死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
放課後、アレンはクレアを連れて学校を抜け出した。
「アレン先生の家、かい?」
連れてきたのはアレンが借りているアパート。
彼女を闇に落とすには、学校よりも街中の方が良いと思ったのだ。
「そうです。今日はここでクレアさんに個別指導をしたいと思います」
「ふぅん……まさか、変なことしたりしないよね?」
「…………」
「なんで黙るのさ……」
変なことの方がマシのような気もするので、何とも言えない。
そのまま家に上がってもらった。
「普通の部屋だね。本が沢山あるのは教員って感じがするけど」
「日々勉強ですので」
クレアは置いてあった椅子にドカッと座った。
遠慮がない。
「それで、死にゆく私に先生は何を教えてくれるのかな?」
「……少し待ってくださいね」
アレンは机の中に置いてあった縄を取り出した。
「何をする気なのかなのかな?」
「逃げられないように、縛ります」
「……嫌だと言ったら」
「それでも無理やり」
クレアは胸ポケットから鈴を取り出した。
特殊な刻印……おそらくは魔道具の類だ。
「アレン先生、これを鳴らすと私のメイドが迎えに来てくれるんだ。これ以上、変なことをしようとしたら鳴らすけど」
「どうぞ」
アレンは怯まずにクレアに近づいていく。
彼女も一切の躊躇なく鈴を鳴らした。
「これで少し待てば、私は救助される。先生はどうなるか知らないけど」
「関係ありません」
アレンは無抵抗なクレアを縄で固定する。
すぐに助けが来ると思っているからこその、平然とした態度。
まずはその平静を突き崩す。
「さて、まずはこの個別指導の目的を話します」
「どうぞ。聞くだけは聞こうじゃないか」
クレアは縛られて尚、背筋がピンとしている。
本当にこの状況に動じていないのか。
「クレアさんには闇魔術を習得してもらいます」
「闇魔術……? あの、精神的に強いショックを受けると使えるらしい? ハハッ」
なぜか彼女は笑っていた。
これからとんでもないことをされると分かっているのに、なんで。
「私が闇落ち? できるなら今頃しているはずさ……何も知らない先生ごときが、私を闇に落とせるはずないよ」
「かもしれませんね。でもやってみなくちゃ分からないでしょ?」
アレンは壁に立てかけてあった剣を抜いた。
一瞬だけクレアは表情を強張らせたが、それでも余裕そうだ。
「それで私を拷問でもする気かな? アレン先生にそんなことができるなんて、思わないな」
「そう。俺にそんな残虐な手段はとれない。だから」
アレンは心に鉄仮面をかぶることにした。
決して、ここからブレることは許されない。
悪魔を演じてでも、彼女を闇に落として闇魔術を発現させる。
アレンはクレアの肩に手を置く。
「
「な、なんだ今の感覚……? それに不死って?」
クレアに少しだけ動揺が表れた。
やはり人間、得体のしれないものには恐怖が生まれる。
「とりあえず一度体験してください。クレアさんが望む死というものを」
「え、ちょ……!?」
アレンは剣をクレアの首に目掛けて振るった。
綺麗に首を落とすことができずに、半分ほどで刃が止まった。
このままでは殺せないのですぐに引き抜く。
「ひっ、痛っ、痛い、痛い、痛い! ち、血が止まら……!」
ヒューヒューと音を鳴らしながら声を上げるクレア。
一分もしないで弱っていき、そのまま意識を失った。
「
魂に干渉する魔術で、肉体を再形成。
先の闇魔術で死んでも魂が無くならないように細工はしたので、肉体だけ戻してやればすぐに元通りだ。
「はっ!? い、今、私、死んだ……? な、なにが?」
「お目覚めですか? クレアさんには闇落ちしてもらうために、何度も死んでもらいます」
その言葉を聞いてクレアは震えていた。
「い、今のを何回も?」
「そうです。次は――心臓を狙いたいと思います」
アレンは剣を布をで拭いてから、クレアの心臓を一突きにした。
「が、がはっ! がひゅ……」
首を斬るよりは上手く行った。
アレンとしては、クレアを苦しめたいわけではない。
故に、ほぼ苦しみを感じずに死んでくれるほうがありがたかった。
「
そしてアレンはまた、クレアを復活させる。
「はあはあ、あ、あれが死……?」
「そうです。死とは苦しくて、恐ろしいものなんです。それを味わってください」
「も、もうやめ!」
クレアの静止を効かずに今度は胴体を剣で切り裂いた。
内臓が壊れてあふれ出してくる。
「痛い痛いいだい……!」
どうやらすぐには死ねないらしいので、心臓を切り裂いて介錯した。
「
これで三回目。
生徒の死ぬ顔を見るのも同じ回数。
自分で始めたこととはいえ、こちらも吐きそうになっていた。
出てくる胃酸をなんとか飲み込む。
「はあはあ、また戻った……」
「じゃあ次は……!」
アレンは剣ではなくて杖を構えた。
氷魔法で全身を氷結させようと思ったのだ。
だけどクレアが笑い出した。
「あは、あはは! 死って思ったよりも苦しいけど……心には響かないね! だって、戦場で死ぬのはもっと一瞬だろう。だったらこんなもの茶番でしかない!」
クレアの心は折れるどころか、昂っているようだった。
彼女は繰り返される痛みと意識の断絶、覚醒に慣れ始めていた。
「こんなことで、私を闇に落とす? 先生は甘いねえ!」
クレアは知っているのだ――真の苦しみを。
食事に毒を混ぜられたことがあった。
あのときは、本当に死ぬかと思った。
三日三晩吐き続けて、体の中から水分がなくなるような。高熱に、体全身の猛烈な痛み……あれが毒系統では一番ひどかった。
勿論、通り魔に襲われたこともあった。
火の魔法で襲われて全身が焼け焦げた。
皮膚はただれて寝返りをうつだけで、痛みに叫んだ。
何度も死にかけたことがあるのに、今更死を体験するくらいで心が折れるものか。
恐らくアレン先生は、『死ぬべき』と言った私に死を体験させて、それが怖くて恐ろしいものだと思わせようとしている。
だけど、ただ痛いのが強くなったくらいだ。
発狂するほどの痛みは、来る前に終わらせてくれている。
(なんて甘いのだろう……)
アレン先生は変わったと思う。
エラちゃんが先生によって闇に落ちたのは、何となく分かる。
その時も恐らくだが非人道的な手段を取ったのだろう。
並のことでは闇魔術なんて使えるようにならない。
でも、どうせ甘さが残っていたはず。
それに屈するようなエラちゃんの精神が弱かっただけ。
「啖呵を切る、か……本当はやりたくなかったけど、仕方ないな。エラ」
アレンは悲しそうな顔をしてから、その闇落ちさせた生徒を呼んだ。
「はい。準備はしてきました」
「ありがとう、恩にきるよ」
「先生から褒めてもらった……お礼に何してもらおうかな?」
何か二人だけでクレアを置いて話を進めている。
「クレアさん、場所を変えましょう。エラ、お願い」
「はいっ!」
エラがアレン先生とクレアの手を掴んだ。
「
地面に落ちて自由きままに進んでいく。
その上下左右もないような移動に、クレアは吐き気を覚えた。
(こ、これが闇魔術!?)
そして、地面の中を移動して到着したのが。
「ここは……私の家?」
クレアは驚いた。
門をくぐることなく、気づけば自宅の居間にするっと出てきたことに。
飾る物もなく王家の血を引いている者とは思えない一般家庭の、ちょっとだけ大きい家屋。
「そ、そういえば、私のメイドたちは!?」
殺される体験のせいで完全にクレアは忘れていた。
縄で縛られる前に呼んだのに……普段ならもう到着しているはず。
「会わせてあげます」
椅子の向きを反対方向にされる。
そこには、意識を失った状態でしばりつけられているメイドたちがいた。
「レイン、スノー、ヘール!」
思わず声を上げてしまった。
クレアはキリッとした視線でアレンを睨んだ。
「アレン先生、メイドたちを縛り付けて一体何をする気なんだ……!」
クレアの見せた焦りに、アレンは一気に黒い魔力を放出した。
部屋全体にアレンの魔力が漂っている。
「殺します」
アレンは感情を纏わせないで機械的に言葉を発した。
あまりの冷たさにクレアは慌てだす。
「ま、待ってくれ。闇落ちさせるのは私なんじゃないのか? ど、どうしてメイドたちに手を出すんだ!」
「そう。あくまで闇落ちさせるのは、クレアだよ。あなたは自分が死ぬことを恐れないし、苦痛に思わない。だけど、それはメイドたちのためだと言っていた。だったら、メイドたちを殺せば、あなたは闇に落ちる」
アレンが先ほどクレアを斬っていた剣を持ってメイドの一人――レインに近づく。
「本当に待ってくれ! お、お金なら出すし、必要とあれば父さんにも連絡を取ろう。だから、メイドたちには手、手を出さないで――」
クレアが言い終わる前にアレンは剣を振り下ろした。
先ほどクレアにやったときと違って、綺麗に首を落とすことに成功した。
「レイン! レインっ! アレン先生! 冗談だろう? あなたの力なら、ここからでも蘇生させることができるんじゃないか!? な、なあ、助けて……今すぐ助けろよ!!」
クレアは縛られたまま暴れる。
縄が擦れて、皮膚が裂けるがそんな痛みはどうでも良かった。
早くしないと、先生はこのまま残ったメイドたちを殺していってしまう。
「先生、ま、待ってくれ! わ、私は本当に絶望してる……してるんだ! メイドたちを殺されるのは、自分が死ぬよりも断然辛い。だから、分かったから、待って、待ってくれ、待って、待ってください」
そんなクレアの魂の叫びを聞きつつも、アレンは止まらない。
二人目のメイドの首を落とした。
「す、スノー! スノー! な、なんで、なんで……! 待ってって言ってる! 何でもするって言っている! もう闇落ちしたって言っている! なのに、なんで辞めてくれないんだよ……もう分かったから、だから殺すな! これ以上、本当に!」
だけどアレンは無視した。
確実にクレアを闇に落とすなら、全員を殺さなくれは意味がない。
「三人目」
アレンは無慈悲に剣を振った。
これで三人全員とも、首を刎ねられて命を失った。
「ああああああああああああああああ!」
クレアは発狂したように泣き出した。
大切な人を目の前で三人も殺されればこうもなる。
少しクレアの発狂が落ち着くまで待つ。
そこにいたエラもアレンも、一切会話をしなかった。
斬られた三人の血の匂いと、クレアの声だけが響いている。
「ああああああ! げほっ、げほっ!」
ようやくクレアの喉が枯れたようなので、アレンは語る。
「クレア。お前は何も悪くない。悪いのはこの世界だ。だけど、その上で、お前は自分の命を軽視しすぎている。クレアが死ねば、お前に仕えた三人のメイドたちも苦しむ、痛いほどわかったと思うが」
「せ、先生は、そんなことのために……?」
アレンにとっては決して『そんなこと』ではなかったが。
「ああ、そうだ。だから殺した。じゃないとお前はスタート地点に立てないから」
「そんなことのために、私の大切な人たちを…………許さない、許さない! 私は、先生を絶対に許さない!!」
クレアの体から黒い魔力があふれ出した。
命を大切にすることを教えるためだけに、人を三人も殺す。
私の大切なメイドたちを。家族同然の彼女たちを。
この人に全てを取り戻させる。
だから、殺すでもなく操るでもない。
アレン先生を支配して、使い倒した後に、死ぬより辛い目に合わせてやる!
「