
フウカ「落ち着いていられません! 先生、外の世界の知識では、こういう持ち運べる主食ってどう改良するのが一般的なんですか!?」
ユリー「そ、そうだね...ゲヘナでは主食はご飯がメインだったね?」
フウカ「ええ。給食部でもパンを出すことはありますけど、やっぱり圧倒的に米のご飯が人気ですね」
ユリー「それでいえば、最近は『アルファ化米』っていうのが非常食やレーションでよく使われてる。お湯や水を注ぐだけで、パリッパリの乾燥米がホカホカのご飯に戻るっていう優れものだよ。あとはお湯すら沸かせない状況に備えて、缶詰に直接ご飯を詰めて長期保存できるようにする手法も、外の軍隊ではメジャーだったね」
ジュリ「アルファ化米に、缶詰のご飯...なるほど、その二刀流で行くというのは確かにアリですね!」
ジュリがぽんと手を打つ。
ユリー「あと、味についてなんだけど...このレーションって正直どれ食べても薄味だよね。でもゲヘナの生徒たちはみんな銃を持って走り回って、よく運動するでしょ? だから余計にこの薄味が物足りなく感じちゃうのかも。勿論ガンガン塩分を効かせるのは体に良くないから、出汁とかの『うま味成分』をうまく使っていけるとベストかな」
フウカ「ふむふむ...」
メモ帳にカリカリと猛スピードでペンを走らせている。
その横で、何やら例のパサパサのクッキーバーを手にとり、じーっと見つめていたジュリが首を傾げた。
ジュリ「...ねえ先生。このクッキーバー、お出汁に溶かしてポタージュみたいに作れないかしら?」
ユリー「えぇ...? でも、まあ...正直、味がほぼ無い焼き固めた小麦粉バーと思えばアリ、かな?」
フウカ「いや、なしでしょ(눈_눈)」
冷ややかなジト目を余所に、ユリーはジュリの提案に乗ってみることにした。
ユリー「まあまあ、実験として一旦作ってみよう。意外とイケるかもしれないしね」
こうして三人は早速調理場からカセットコンロと小鍋を用意。
昆布と鰹節で取った黄金色のブレンド出汁を張り、そこへ遠慮なくクッキーバーを二本投入した。
すると、何ということでしょう。
鍋の中にあったはずの300mlの出汁が、クッキーバーを入れた瞬間に目に見えるスピードで吸い上げられ、あっという間に半分以下へと目減りしていったではないですか。
そして水分を吸ったクッキーバーは、見る影もなく膨れ上がり、元の三、四倍ほどの不気味な巨大物体へと変貌を遂げてしまう。
鍋の中で怪しく蠢くそれを見つめ、三人は顔を見合わせると、同時に深々とため息をついた。
ユリー「そりゃあ口の中の水分が一瞬で吸われるわけだよ...」
遠い目をして呟く。
フウカ「これじゃ現場の子たちが、下手すれば脱水症状で倒れちゃいますよ!? こんなの食事じゃなくて吸水スポンジです!」
フウカは頭を抱え、絶望的な声を張り上げるのだった。
するとそこにたまたま通りかかった生徒が居た。
???「あら、先生?お久しぶりです。」
続く...
いかがでしたでしょうか。
今はいい期間に入っています、書きたいことがどんどん出てくるいい時期です。
そのうちネタ不足に陥って投稿頻度が下がると思いますが、生ぬるい目で続きを待っていただければと思います。
それではまた次回もお楽しみに。