死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
「先生、行ってきます!」
「ああ……必ず生きて帰ってくるんだぞ。モルガナ」
「あたしが死ぬわけないじゃん! 当然だよ!」
今の王国は連邦と戦争をしている。
兵力不足に苦しんでいる王国は、自分が働く魔法学院からも徴兵を行っている。勿論、優秀な生徒しか呼ばれないらしいがそれでも不安は尽きない。
「何かあったら、すぐに逃げるんだぞ」
「逃げないよ! だってあたし、優秀だから呼ばれたんだし!」
そう言って無邪気に笑うモルガナ。
優秀だから呼ばれた……確かに書類上はそうなのだが、彼女が本当に優秀なのかは測りかねている。
「私がこの戦争終わらせて帰ってくるから! そしたら……ごはん奢ってよ!」
「お安い御用だ」
「じゃあ先生、また!」
そう無邪気に飛び出していったモルガナの笑顔を忘れられなかった。
◆ ◆ ◆
「モルガナが死んだ……? 校長、まだ出兵して一週間ですよ! そんなわけ!」
モルガナの担任であるアレンは校長に詰めていた。
そんなことがあるわけないと、そもそもようやく前線に着いたくらいはずなのに。
「モルガナ・ガルガンティアは亡くなりました。これは事実です」
「どうして前線についたばかりで亡くなるようなことが起きるんですか? せめて何か分かるように説明してくださいよ!」
周りの先生たちは可哀そうな者を憐れむような目で俺のことを見ている。
校長だけは唯一、表情を変えなかったが。
「……単純なことです。我が校から集められた生徒たちは、その体に自爆魔術をかけられ、敵に特攻するからです。前線で使われるのは当たり前のことでしょう」
「は……?」
アレンは言葉を失った。
そんなことをさせるために自分は生徒たちを育ててきたんじゃない。
でも、一方でこの学園に対する謎が解けた。
本校のカリキュラムは魔法への知識を深めることよりも、魔力量を上げることをかなり重視している傾向にあったのは確かだった。
モルガナがクラスでは一番魔力量があったのは確かで。
そんな彼女が魔力を使って自爆したなら、それはすごい威力になるはずで。
「こ、こんな非道なことが!」
「非道でも何でも戦争に負ければ全てが奪われます。綺麗事は言っていられないのですよ」
戦力が不足している王国が負けていない理由。
その一端にある闇を見た。
だがそんなことよりも。
「お、俺はモルガナを自爆させるために……!」
自分が教えてきたことが敵に突っ込んで自爆をさせるため。
彼女の命は自分が奪ったようなものなのだ。
◆ ◆ ◆
何も手につかなくなって教師を休職した。
「モルガナ、ごめん。ほんとうにごめん。モルガナ、モルガナ……」
命を断とうとも思った。
だが、それこそ責任からの逃げだと思った。
死ぬこともできないけど、生きていたくもない。
それだけアレンは精神的に追い込まれていた。
「う、うあっ……なんで世界は……」
あの学園に帰っても、生徒を自爆人形にさせるだけ。
教師を辞めて、別の仕事をしようとも戦場で子どもたちの命が散っていく現状に何も変化はない。
「俺はどうしたら……! どうしたらいいんだよ、モルガナ」
無力な自分に思わず亡くなった生徒の名前を呼んでしまう。
ふとした瞬間にモルガナの笑顔がフラッシュバックする。
勉強熱心でいつも授業終わりに質問をしてきた。
将来は魔法で社会の役に立つことがしたいとも語っていた。
あんな無邪気な少女が、戦場で爆弾にされて死ぬ。
そんなことがあっていいはずがない。
俺が行かせてしまった。俺が殺したも同然なのだ。
「う、うう……」
涙が止まらない。
罪悪感と喪失感が、アレンの心を黒く塗りつぶしていく。
モルガナに会いたい。会って謝りたい。
その一心で、アレンはある魔法を発動させていた。
「
そしてアレンは校長から貰っていたモルガナのドックタグを捧げた。
「せんせい……? 久しぶりだね」
現れたのは半透明のモルガナ。
どうして透けているのか、無我夢中だったアレンには分からなかった。
「も、モルガナ!? モルガナなのか?」
「そうだよ。先生の教え子、モルガナちゃんです!」
思わず抱きしめようとしてすり抜ける。
何回試しても触ることができない。
「どうなってるんだ、モルガナ……?」
「どうなってるって……今の私は魂だけだからね。そもそも呼び出したのは先生でしょ?」
「俺が……?」
てっきりモルガナが会いに来てくれたのかと。
そのくらいの奇跡が起ってもいいと思っていた。
「そう。先生の闇魔術で、私は冥府の世界から呼び出されたんだ」
「闇魔術……」
闇魔術は禁忌とされる魔術のこと。
精神が闇に落ちたものにしか扱えず、それゆえに大概は暴走を引き起こす。
たしかに今の自分が使えてもおかしくはない気がする。
「先生は壊れちゃったんだね。ごめんね、あたしのせいで」
「な、なんでモルガナが謝るんだ。悪いのは俺だ、この学校のことを知らずにお前を行かせてしまった俺が悪いんだ!」
モルガナに対して頭を地に打ちつける。
そんなことしても彼女が喜ばないのは分かっていたのに。
「先生は悪くないよ。でも、そこまで言うなら……償ってもらおうかな」
「何でもやる。俺にできることなら!」
「ありがとうとね……先生」
モルガナは優しく微笑んだ後に、床に座って俺と同じ目線になる。
「あたしが死んじゃったのはしょうがないけど、クラスメイト達にはあんな思いをして欲しくないの。でも、このままだと皆爆弾されちゃう……だから、みんなに先生が使えるような闇魔術を教えて強くしてよ」
「や、闇魔術を……? だけど、それは」
だって、それは死ぬほど苦しい思いをさせるということで。
「でも先生はみんなに死んでほしくないんだよね」
モルガナの言葉に思わず頷く。
精神を取るか、体を取るか。
「みんなが強くなれば、軍の偉い人も生徒たちを爆弾にするなんて思わなくなる。逆らったら怖いだろうし。だから先生……クラスメイト達を強くするために、みんなの心を壊してきてよ」
モルガナの悪い笑顔。
贖罪。これからのこと。
色々なことを天秤かけた上で、俺は。
これ以上誰かに死んでほしくなくて。選ぶ。
「わかった。先生が皆を闇に落としてくるよ」
愛する生徒たちを闇に落として強くする。
例えどれだけ傷つけようとも、それで憎まれて殺されようとも。
全ては彼女らが戦場で爆弾となって散らないために。