世界救うの無理そうなんで原作カプだけは守ろうと思う 作:流し見る盾
それは唐突に現れた。
世界を覆い尽くさんとばかりに進軍する魔物の群れ。そして、赤く染まった空から降り注ぐ黒い泥。
レヴァルレア王国はこれを『混沌』と命名。後にこの天災は『
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うおおおお! 空やべぇー! ゲームじゃ最序盤の出来事だからナレーションで処理されてたけど、確かにこれは大災害だ。
そして、ミナクの両親が死ぬことと彼が戦闘狂として覚醒することが確定した。助けに行こうにも今は門が閉ざされており、救出には向かえない。それどころか今は自分のことで精一杯だ。
空から降り注ぐ黒い泥。それに触れると『混沌』という魔物になってしまう。だから一般市民にできることは家に引きこもるのみだ。
何故こんな事態に陥ったのか。それは神のやらかしによる。
世界には明確な神という存在がいて、地獄がない代わりに人や他種族が犯してきた罪、怒りや憎しみといった呪いは全てその神の持っている杯に溜め込まれていた。
神はそれをワインみたいに飲んでいたが飲み干しきれず、その満杯になった杯をひっくり返して世界に零してしまい、混沌が生まれた。
生物が地獄で苦しむのを見たくないと自分で飲もうとして結局混沌をあふれさせたということでプレイヤーからは全ての元凶、無能神、クソアホ脳ボケチンパン神などと散々な呼ばれ方をしている。
そして、その呪いは何千年と溜め込まれたものでありどれだけ混沌を殺しても根絶はできない。
ので、神は人間と自身を繋がらせることで混沌を退ける力を持った聖なる柱──『灰欠けの女神』を作り、世界を安定させようとした。
しかしただの人間が神の力を得るということは並大抵の苦痛では済まされず、信仰心や人間性が限りなく優れた者だけが灰欠けの女神となることを許される。
そして選ばれたのがヒロイン、エイルであり、代償として多くのものを失うがそれでも他のために尽くし続ける。
主人公、ミナクは彼女を守るための近衛兵となり、彼女の優しさに触れ戦闘狂から少しずつ変わっていく。というのがゲームのあらすじだ。
そして今頃ミナクは混沌と化した両親と戦っているだろう。原作ではその戦闘がチュートリアルとなる。無情すぎないか。
灰欠けの女神という単語が出てくるのはこの災害がある程度収まってから。その神託を受ける奴も中々にくせ者なのだが関わるのは当分先だ。
とりあえず今は祈ることしかできない。頼むから死ぬなよ主人公。
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「あ、ああ……母さん……父さん……!」
混沌に吞まれた両親を前にしてもミナクは平常心を保っていた。
彼に道徳が無いわけではない。弟を守るために、両親を殺す。『そうした方が正しい』という指針が彼の中に存在していた。
薪割り用の斧を構え、魔物と向き合うミナク。その内に一つの感情が芽生え始めていた。
(……?)
かつてない程の昂揚感。これはタクトと相まみえた時と似て、しかして強い。
弟を守るため。その大義名分を抱えながら、ミナクは戦闘を開始した。
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あれから一年。世界中を襲った混沌は各地に潜み、多くの村や国が壊滅状態に陥った。レヴァルレア王国も手痛い打撃を受けたが流石二大大国といったところか、復興が始まっていた。
そして、ミナクと俺はそれぞれ異なった目的で、騎士団へ入団を試みていた。
「よう、ミナク」
「……」
男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉があるが、ミナクの雰囲気は確かに変わった。張り詰めるような殺気が体中を覆っている。戦闘狂に覚醒したんだな。……さて、こっから好感度稼ぎしなきゃな……。
「お前も入団テスト受けるクチか?」
「……」
首肯。まあ住んでた村が壊滅したし王国に身を寄せるのは当然か。
正直に言うと、憂鬱だ。騎士団に入ってやらされることはかなり苛烈を極める。見たくないものを見ることもある。
それでも推し活はできる。俺の楽しみはもうそれぐらいしかなかった。
「33番、タクト! 前に出ろ!」
「はい!」
「好きに打て。手加減はするなよ」
木剣を手渡され、試験官の前に立つ。ある程度力量を示せれば合格となる。
……ちょっと本気でやってみるか。
「フンッ!」
「──!?」
両足に魔力を叩き込み一気に距離を詰める。魔法は習ったことないが魔力の扱い方はなんとなく理解していた。
そして、一振り。
「グ……ッ!?」
「まだまだ行くぞ──」
「さ、33番! そこまでだ!」
「え?」
まだ一撃しか入れてないのに止めさせられた。不完全燃焼感が凄い。
「……コホン。34番! ミナク! 前に出ろ!」
「……」
「あのー、俺は……?」
「貴様の結果は追って伝える。分かったら列に戻れ!」
列に戻れと言われたが俺はいつでも間に入れるよう、意識を張り巡らせていた。今のミナクはちょっと危うい。
次の瞬間、試験官はミナクに吹っ飛ばされた。
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絶句。吹っ飛ばされていない試験官も、列に並びその光景を眺めていた入団希望者も、その異常性に言葉を失っていた。
『あんな化け物が騎士団に入るのか』。恐怖に近い戦慄がその場を占めていた。
当の本人といえば鉄仮面を崩さず、剣を構えたまま残心をとっていた。『試験官程の強さならこれぐらいで終わりはしないだろう』。そんな期待と希望が視線に込められていたが、気絶したまま動かないのを気取ると落胆のため息をついた。
「……み、ミナク。結果は追って伝える」
いや合格だろ。その場に居合わせた者の心中は揃っていた。
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というわけで無事合格。ここで力を示しすぎると後々厄介な輩に目をつけられることになるが、あの様子だとつけられてるだろうなぁ……。頭痛のタネが増える。
で、私強いですよアピールをした俺たちは早速対混沌部隊に属することに。熟練の騎士が揃っていることもあり、俺たちはまだまだ駆け出しのルーキーだった。流石にここで無双はできない。もっと強くならなければ。
「いいコンビネーションだったぞ、ミナク、タクト」
「ありがとうございます。……ミナク、お前もなんか言えよ」
「……」
「ふっ、儂らは完全実力主義だ。そう肩肘張ることはない。よもや、酔っぱらい共の享楽となっていた立ち合いからここまで成長するとはな」
「え? 俺たちの勝負ご存じなのですか?」
「風の噂でな」
先達方の剣術は目を見張るものがある。ついていくには俺とミナクによる阿吽の呼吸で食らいつくしかなかった。散々二人で戦ってきた分、互いのクセや思考をある程度覚えていたのだ。
「とりあえずおんしらには精霊と契約できるぐらいには強くなってもらわんとな」
「……精進します」
自分の手で生き物を殺すと、それは経験値となって体内に蓄積される。その対象は混沌も同じで、ある程度殺すことでレベルアップができる。
そして一定のレベルを超えた場合、この世界に溶け込んでいる精霊と契約を交わせるようになる。ネタバレするとミナクは剣の精霊に適性がある。
そう、適性があるのだ。人によって契約できる精霊は一種類だけ。俺の場合は何だろうか……。
とりあえず今できるのは国を襲う混沌を倒し、レベルアップに努めること。灰欠けの女神関連の情報が出てくるまでには部隊トップクラスに至っておきたい。
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「ミナク、今日暇だろ。エイルんとこ行かないか」
「……」
頷く。やっぱりコイツエイルには甘いというか、変わるというか……。いやまあ助かるけど。
対混沌部隊はローテーション制。疲弊した兵を労うための休日は確保されていた。……つっても一ヶ月に一日だけしかないけど。
俺には戦いに狂える素質が無い。正体が呪いであれ生き物を殺すのは気が引けるし、怪我めっちゃ怖い。
……が、しかし。
「エイルんとこ行ったら何する? 食べ歩きでもすっか?」
「……試合を」
「お前ホント好きだな
ミナクとの共闘。鍛え抜いたコンビネーションで混沌を撃滅することは、楽しいと思っていた。
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「よ、エイル」
「タクトさん、ミナクさん、よかった……生きておいでだったのですね」
「……」
俺たちが死ねばエイルは悲しむ。そう思うだけで、俺はいくらでも戦える気がする。なにせ前世からの推しなのだからな。
「……私は、お役に立てているでしょうか」
「? なんだよ急に」
「私は、祈ることしかできません。お二人のように混沌に立ち向かえる、力がありません。それなのに私はのうのうと生きて……」
「……」
何故こうまで自己肯定感が低いのか。それにもちゃんと理由がある。
エイルに両親はいない。孤児として教会の中で育ってきた。もちろん神父は親代わりとして優しくしていたが、本来与えられるべき愛情を受け取れていないことや混沌に対して何もできない無力感などが積み重なり、『どうして役立たずの自分は生きているのだろうか』という思考に陥ってしまうのだ。
ちなみにこの情報は全ルートを攻略した後タイトル画面に解放される『アーカイブ』にて見ることができる。『あのルート』をプレイして見た分しばらくエイルのことばかり考えていたのが記憶に新しい。
「俺は……いや、俺たちはキミが笑えるために戦ってんだ。エイル。キミは俺たちの力の源なんだよ。なあミナク」
「……」
頷……かない。やはりまだ好感度が足りていないな。ハァ……気苦労が絶えない。
「つーわけだから、キミはそのままでいい。俺たちはとっくにキミに助けられている」
「……ありがとう、ございます。ミナクさんも」
「……己は……いや、なんでもない」
うあー、推し活サイコー! このじれったい関係を目の前で見せつけられるとめっちゃ昂る!
「よし、行こうぜミナク」
「……」
「今日も試合をなさるのですか?」
「前ほど怪我はしないし大丈夫……つっても、エイルは気にするか。気になったら祈りに来てくれ」
「はい。必ず参ります」
「んよし、行こうぜミナク」
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「シッ──」
「ッ──」
我流で鍛えていた頃より洗練されていた。加えて、普段の共闘とこれまでの経験が紙一重の打ち合いを形成していた。
見える。相手の動き、息遣い、視線全てが。
かつては俺の方が弱かった。しかし今は拮抗している。故に決着を齎すのは──
「甘爪、絡繰り、夜半の砦」
「……!」
「ハアッ!」
魔法を詠唱し、火球を放つ。人災に繋がる可能性を考慮し石ばかりの広場を試合会場にし結界を張った。これで外部に火球が飛んでいく心配はない。
大怪我に至る心配はないのかって?
しかし俺はズルをした。お互い構えているのは木剣。火球を切り裂いても燃え尽きる恐れがあった。
──が、やはり主人公は主人公。薄く魔力を流すことで対火加工を咄嗟に施した。
「マジかおま──ぐあっ!」
「……」
「……ハァ。詰みだな。参りました」
俺の敗北宣言と共にエイルが救急箱を抱えて走ってくる。つかの間の平和に俺は笑うのだった。
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俺たちが対混沌部隊に属して早一年。いよいよ原作の難所にぶち当たることになる。
俺とミナクは部隊の中でも最上位級に強くなった。精霊との契約はまだできていないが、技術面でカバーしている。これなら遠征にも行けるだろう。
「ミナク兄さん、タクトさん、神託って何なのでしょうか……」
「……」
「答えてやれよお兄ちゃん。あー、神託ってのは『大神官ラヴァリエ』が神の言葉を聞いて俺たちに呼びかけることを言うんだ。儀式的な部分もあるから長引くぞ」
さらっと入隊したミナクの弟、『ハンネ』。コイツはこの後行く鬼畜イベント、大遠征で死ぬことになる。
俺たちが国の中枢部にある巨大な礼拝堂に辿り着くと、レヴァルレア王国の修道女たちが目を閉じて真摯に祈っていた。俺たちは万が一のための護衛を任されている。
神託で何を告げられるのかというと、件のキーパーソン、『灰欠けの女神』についてだ。
神と繋がる。明らかに重要な役割。俺はそれが誰に託されるか既に知っていた。
「神はおっしゃいました。灰欠けの女神となる器、それは──『エイル』。貴方なのだと」
俺は誰にもバレないよう、小さく息を吐いた。これから忙しくなるぞ……。
ちなみに大神官ラヴァリエはかなりのくせ者だ。今のところその異常性は発覚していないが、この後のストーリーで嫌というほど思い知らされることになる。
これから何が起こるのかというと、
大神官ラヴァリエの神託により、遥か南にある『霊啓の塔』にて大いなる存在(神)との契りを交わし、世界に安寧をもたらす『灰欠けの女神』が誕生する。ということで国は大遠征隊を組み、女神の器たるエイルを守るために兵士をつけ向かうことに。ハンネはそこで死ぬ。
なんとか塔に辿り着きエイルは『灰欠けの女神』になることができたが、逆に魔物達は一気に勢力を増し遠征隊はほぼ壊滅状態に。
女神になった反動で体が衰弱しているエイルを一人で守って帰らなければならなくなる序盤の難関。ここでコントローラーをぶん投げたプレイヤーはかなりいる。
……というのが、灰欠けの女神編だ。
「……死にたくねぇな」
推し活のために、俺は死ぬわけにはいかない。ミナクの視線を感じながら、俺は拳を握り締めた。