死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
『緊急放送です! 生徒たちは学校外に出ないでください。今、校内に残っている生徒たちは大講堂に避難してください。未確認の魔獣が街に現れています。急いで避難してください。繰り返します――』
滅多に使われない緊急放送が学院内に流れた。
生徒たちが避難行動をとる中で、アレンは職員室に向かった。
周りの迷惑などは考えずにガラガラと音を立てて、扉を開ける。
黒板には校長からの指示が書かれていた。
学校を防衛する教員と、街で魔獣と戦う教員で分けられていた。
もう既に校長は街に出て戦っているらしい。
アレンはその指示を見て装備を固めている教員に話しかけた。
「何が起こってるんです……?」
「詳しくは分かりません。見たことのない魔獣が街が暴れているとしか…………ただの噂でしかありませんがシンシア・クリフォードの闇魔術かもと言われています」
シンシアの……!?
その言葉を聞いて、アレンはすぐに教室から出ようとした。
「あ、アレン先生!? 先生は防衛側のはずじゃ……」
「クラスの教え子が関わっているかもしれないなら、俺が行く以外の選択肢はありません。申し訳ないですが、行かせていただきます」
アレンはそれだけ言い残して職員室から出て行った。
◆ ◆ ◆
シャーロット・ポールは相談相手を探していた。
この第十魔術学院はおかしいと、誰か頼れる大人はいないかと街を彷徨っていた。
でも誰に話したらいいのか分からない。
新聞社などに持っていくには話が大きくなりすぎる気がしたし、かといって貴族たちが自分のような子どもの話を聞いてくれるとも思わない。それに実家では、ほぼ勘当のような扱いを受けてしまっている……どうしたらいいのか分からなかった。
卒業生を頼るのも手かもしれない……。
そんなことを考えながら道を歩いていると。
「た、助け……!」
魔獣らしき生物と、それに食われかかっている男性。
その見たことのない生命体には口が無かった。
人間ほどの大きさで二頭身、口しかない顔には返り血を浴びていた。
シャーロットは瞬時に杖を抜いた。
実戦経験などなかったが、それでもこの人を助けなきゃいけないと思った。
「水魔術銃《ウォーターショット》!」
魔術を発動させる。
射出された水の球が謎の生物の頭を貫いた。
初めて何かの生き物を倒した。
だけど殺したという感覚は無かった。
血も出ない……何より綺麗さっぱり霧のように消えてしまったのだ。
「だ、大丈夫で――え?」
倒れている男性に近寄ろうとしたが、なぜか両腕を捕らえられていた。
瞬きをしたら、男性も捕まっていた。
気づけば目の前に口しかない魔獣が立っていた。
大きな口を開けてシャーロットを捕食しようと――。
「ま、待って!」
必死に抵抗するがビクとも体が動かない。
このまま食われると思ったとき。
「「切断魔術《スラッシュ》」
上から飛んできた魔術によって魔獣の首が飛んだ。
ほぼ同時にシャーロットと男性を囲んでいた獣たちも攻撃を受けていた。
その方向を見上げると、そこにいたのは。
「先生っ……!」
シャーロットの担任であるアレン・トンプソンだった。
彼は屋上から飛び降りてきて、周囲を警戒する。
「大丈夫ですか……? シャーロットさん」
「は、はい。なんとか」
シャーロットは感謝の言葉を口にしたかった。
だけど、少し前に先生を非難したばかりで、どんな顔をしたらいいのか分からない。授業までボイコットした――そんな自分を助けてくれるなんて。
「シャーロットさん、学校まで送ります」
「先生、この魔獣は一体なんなんですか……?」
ありがとうの言葉を言える勇気が出るまでは会話を続けたかった。だから気になっていることを口にしてしまった。
だがなぜか、アレン先生が悲しそうな顔をしている。
「……噂ではシンシアさんが闇魔術で作り出した魔獣だと」
「……!? ど、どういうことなんですか? まさか先生が――!」
先日までの行動と照らし合わせて、目の前の先生が犯人じゃないかと思って詰めようとする。しかし、シャーロットはあり得ないと思った。
自分に事実を伝える必要もなければ、助ける理由もないからだ。
「俺が悪いのは事実です。いくら罵ってくれても構いません。ただ、それでもシンシアさんと仲が良かったあなたには伝えた方が良いと思いました。今後のことも考えて」
「ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃ……」
シャーロットは言い訳をしている自分が見苦しくてしかたなかった。
でも、なんて感謝したらいいのか、謝ったらいいのか分からない。
こんな悲壮な表情をしている人に何を言えば、気持ちが伝わるのか。
「さあ、避難しましょう。恐らく街には死体が転がっているでしょうが、それでも立ち止まらないでください」
「は、はい……」
シャーロットはアレンの近くで魔獣から守られながら学校へと帰った。
◆ ◆ ◆
シャーロット含めた外出している生徒たち全員の避難を完了させた。
アレン、エラ、クレアは大講堂から抜け出して状況を伝えあっていた。
「クレアには魔獣の発生源を探してもらっていたけど、どうだった?」
クレアはまた方にネズミを乗っけている。
ちょっとかわいいような気もしてきた。
「軍の秘密警察にある地下牢が発生源らしいね。明らかにあの周辺だけ、魔獣の数が多い……というか多すぎて中がどうなっているのか分からないレベルだね」
闇落ちの実験をするなら最適の場所だろう。
機密性も高くて、何をしていても問題ない。
「エラの方は?」
「軍関係者の話を盗み聞きしてきましたけど、やっぱりシンシアらしいですよ」
「そうか……」
アレンは拳を強く握った。
もう一日早く動けていれば、こんな事態にはならなかったかもしれない。
だが、そんな後悔を味わっている余裕などない。
「シンシアを一刻も早く助けに行こう」
アレンは駆け出していた。
それにエラ、クレアも続いていた。
再び街へ出たアレンたち。
だがもう人影は無く、人の代わりに歩いているのは目の無い化物たち。地面には大量の血痕がある。
「まずはこいつらを押し返さないと進めないか」
アレンは化け物たちの群れに突っ込んでいく。
そこで
周囲に人がいないことは確認済み。
範囲内全ての生物の魂を弄り、命を奪う。
「やはりか……」
生物相手なら必殺技であるそれは通用しない。
こいつらには魂がないのだ。
寧ろ魔獣もどきたちに捕捉され、物量が襲いかかってくる。
「切断魔術《スラッシュ》」
とりあえず近場にいた数体は通常の魔術で蹴散らしたが道はできない。
「アレン先生、ここは私が承ろう……私のゾンビたち!」
クレアが指をパチンと鳴らすとどこからともなくゾンビの群れが。
どうやら、物陰にゾンビ化させた住人を隠していたようだ。
「任せていいのか……クレア?」
「いいとも。物量には物量で、生徒には先生を、だろう?」
クレアがゾンビたちを操りながら涼しい目で語る。
「ここは頼む……!」
「了解だ……シンシアちゃんを止めてくるんだ」
アレンはゾンビで押されていく化物たちを尻目に走っていくことにした。
恐らく敵はここでクレアに夢中になるはず……だったら。
「エラ……移動を頼んでもいいか?」
「勿論です。私の手を握ってください……」
エラの手を取った。どことなく頬が緩んでいるように見えた。
彼女のすり抜ける対象は触れてないと拡大できないため、アレンからすれば仕方ないボディタッチではある。
「秘密警察の入り口まで地下を移動します。本当はシンシアさんの目の前まで連れて行ってもいいんですけど、多分、ある程度は敵を掃討しないと話にならないと思うので」
「そうだな……頼む」
「よろこんで!」
ルンルンとスキップするような感じで地中を進んでいく。
地上の様子を伺いに時々、頭だけ出すがクレアのゾンビたちの方に化物たちが集まっている。こちらの動きには気づいていないようだった。
地下牢がある秘密警察の建物前までつく。
そこは街中とは比較にならないくらいの化物たちの密度。
人が通れる隙間なんてないほどで、ぎゅうぎゅう詰めだった。
「エラは安全な場所で隠れて待っていてくれ」
「……ついて行っちゃだめなんですか?」
エラは寂しそうにアレンのことを見つめた。
アレンとしてはここまで連れてきてもらっているのに、申し訳ないとは思う。
「この化物はシンシアの意思が無くても増える。攻撃するときに実体化するエラの能力だと、カウンターを受けやすいと思うんだ」
「確かに、この表情のない魔獣もどきとの読みあいが成立するとは思えませんけど…………」
ちゃんと理由を説明して尚、不服そうだった。
「……分かりました。先生の心配はありがたいので受け取っておきます」
だけど、エラは自分の胸にしまうかのようにアレンからの気持ちを受け取った。
「危なくなったら呼んでください。その時は、私がシンシアさんを――」
「それは俺の仕事だよ。だから、待っていてくれ」
「お気をつけて……」
「ああ、怪我をするつもりはないよ」
エラはアレンが遠ざかっていくのを見て少しだけ後悔した。
闇魔術は禁忌の力だ。
精神的に強いショックを受けることが覚醒する条件だと言われる異能。魔術師を目指す者なら誰でも知っている。私の場合は、過去のトラウマを掘り返される形。クレアさんの場合は、大切な者の喪失。
人によって闇落ちするような状況は異なるだろう。
だが冷静に考えるとアレン先生は、色々と考えた形での闇落ちだった。
自分が棺に閉じ込められていた時、アレン先生は魂に直接声をかけてくれた。
あれは私の精神がギリギリになるラインを見計らっていたともとれるが、逆に思考してみればちゃんと見ていてくれたのだ。
クレアさんのときだって、先生は嘘をついた。本当は蘇生が可能なのに、わざわざ完全に殺したふりをする。そしてモルガナさんの介入。
アレン先生はどこかにセーフティラインを引いていた。
だけど軍や学院に、果たしてそれはあったのだろうか。
私としてはシンシアさんの暴走……ここまでの被害になったのは、相当彼女に酷いことをしたからに他ならないと思っている。
そして本来闇魔術の覚醒というのは、それだけの悪意を生むものだと習っている。
闇落ちと言われて、暴れるだけ暴れて憎悪を振りまいて死ぬ。
だからこそ禁忌の力だと。
シンシアは底知れぬ闇に溺れてしまった。
先生だって、薄々分かっているだろうに。
なら、この事態を収束させるためには――。
「先生に、教え子殺しなんてさせたくなかったのになあ……」
行かせてしまった。
先生が、私を闇落ちさせたときのように強い目をしていたから。
「奇跡が起りますように」
もう、エラには祈ることしかできなかった。
この地獄みたいな世界で祈りなんて届くはずはないのに。