死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
アレンは一人で教室に向かった。
エラも連れて行くと騒がしくなりそうなので、待ってもらっている。
「みなさん、おはようございます」
「お、おはようございます」「……はようございます」
どうしてか、生徒たちの元気がない。
不審に思っているとクラスのまとめ役であるシャーロットが手を上げた。
「先生、最近私たちのことを避けていませんか?」
彼女は悲しいのか少しだけ眉が下がっていた。
避けてない……と言いたかったが、ここ数日の自分の行動を鑑みれば頷ける。
モルガナのことで学校を休んだり、戻って来たかと思えばエラを闇落ちさせることで手一杯で。
苦言を呈されてもしょうがないレベルだ。
だけど、伝えられること……気持ちだけはしっかりと。
「そうですね。クラスの皆さんには寂しい思いをさせてしまっているかもしれません。でも、皆さんは大切な俺の教え子です。それだけは信じて欲しいんです」
そう、この子達はみんな大切な生徒たちなのだ。
でも今は教育よりも、生き残らせるために。
「先生……!」
シャーロットは信じてくれていたのか、アレンを輝かしく見つめていた。
「……すいません、今日も自習になります」
「……え」「今日も……?」「やっぱりアレン先生も……」
教室の空気が一気に変わった。
生徒たちからの信頼を失ってしまう……と思っていたところに。
「はい、みなさん注目!」
ヌルッと突然現れたのは、エラだった。
闇魔術を使って天井から落ちてきたのだ。
その登場に生徒たちは唖然としている。
「先生はクラスのみんなへの愛を失ったわけじゃないんです。ただ――教育方針が変わった、それだけなんです」
エラはアレンに肩を寄せた。
そして、その体からどす黒い魔力を放出した。
クラスメイトの一部が、唾を飲んだり冷や汗を垂らしたりしている。
「見てください! この魔力を、先生に目覚めさせてもらったこの力を! 私はこの力をアレン先生からの個別指導で頂きました。いずれ皆さんにも、その番は回ってきます……だから、今は信じて待っていてください」
エラの言葉に、生徒たちは否定も肯定も示さなかった。
闇魔術を扱うための黒い魔力に恐れる者、興味を持つもの、色々いるだろう。だがクラスの端で目立たなかったエラの性格が変わるほどの指導。
普通なら怖いと思う。
ただ、エラの演説は、次の人物を指定するには丁度良いのも事実で。
「俺が次に個別指導するのは、クレア・バートンさんです。ついてきてください」
まさか自分が呼ばれると思っていなかったのか、彼女は素っ頓狂な声をあげた。
「へ? 私か? まあ、拒否権はなさそうだし、ついていくけどさ」
クレアは飄々とした態度で立ち上がり、教室の前方まで歩いてきた。
エラの演説にも一切動じていないようで背筋もピンとしている。
「そういうわけで、今日も自習です。ごめんなさい」
クレアを連れて教室を去った。
シャーロットはずっと訝しげに三人のことを目で追っていた。
(個別指導に、おぞましい魔力、先生は一体何を教えてるんだろう? もしかして、何かとんでもないことをしてるんじゃ……)
シャーロットは考えてみたが、答えの出ない問いだった。
自習に集中しようとするが……中々に難しかった。
◆ ◆ ◆
クレアを連れて空き教室へ。
念のために、魔術で防音も施して盗み聞きは防ぐ。
「それでアレン先生、何の用だい?」
クレアは座らされた椅子で興味深そうにアレンを見ている。
これから何が起こるのか気になっているような。
「クレアさん。あなたの出自と経歴についてお聞きしたいことがあります」
「おや、エラが言うには個別指導と言っていたけど、まずは面談かい?」
「そういうことです」
面談というかクレアのことをこちらが知りたいだけなのだが。
「クレアさん、実は王家の血を引いてますね? 学校側に提出した書類には虚偽の記載がある……そうですよね」
「……驚いた。バレてるなら隠してもしょうがないね。私は現国王の弟君と大商会に務めていた母との間にできた、存在してちゃいけない娘だよ」
アレンはクレアの言い草に引っかかった。
存在してちゃいけない娘……? 思ったよりも自己肯定感が低い。
「あなたは毎月のように暗殺されかかっているようですが、それも事実ですか?」
「先生は物知りだね。情報は消してるはずなのに……流石はって感じなのかな」
クレアは平然と語って見せる。
相当の秘密を握られたはずなのに、何一つとして動揺を見せない。
「暗殺はどうやって阻止してるんですか?」
「小さい頃、父から与えられた強いメイドたちがいてね。彼女たちが守ってくれているよ」
暗殺されかけても動じないのは、そのメイドに対する強い信頼があるから?
「命を狙われていることを、どう考えていますか?」
「別に何とも? 数年間暗殺は続いているから慣れたというのもあるし……いつ死んでもいいというのもあるかな?」
他人事のようにいつ死んでもいいと口にする少女。
「……死んでもいいなんて簡単に言ってはいけませんよ」
「いーや、死ぬべきだよ。私が存在し続ける限りメイドたちには迷惑をかけてしまうからね。彼女たちには安全な暮らしをしてもらうべきだ」
「それでも、俺はあなたに死んでほしくない」
クレアはフッと笑った。
それは馬鹿にしているような、そんな鼻笑い。
「生徒の命を消費している学校の先生がよく言うよ」
その返しにアレンは驚きつつも、別に不思議だとは思わなかった。
翌日に出兵が決まっているのだ。真実を知っていてもおかしくはない。
「それでも、俺はあなたを助けたい。もう二度と生徒たちを失いたくないんです」
「口だけならいくらでも、だ」
アレンはクレアの煽りを無視して。
「放課後の時間をいただきます。一日であなたを強くしてみせます」
「最後の日くらいゆっくりしたいんだけど……」
クレアは欠伸をしながら伸びをした。