『勇者のクズ』妄想二次創作短編SS まとめ   作:onakatarumi

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《死神》ヤシロと元《嵐の柩》卿をラブイチャさせたいだけ。


IF 番外編・勇者と《プチ柩》卿と       。 

 

「城ヶ峰インターセプト!」

 城ヶ峰の奴が無駄に機敏な動きで俺たちの間に割り込んできた。こいつ、魔王と戦うときにもこれくらいの動きを見せればいいものを。そしたら俺もお役御免で、めでたく師匠役をやめられる。

 

「いけません! いけません師匠! いかに師匠が普段は人としてちょっとどうかな? な危険低空飛行を日々敢行しているとはいえ! これは一線超えです! ポリスヶ峰案件です!」

 常のハイテンションで極めて失礼なことを口走る城ヶ峰。普段は意味の分からない発言が多いくせに、俺をなじるときだけ描写が的確なのが腹が立つ。どこを殴ってやろうかと俺が考えていると、別の声が城ヶ峰への同意を示す。

 

「うん。教官。それはよくないと思う。小さいのが好きなら私にするべき」

「ダメだぞ雪音! それはそれで絵面に問題しかない! 条例にも引っかかる! 師匠とのデートに備えて確認したから間違いない! 結果、私のような大人の女性なら問題ないが、雪音はダメだ! 意地悪ではない! 牛乳を飲め! それで師匠! つきましてはスケジュールの調整を!」

 分かりにくい無表情で抗議する印童雪音と、それに更に言葉を被せる城ヶ峰。今度は明らかにムッとする印童。毎度の混乱に陥りそうになったのを止めたのは、女としてはかなりの長身な部類に入る金髪の少女だった。

 

「あのさぁ。そもそもなんでこんなことになってるワケ? その……」

 少女、セーラ・カシワギ・ペンドラゴンが俺の足元。正確には足元でジッと俺を見つめる『ソレ』を指差した。

 

「それ、《嵐の柩》卿だろ?」

 そう。『ソレ』の特徴は、明らかに《嵐の柩》卿と一致していた。

 つい先日まで関東一帯を支配しておきながら、超一流の勇者である俺に負けて、いまは新人バイトと呼ばれる女。その女の髪色、瞳、それらの配置と明らかに一致していて——明確に違った存在。

 縮んでいる。いわば。

 

「《プチ柩》卿ってところか」

 

 

 

――――

 

 

 

 《プチ柩》卿は、エド・サイラスがまた用事で店を空け、《ソルト》ジョーや《二代目》イシノオも姿を見せず、新人バイトと俺が《グーニーズ》で二人きりという、近頃発生しがちな状況下で突如出現した。

 

 新人バイトからふと目を離して、戻したときに。そこに長身の女の姿は無く、代わりに現れたのが——《プチ柩》卿だ。

 

 体高は俺の腰あたりまで。髪色や瞳は明らかに新人バイトを思わせ、だがその格好は「新人バイトがそのまま縮んだ」にしては奇妙なことに、かつての《嵐の柩》卿が纏っていたドレスをデフォルメしたような服だった。

 

 《プチ柩》卿は驚愕する俺を見上げてこう言った。

 

「ヤシロさまっ、ぎゅー! ぎゅーって、して?」

 俺は目眩を感じて額を抑えた。情報が錯綜し過ぎている。《E3》 を使ってエーテル知覚を発動させ、ゆっくり考えたいくらいだったが。アレもなかなか安くはない。仕事でも無いのに使うのは躊躇われた。

 

 同時に。これが何かの攻撃である可能性も考慮に入れて、俺はとりあえず、《プチ柩》卿の頭を触った。

「なでなで?」

「違ぇよ」

 こてり、と。首を傾げて尋ねてくる《プチ柩》卿に俺は否定の言葉を返した。

 断じて頭を撫でているわけでは無い。それはサイズ確認だった。俺の知るあるエーテル知覚では、光を歪めて姿を誤認させるというものがある。

 その場合、触れれば分かる。実際の姿が感触で分かるはずだったが——明らかに低い位置、つまりは見たままの位置に《プチ柩》卿の柔らかい髪の感触があった。

 となると、と俺が考察を進めようとした瞬間に——城ヶ峰達がやって来たわけだ。

 

 

 

――――

 

 

 

「師匠!この席順は納得いきません!何故だか隔意を感じます!」

「おう。《E3》を使わなくても分かるようになったか。成長したな城ヶ峰」

「はい! ありがとうございます! 日々成長が留まるところ知らない城ヶ峰です!」

 《グーニーズ》のカウンター席に俺たちは横並びに座っていた。席順は右から《プチ柩》卿、俺、セーラ、印童、城ヶ峰の順だ。城ヶ峰のやつはうるさいし、《プチ柩》卿をすぐに威嚇する。出来ればおとなしく帰って欲しかったが、流石にそうは行かないだろう。

 

「ヤシロさま、《アレ》、こわい……」

「スマンな《プチ柩》卿。おい印童。城ヶ峰が噛みつかないよう見張ってろよ。任せたぞ」

「ああっ! また頭を! オイッ! 《嵐の柩》卿! 未だ更生途中の身でありながらそのようなうらやまけしからん真似をよくもっ!」

「わかった教官」

 飛びかかりかねない城ヶ峰の牽制は印童にやらせる。任せたという言葉が効いたのか、印童は的確に城ヶ峰をカッティングしていた。体格は城ヶ峰のほうが良いが、体捌きだとかそういった技術は印童が三人の中で頭ひとつ抜けている。

 

「でさセンセイ。どうしてこんな風になってるわけ?」

「俺にもわからん」

「ヤシロさまー、ちゅー、ちゅーもしてほしいの」

 《グーニーズ》の片隅で埃を被っていた子供用の椅子に《プチ柩》卿は座っていた。バーなのになんでそんなものがあるのか、誰かが子ども連れでやってくる予定でもあり、それがフイになったのか。——深掘りすると嫌な出来事が思い当たりそうなので、俺は思考を切り替える。

 とにかく、子ども用の椅子をギイギイ鳴らしながら、こちらに手を伸ばしてくる《プチ柩》卿を適当にあしらう。

 

「師匠! 師匠! いまそこの魔王が! とんでもなく不埒なことを!」

「元魔王、だな。いまはなんだ? 元新人バイトか?」

 今は縮んで、そして思考もなにか普段と別方向に狂っている女のことを俺は考えた。元《嵐の柩》卿、今は《グーニーズ》の新人バイトで、魔王でも勇者でもない女。そして、《初代》イシノオを殺した女。許せない相手ではあるが——。

 

「この状態で殴る蹴るするのは、流石に駄目だろ」

「いやセンセイ、普段なら殴って良いわけじゃないと思うけど」

「コラッ! セーラ! しれっと話を続けるな! 師匠とそこの悪魔を止めろ! 私の側に付け!」

 城ヶ峰の叫びを背景に、セーラの奴が常識的なツッコミを入れてくる。三人娘の中で最も話が通じるまともなのがセーラで、だからこそ勇者にも向いてない。

 

 それについて一言いってやろうとした時だった。頭をぐりぐりと撫でられて満足げにしていたはずの《プチ柩》卿が、するりと俺の腕を掻い潜る。

 カウンターの上にのり、そのまま、顔を俺の横ヅラへと押し付けてきた。

 頬に、温かい感触。

 

「ちゅーしちゃった。ヤシロさまとちゅー! ほっぺちゅー!」

 嬉しげに、パタパタと腕を振り回す《プチ柩》卿。

 ガタン!と椅子が倒れる音が三つ響いた。

 城ヶ峰、印童、セーラの三人が同時に勢いよく立ち上がったからだと、姿勢から分かった。

「なんだ。三人とも」

「いや、いやいや! センセイ、だっていまさ……」

 城ヶ峰はわなわなと震えている。黙ってくれているのはありがたい。印童は臨戦体制もかくやという表情だ。ここでも、一番まともに質問に答えたのはセーラだったが、それすらも言葉足らず。俺は人生の先達として理由を推察してやることにした。

 

 おおかた、と俺は思う。かつて敵対した魔王である元《嵐の柩》卿への俺の対応が甘いことへの警戒なのだろう。だが、俺からするとこの《プチ柩》卿は元《嵐の柩》卿と明らかな連続性がありつつも、同じではない、という認識だった。連続した、それでも別人。ならば元《嵐の柩》卿への対応と同じにする必要は無いだろう。

 

 もしも元《嵐の柩》卿、新人バイトが同じことをしてきたら、と考える。嫌悪以前に恐ろしかった。爬虫類じみた笑顔で唇を寄せてくる新人バイト。それは捕食シーンを連想させる。

 そんな、諸々を説明しようと俺は思い——面倒になった。雑な返しをするとにする。

 

「ガキから頬にキスされたくらいで。何か思うかよ。それこそガキじゃあるまいし」

「ガキじゃないのっ! ヤシロさまっ! すきっ! すきなの!」

 喚く《プチ柩》卿。ちょっとうるさいので、とりあえず猫か何かにするようにその喉を周りを撫でてやる。すると、《プチ柩》卿は大人しくなって俺の手に顔を擦り寄せて黙った。これでいい。

 

 代わりに城ヶ峰のほうがうるさくなった。せっかくミュートしていたのに。

 「師匠! 師匠師匠師匠! 以前から考えていましたが師匠の認知は歪んでいます! いまからでも遅くはありません! 城ヶ峰式メンタルカウンセリングを受けましょう! セーラ! 以前に君が物欲しげに見ていたナース服を三人分発注するんだ! 私の分は胸のサイズに気をつけてくれ! さあ師匠! 週五日毎日三時間の城ヶ峰式カウンセリングを受けるだけで師匠のドブ川の様に濁った瞳が透き通った清流へと戻ることは間違いありません! その悪魔から手を離して私の手をとって下さい!」

「なっ、物欲しげになんて……」

 

「誰が行くんだよ。そんな拷問みたいなカウンセリング。廃人になるか流血沙汰になるかしかねぇだろ、そんなもん」

 動揺するセーラを無視して、俺は拒絶を口にした。セーラの奴が意外と少女趣味なのはみんな知っているし、知られていないと思っているのは本人だけだ。そして俺からすれば城ヶ峰式などという、壁に詰め物をした部屋でも用意しておかないと、恐ろしくて初診すら受けたくないカウンセリングを断固として拒絶するほうが大事だった。

 

「教官」

 呼ばれて、おれは印童に顔を向ける。先程まで《プチ柩》卿に対して殺気すら漂わせていた印童が、今度は何かを期待するかのような顔をしている。期待した顔、とは推測だった。印童の表情は読みにくい。犬や猫のご機嫌を伺うのに近い。

「教官はわたしのナース服、見たい?」

「あん?」

 聞かれて、思わず俺は印童のナース服を想像しようとして、出来なかった。園児服なら着せられたが。そのうち背が伸びて、と考えようともするが、どうにもナリが成長した印童の姿をうまく思い描くことが出来なかった。むしろ、今より小さくなっている気すらする。

 そんな想像も交えて、皮肉交じりに何か言ってやろうとしたときだった。

 

「めー! わたしを見なきゃだめなのっ! ヤシロさまっ!」

 カウンターの上に乗りっぱなしだった《プチ柩》卿が、その小さな手で俺の両頬を掴んで、一気に顔を寄せてきた。再びの、温かい感触。今度は先ほどと、位置が違う。

 

 城ヶ峰を筆頭にした三人娘の、《グーニーズ》全体を震わせるような叫びが響いた。うるせえ。

 

 

 

――――

 

 

 

 その後は、俺にとって散々だった。火がついた様に騒ぎ出す城ヶ峰たちを適当にあしらい、くっついて離れない《プチ柩》卿を抱き上げてあやしてやり。そんなこんなしているうちに帰ってきたエド・サイラスの奴には「ウチの店でいかがわしいことするな」と何故か俺だけが説教を食らった。これには全く納得いっていない。俺が一番の被害者だったはずだ。

 

 そして、エドの説教を受けている間。全員がすこし、目を離したスキに——《プチ柩》卿は消えていた。代わりに、長身の女がそこにいた。新人バイト。

 

 俺と城ヶ峰たち含む四人から、視線を向けられて。新人バイトは普段の何を考えているか分からない無表情でこてり、と。首をかしげた。

 

「何か、私の顔についていますか? 《死神》ヤシロ殿」

 

 とりあえずは、《プチ柩》卿の騒動はそれで終わった。

 

 その騒動の《原因》が明らかになったのは、すこし時間が経ってからだった。

 

 「他人の認知を変えるエーテル知覚」。

 

 認知そのものが能力の本質であるエーテル知覚において、あまりにも逸脱した規格外のエーテル知覚が引き起こした様々な怪現象のひとつが、《プチ柩》卿騒動であり。

 

 その《原因》は大事件へと繋がっていくこととなる。

 

 現象そのものは起こっているのに、それを起こした魔王も勇者も確認できないことから、《円卓》財団は「魔王現象」との呼称を定め、対処を開始。

 魔王現象が引き起こしているとされた動物や人間の変質現象——「妖精化」と後に命名された怪現象は、東京を中心に日本を大混乱に陥れ。

 

 そして。

 《円卓》財団は初の「個体として確認された」魔王現象をこう呼んだ。

 

 魔王現象 零号。

 

 その個体の戸籍上での名は、城ヶ峰亜紀といった。

 

 

 

 

 

 IF 番外編・勇者と《プチ柩》卿と《魔王現象 零号》。

 完

 

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